シガ

「お客様、よろしいでしょうか?」

「はい」

「お客様宛に、お手紙が来ております」


 扉を開けると、宿の女将が数通の手紙を手渡す。

 そして一礼して退室した。


 将軍は、広縁のソファに座ると受け取った手紙の封を切り読みだした。


「魔王様は、なんと言っていますか?やはり、怒っているでしょうか?」


 向かいに座っている賢者は手紙を読む将軍に聞いた。


「それが・・・、早めの新婚旅行のつもりでゆっくりして来いと書かれている」

「さすがは魔王様ですね」


 突然、魔王領から逃げ出した将軍と賢者。怒らずに送り出す魔王様は、度量が広い。


 今、宿泊しているのはシガのビワ湖の湖畔に建つ宿。

 将軍と賢者は、魔王領から船でフクイまで来て、このシガにやって来たのだ。


「それで、これからどうする?」

「まずは、この宿に泊まっている間に結婚式の手配をしてしまいましょう。結婚式をしてしまえば、きっとあきらめるでしょう」

「そうだな」


 結婚式の準備は、将軍様の部下にも手伝ってもらうよう、手紙で依頼する。

 式場や料理の手配。

 そして、結婚式の招待状の発送。


 それらを、二人で作業していく。


 やがて、夕方になる。

 夕日が湖を赤く照らしていく。


「本当に、ビワ湖は大きいな。まるで海のようだ」

 将軍が、夕日を見ながらつぶやく。


「きれいだ・・・」

 賢者がつぶやく。

「あぁ・・綺麗な夕日だな」

「え? あ・・・えぇ、綺麗な夕日ですね」

 なぜか、慌てたように答える賢者。

 顔が赤い。


 賢者は、夕日に照らされた将軍の横顔に見とれていたのだ。


「ん・・・?どうした?」

「い・・・いえ。そういえば、夜に湖のライトアップがあるそうですよ。見に行きませんか?」

「あぁ、いってみよう」



 夜。

 湖に噴水が上がる。

 その噴水が色とりどりの光でライトアップされている。

 なんでも、異世界と融合した時に見たものをまねているそうだ。


 将軍と賢者は、湖の湖畔からそれを眺めている。


「きれいだな・・」

「はい、綺麗ですね」


 二人は、どちらからともなしに手をつないでいた。

 肩を寄せ合って。


「結婚式が待ち遠しいな」


 結婚式は、2か月後に決まった。

 それまでは、魔王領に戻らず逃亡の旅を続けることにしている。


 だが・・・


 そこかしこから感じる、いくつもの監視の気配。

 おそらくは、聖女様に情報が洩れているだろう。


 まずは、この監視を何とかしなくては・・・

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