第48話
師匠との帰り道。学校から駅までの道のり。
駅前の横断歩道を渡り終えた時、ふと、今日の部活動中に先輩が言っていたことを思い出した。
「そういえば、先輩って、この頃、土日にはあそこで受験勉強してるらしいですよ」
そう言って、ある場所を指さす。駅から見て斜め右にひっそりとたたずんでいる建物。そこは、小さな図書館。僕は、最近訪れていないが、小学生の頃は時々訪れていた。中には勉強スペースが設けられており、制服姿の学生が何人も利用していたのを覚えている。
「そうなんだ。……じゃあ、もしかしたら、土曜日に会ったりするかもね」
図書館の方に顔を向けながら、小さく呟く師匠。
僕と師匠が将棋をするのは、決まって土曜日だ。だからこそ、先輩と鉢合わせする可能性も十分あり得る。
「そうですね。その時は、勉強頑張ってくださいって言わないとですね。あ、でも、そんなありきたりな言葉より、何か別の……」
「……相変わらず、優しいね、君は。でも、あの人も、そこまで気を遣われるのは、逆に困っちゃうんじゃないかな?」
口元に手を当てながら、クスクスと笑う師匠。
そんな師匠を見ていると、僕の中にある疑問が浮かんできた。いや、これは、疑問というより違和感に近いかもしれない。ずっとずっと僕の心の奥深くにあった違和感。
「師匠と先輩って、昔からの知り合いだったりしません?」
僕の言葉に、師匠はピタリと足を止めた。僕も同じように足を止め、師匠の方に顔を向ける。
師匠の顔には、穏やかな表情が浮かんでいた。だが、それは、いつものような穏やかさとは違う。まるで、作り物のガラス細工のような。綺麗なのに壊れやすい、そんな表情。
「どうして、そう思うの?」
「……いえ、特にこれといった理由はないんですけどね。何となく、そう思いまして」
そう、これは、あくまで違和感なのだ。特に、これといった確証があるわけではない。だが、どうしてだろうか。師匠と先輩との間に、特別な何かを感じてしまうのは。
「そっか」
師匠は、フッと息を吐きながら、ニコリと微笑んだ。そして、少しの間を空けた後、言葉を続ける。
「…………別に、知り合いじゃないよ。あの人とは、これまであまり話したこともないしね」
「……そうなんですね。すいません。変なこと聞いてしまって」
「ううん。勘違いは誰でもあるから。そう、勘違いは仕方ないんだよ。勘違いは」
そう告げて、師匠は再び歩き出す。その速度は、いつもよりも速い。取り残されないように、小走りで師匠の隣に並び、同じ速度で歩く。
勘違い。本当に、そうなのだろうか……。
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