第5部 現代日本で逃げ回る。
第5部 プロローグ 勇者と勇者
私立白百合女学園。
全国でも有数のお嬢様学校だ。
カトリック系の女学校で、校則と規律が非常に厳しい。
だが、その日の昼休み。
廊下の窓から外を見て、ひそひそと話をする学生が多数。
「何やってるの!?」
「あ・・・せ・・生徒会長様!」
清楚な美人で品行方正。多くの生徒から、憧れられ慕われる生徒会長が話しかけてきた。
「で、どうしたのかしら?」
「あ・・・あの、校門になにやら男の人がずっと立っているんです。みんな、誰かを待ち構えているんじゃないかと心配してて」
生徒会長が、窓から校門を見る。
校門の陰に、確かに誰かが立っているようだ。
「わかったわ、様子を見てくるからあなたたちは教室に戻りなさい」
「生徒会長!危なくないですか!?」
「大丈夫、任せておきなさい」
生徒会長は、武芸においても自信があった。
簡単にやられることは無いと考えている。
木刀を持ち、校門に向かう。
校門の陰、小柄の男が塀にもたれて立っていた。
白いニット帽。オーバーサイズのグレーのパーカーにぶかぶかのワークパンツ。
ストリート系のファッション・・・・・ちょっと古めのファッションセンスなのだが。
「あなた!この学校の何の用かしら!?」
鋭い声で、相手に問いただす生徒会長。
すると、意外な返答。
「やあ、こないだぶり」
にっこりと片手を挙げて笑う、人畜無害に見える童顔。中学生くらいにしか見えない。
生徒会長は、膝から崩れ落ちてしゃがみこんだ。
「なんで!?何であんたがここにいるの!?」
もちろん、この二人。
日本の勇者と異世界から来た賢者であった。
「いやあ、もう一度これが食べたかったんだよね~」
賢者は嬉しそうに箸をとる。
向かいには、不機嫌そうな日本の勇者。
「あなた、普通は女子高生と話すんだったらこんな店に来ないんじゃないの?デリカシーないわね!何考えてるの!?」
「この、こってりしたスープ。たまに食べたくなるんだよね」
ここは、こってりスープで有名なラーメンチェーン。
確かに、美人の女子高生と入るような店ではない。
「で・・・あんたは、もともとは日本の会社員で死んだあとに異世界に転生していたってこと?」
「そう、だからこっちに間違って日本に吸い込まれちゃったんだよね」
「それで、聖剣も持ってきたのよね?」
「それがね、・・・置いてきちゃった。てへっ」
眉間にしわを寄せる勇者。頭痛を押さえるように眉間を押さえた。
「で、手持ちのお金もないしね。早く帰りたいんだよ」
当面の金銭は、手持ちにあった金貨を換金した。その際に、洗脳スキルをつか・・・・。まぁ、なんとかした。
「早く帰るって・・・どうやって帰るのよ」
「だから来たんだよ」
ラーメンをすするのを中断して、まじめな顔をして言う。
「・・・ちょっと
だーん!!
机を叩きつけて勇者は立ち上がって全力で叫んだ。
「ダメに決まってんじゃないのよ!?何考えてるの!?」
「なんかいい方法無いかなぁ?」
「知らないわよ」
公園に移動して、話す二人。
「聖剣を探すか・・・作るか・・・」
「聖剣を作るって、普通出来ないわよ」
「そうなんだ?」
「なんで疑問形!?」
なんで、こんな男に将軍様が・・・
この賢者、かなり
間違いなく、将軍さまの前では猫をかぶっている。
むくれ顔で賢者を見る。
その時・・・思い出した・・・
「あ・・・!」
「ん?どうしたの?」
「そういえば・・・あんたのこと、上に報告してたんだった・・・」
「上?」
「上司よ・・・そして、その報告が更に上の方に伝わって大騒ぎになったの」
「大騒ぎ?」
「もしね・・・あんたが、日本に間違って来ることがあったら・・・」
「あったら?」
「バチカンが、生死を問わず拘束するように全世界に指令を飛ばしてるの」
「へ?」
「そして・・・中東の各族長は・・・あなたの抹殺指令を出しているの・・・」
「えぇ?? なんで!?」
驚く賢者。全く身に覚えがない。
「あなたが、魔王領に住んで魔王と手を結んでいて・・・って報告したら・・・
こっちの宗教のトップから・・・あなたは、紛れもなく異端者だって認定したの」
「・・・・まじですか?」
すると、公園の入り口から黒い修道着を着てフードをかぶった数十人の集団が走って来た。
他の入り口を見ると・・そちらからも同じような集団。
「その・・・こっちの魔法の技術だと・・・あなたが異世界から来たのばれてるわよ?」
「そのようですね!?じゃ!!」
慌てて、立ち上がり逃げる賢者。
「じゃあ、頑張ってね。万が一捕まったら、将軍様のことは任せてね~」
にこやかに、手を振る勇者。
『認識阻害スキル・高速移動スキルを発動』
だが、こちらの世界では認識阻害スキルはせいぜい、影の薄い印象を与えるだけ。
高速移動スキルは、かなり足が速い人間というくらい。
とはいえ、時速60~70Kmくらいでは走れるので、かなり速いのだが。
賢者は、塀を飛び越えることでなんとか公園から抜け出し、街のメインストリートに走って来た。
すると、向こうから円月刀をきらめかせて走ってくる十数人の肌の色の濃い痩せた男たち。
どう見ても、ヤル気満々である。
「うわぁぁぁ・・・!!」
角を曲がり、路地に入っていき、塀を飛び越え・・・
賢者は、街中を逃げまわることになったのだ。
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