フクオカ

 街を歩く賢者の頭上を、飛行機が飛んでいく。

 市街地なのに、かなりの低空。


 あぁ・・・フクオカは空港が近いから、市街地でも低空飛行なんだろうなぁ・・

 

「あれ?」

『どうしました?』


 賢者は、何かに違和感を感じた。

 何かがおかしい。


「ま、いいか」


 違和感の原因を考えてもわからなかったので、気にしないことにした。




 ここはキューシューのフクオカ。

 魔王様と聖女様に迫られた賢者は、とにかく遠く離れたところと考えてキューシューにやって来たのだ。


 ここなら、誰にも会うことは無いだろう。


「あ~!賢者様!ひさしぶり!

 こんなところで会うなんて奇遇だね!」


 背後から、大きな声をかけられて・・・驚く賢者。ゆっくりと振り返る。

 

そこには、満面の笑みのロリッ娘魔法使いが、ブンブンと手を振っていた。




「フクオカは地元なんですよね~。それで、聖女様にお願いして魔法研究所をフクオカに作ってもらったんですよ~」

「はぁ、そうだったんですか」


 魔法使いは、賢者を案内してうどん屋に入っていく。


「フクオカに来たら、まずはうどんでしょう。私のおごりだから、遠慮なく食べてね!」

「え・・・いや悪いですよ」

「私の方が年上なんだから、おねーさんに任せておいてよ!」


 魔法使いは見た目は中学生くらいにしか見えない。

 だが、魔法使いは長命のエルフなのである。

 本当の年齢は教えてくれないが、賢者より年上だそうである。


「ありがとうございます。助かります。

 ところで、フクオカは豚骨ラーメンが有名と思ってたんですが、うどんも有名なんですね」

「そうなのよ、ごぼう天うどんが名物なの!食べてみて」


 すぐに出てきたうどん。

 ごぼうのてんぷらが乗っている。

 ぶつ切りのごぼうのてんぷら。豪快である。


 麺をすすると・・・賢者は、ちょっと驚いた。


「へえ・・・とても柔らかいんですね。それに、出汁が優しい味です」

「そうなのよ、フクオカのうどんはこの柔らかさが良いのよ」

「驚きました。おいしいですね」


 魔法使いは、ニコニコして言った。


「せっかくだから、今日はフクオカを案内してあげるよ。観光するところたくさんあるから」

「え?でも、悪いですよ。忙しいんじゃないんですか?」

「今日は暇だからだいじょーぶ! さぁ、行きましょう!」


 実は、魔法使いには下心があった。以前から、賢者のことを狙っていたのだ。

 賢者が地元に来るなんて、千載一遇のチャンス。逃すつもりはなかった。


「まずは、海の中公園の水族館からね!」


 そのあと、賢者は魔法使いの案内でいろいろな観光地を巡った。

 なにしろ、魔法に長けている魔法使いである。

 移動に、転移の術を使ったりする。


 コクラに転移して、地図の博物館見学。きれいな建物で、展示内容も興味深かった。

 テンマン宮で、有名なお餅を食べた。

 イトシマの夫婦岩の夕日を見た。とても美しい景色であった。

 一日中、一緒に遊んだのである。


 そして、今はフクオカに戻って来てラーメンを食べている。

「やっぱり、豚骨ラーメン美味しいですね。やっぱり本場は違いますね」

「でしょ~!?やっぱり、ラーメンと言えばこれよ!」

「フクオカの人って、ハリガネとか粉落としとか。とにかく固めで食べるのかと思ってました」

「いやいや、全員やるわけじゃないわよ。私は普通が良いかな」


 食事が終わり、ゆっくりと夜の街を散策する。

 魔法使いは、賢者の手を握って来た。


「実はね。前から賢者様にお願いしたいことがあったの。私の魔法の研究に関することなんだけど」

「魔法の研究ですか?」

「そう、魔法の研究に協力してもらいたいのよ」

「僕にできることなんですか?」


 魔法使いは、真剣な顔で話してきた。


「魔力は個人差があるんだけど、主な要因として遺伝の影響が大きいとわかってきているの。その研究には強力な魔法使いの遺伝子が必要なの。

魔力の強い賢者様なら、条件がぴったりなの。協力してくれないかしら?」


 魔法の研究に取り組む、真剣な研究者の顔。

 それを見た賢者は、協力してもいいと思った。


「はい、遺伝子ってどうすればいいんですか?」

「ほんと!?ありがとう!じゃあ、あそこにしましょうか?」


 魔法使いが指をさした先。

 明るくライトアップされた、豪華なお城のような建物。



 どう見てもラブホテルだった。



「私とあなたの子供は、きっとすごい魔法使いになるわ!今から楽しみ!

 さぁ、行きましょう」

「はぁ!?」

 うきうきと、ラブホテルに向かおうとする魔法使い。


 賢者は、茫然とした表情で建物を見上げ、立ちすくんでいた。


 その姿・・・だんだんと存在感が薄くなっていき・・・フッと消えた。

 認識阻害スキルである。


 それは魔法使いですらいつ発動したかわからなかった。

 非常に高度な技である。


「あ!いつのまに!!」


 魔法使いは、周囲を探知能力でスキャンした。数kmはいかなるものをスキャンできる。

 だが、賢者の痕跡は全く見つけられなかった。


「さすが・・・私に検知できないなんて、やるわね」


 魔法使いは、それでもうれしそうに微笑んでつぶやいた。


「ますます、欲しくなった。

 ぜったい手に入れて見せるわ。賢者様の遺伝子♡」



◇◇◇◇◇◇

 作者注:

 異世界なのに、飛行機があるなんておかしい!! って言わないでください。

 第4部への伏線なのです。

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