ワカーヤマ

 真っ白な砂浜。

 青い海。

 ここはワカーヤマ。白浜。


 賢者と将軍は、この白い砂浜を散策していた。


 海を見つめる賢者。

 無言である。


「どうした?」

 その賢者の表情を不思議に思った将軍が聞く。


「いえ、ちょっと思い出していたので」


 賢者は答える。


 賢者は思い出していた。

 おきなわで起こったことを。




 あの時、賢者の称号と聖剣小狐丸の力によって精神世界に皆送り込まれたのだった。

 精神世界において、賢者はそれぞれの女性に好き勝手にされた。


 ただ、唯一・・・将軍だけが違っていた。


「こんなことは望んでいない!私は賢者と気持ちで繋がっていたいのだ!」


 将軍は、強靭な精神力で精神世界から単独で抜け出すことに成功した。


 将軍が、そこで見たもの。


 悪夢にうなされる賢者と、快感に悶え狂う女性たち。


 将軍は、賢者の拘束を解いた。

 そして悪夢が終わるまで抱きしめ続けていたのだ。

 



 あの時、将軍だけが賢者のことを気にかけていてくれた。

 賢者はそのことを思い出していたのだ。


 賢者が将軍を選んだのは必然であった。


「さて、宿に戻りましょうか?そろそろ、あの人が来る頃でしょうから」

「そうだな。正直、あまり来てほしくはないのだが」

「いや、いろいろ迷惑かけていますからそういうわけには行きませんよ」



 宿に戻ると、女将から来客を告げられた。

 部屋に戻ると、ちゃぶ台でお菓子を食べているチャラい男。


「あ!将軍おかえりです。いやあ、この饅頭うまいっすね。お土産に20箱ほど買って帰りますね」


 魔王軍、遊撃隊隊長であった。


「あ、魔王様からことづけっす。結婚式で、子供ができた報告楽しみにしてるって」

「ば・・・馬鹿者!!結婚前にそんなことしてない!不謹慎な!」

「え?そうなんすか?俺なんかあちこちに子供がいるのに」

「な・・・ふしだらな!隠し子がそんなにいるのか?」

「隠し子じゃないっすよ、隠してないっすから」


 この二人は、反りは合わないようである。


「すみません、結婚式の準備をおまかせしてしまって」

 このままだと喧嘩になりそうなので、賢者が会話に割り込んだ。

「あ!全然OKっす。盛大な結婚式をセッティングしますから。ちょうど一ヶ月後に決めましたっす」

「ありがとうございます」

「それまで、逃げ切れるんすかね?聖女様の動きが怪しいっすよ」


 すると、どこからともなく現れた黒装束の男。


「ご報告します。聖女と魔法使いがキョートで会合しているとのことです」

「内容はわかる?」

「は・・・情報が入り次第報告いたします」


 そして、フッと消える。


「へーー見事なもんっすねえ。うちにも人材を分けてくださいよ」

「まぁ、それもいいかもね」


 賢者は苦笑しながら答える。


「それにしても、将軍様と賢者様相手じゃあ。聖女様も手出しできないんじゃないっすかねえ」







 その頃。

 キョートのイケダ屋という宿屋の2階で、聖女様と魔法使いは極秘裏に会合を開いていた。


「でというわけ、将軍と賢者様が二人一緒にいたら手も足も出ませんよー」

「なるほどね。二人を引き剥がさないと駄目ね」

「でも、どうすればいいんでしょう・・・」

「ええ・・・なんとかいい案はないの?」


 聖女と魔法使いが途方くくれかけたその時。

 部屋の入口の襖がバーンと開いた。


「話は聞かせてもらったわ!」


 大きく開いた襖の向こうにいたのは。

 セーラー服、その腰に剣を履いた女性。


 異世界日本の勇者が大見得を切って立っていた。



「将軍様が結婚するなんて許さない!絶対邪魔してやるんだから!」




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