第13話

 師匠との帰り道。学校から駅までの道のり。


 駅前にある大きな花壇。イベントごとがある時には、綺麗なイルミネーションが付けられ、駅前をきらびやかに照らしてくれる。だが、今は、何の変哲もない、ただの大きな花壇だ。花々が綺麗に咲き誇っているはずなのに、その姿は、どことなく寂しそうに思えた。


 いつも通りのゆっくりとしたペースで、花壇の周りをぐるりと半周。たどり着く先は、駅の出入り口。そこで、僕たちは、歩みを止める。


「じゃあね。また明日」


「……はい」


 フルフルと手を振る師匠。そんな師匠に、僕はとても短い返事をする。


 本当は、師匠ともっと一緒に居たいという思いはある。まだいろいろと話したいことだって。だが、僕の我儘で師匠を引き留めてしまうなんてできない。そんなの、師匠に申し訳なさすぎる。


 僕は、寂しい気持ちを抑え、ニコリと笑顔を作って見せた。


「…………」


「……師匠?」


 いつもの師匠なら、別れを言った後、駅の中に入っていってしまうはずだ。だが、今日は、なかなか動きだそうとしない。ただ黙って、僕のことをじっと見つめていた。


「…………」


「……えっと……あの……」


 師匠に見つめられた僕の心臓は、ドクドクと大きな音を鳴らしていた。もしかしたら、師匠にもこの音が聞こえてしまっているかもしれない。そんなあり得ない考えが、混乱する僕の頭をよぎる。


 不意に、師匠は、駅の出入り口とは違う方向へ歩き出す。歩く先には木製の真新しいベンチ。ベンチの前に着くと、師匠は、すっとそこに座り、僕に向かってちょいちょいと手招きをした。


 不思議に思いながら、ベンチの前へ。僕が師匠の前に立つと、師匠は、ベンチの空いているスペースをトントンと軽く叩いた。


「……失礼します」


 そう言って、師匠の隣に腰かける僕。


「…………」


「…………」


 無言が続く。師匠がどうしてこうしているのか、僕に何をさせたいのか、全く分からなかった。


 僕たちの前を、駅に向かう人たちが通り過ぎていく。彼らは、僕たちの方をちらりと一瞥した後、すぐに視線を戻し、興味なさげに歩いていく。今の彼らに、僕たちはどのように映っているのだろうか。もしかしたら、恋……いや、そんなわけないか。


 そんなことを考えていると、僕の隣から「ねえ」という声が聞こえた。


「……何ですか?」


 恐る恐る返事をする僕。


 そんな僕に、師匠は、いつものような穏やかな表情でこう尋ねた。


「今日、一本遅い電車で帰りたい気分でね。悪いけど、暇つぶしに付き合ってくれる?」


「……はい!」


 僕はとても短い返事をする。先ほどよりも、大きな声で。

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