フクシーマ

「はぁ・・・はぁ・・・」


 フクシーマのアイズシモゴーで聖女たちを巻いた賢者はそのまま逃げ続けた。

 山を越え、タダーミを過ぎ・・・

 ようやく、立ち止まった。


「つ・・疲れた。喉も乾いた・・・」


 ふと見ると、看板が出ている。

 なになに? 天然炭酸水??


 のぼりが立っていて、看板も出ている。

 近くに行くと、泉のようだ。


 試しに飲んでみる。

 うわぁ・・・本当に炭酸だ。

 微炭酸くらいだけれど、冷たくておいしい。


「ごくっごくっ・・・」


 遠慮なしに、たくさん飲んでしまう。


「ふぅ・・・生き返ったぁ・・・」


 世の中には、不思議な泉があるもんだなぁ。


 見回すと、山の中。


「これから、どうしよう・・・」


----


『拳士スキルがレベルアップしました』『拳士スキルがレベルMAXになりました』


 この町に来て、毎朝の日課。

 町のみなさんがやっているので、教えてもらってやっている。


 毎朝の太極拳。


 なぜ、フクシーマのキターカタで太極拳なんだろう?

 そう思いながらも、朝に体を動かすのは気持ちいい。

 しかも、このゆったりとした動き。このスローさが気に入った。

『新たなスキル、老師を獲得しました』


 なぜか、このゆったりした動きでもスキルがもらえる。不思議だ。


『太極拳を甘く見てはいけません』


 そうなんだ。


 太極拳の練習(演舞)が終わったら、早速バイト。

 僕のバイト先は、小さなラーメン屋。


 キターカタはラーメン屋さんがたくさんある。中には全国チェーンになったところもある。けれども、僕が働いているのは小さなお店。

 できるだけ、目立たない方がいい。聖女に見つからないようにしないと。


 それにしても、朝の7時からラーメン屋が開店するのには驚いた。キターカタでは普通らしい。みんな朝ごはんにラーメンを食べにくる。朝ラーメンっていうらしい。

 僕も、食べてみたけれどキターカタのラーメンはこってりじゃないから朝ごはんにも確かにいい。癖になりそう。

 僕の地元の、豚骨醤油だったら、朝ごはんなんて考えもしないなぁ・・・



『中華料理スキルがレベルアップしました』

 僕は、ここでも厨房に入っている。

 朝ラーメンは地元の常連ばかりである。そこまで忙しくはない。


 朝ラーメンの時間が過ぎ、お昼までのひと時。

 僕は、ご主人に聞いてみた。


「僕は、もともと農家なんです。このあたりの名産って何ですか?」

「そうだなぁ・・・フクシーマの中通りの方は桃とかの果物なんだけど、この辺りは米かなぁ。あとは蕎麦だね」

「蕎麦ですか」

 僕は、そばを作っているところは見たことがない。興味が出てきた。

「そうそう、アスパラガスも有名だね」

「アスパラガスですか」

 アスパラガスか・・・今度、作っている農家を探してバイトさせてもらえないか聞いてみよう。

 アスパラガスも作ったことがないから楽しみだ。


「さ、そろそろお昼だんべ。忙しくなるぞう」


 忙しいと言っても、小さなお店。客の量は、いつもそれほどでもない。

 僕は、厨房に入ってスープの味を確認する。

 うん、これなら大丈夫。


『伝説のスープつくりのスキルを獲得しました』

 なにそれ…


「いらっしゃい・・・えぇ!?」


 お店の方から、ご主人の戸惑った声がする。どうしたんだろ?


「せ・・・聖女様?」

「しぃー!!隠密なのよ。内緒にしてね」

「は・・・はぁ」


 ええぇ!!

 ヤバい!!


 僕は息を殺して、逃亡の機会をうかがった。

『隠密スキルを獲得しました』


「聖女様、ほんとにラーメンを食べるんですか?」

「あら、ラーメンは嫌い?」

「うち、地元のラーメンは豚骨バリカタがデフォルトなんですよね。豚骨以外のラーメンって食べたことなくて」

「何事も経験よ」


 僕は、息を殺して気配を隠した。

『隠密スキルがレベルアップしました』『認識阻害スキルを獲得しました』


「じゃあ、全員ラーメンでお願いね」

「ありがとうございます! ラーメン10人前よろしく!」


 ご主人の声。仕方なく僕はラーメンを作った。

 麺をゆでて、どんぶりに醤油たれを入れ、スープを注ぐ。

 麺を泳がすように入れ、チャーシュー・メンマ・ネギを乗せる。


「はい、いっちょう上がり―」

 声を変えてご主人つげる。


 ここは厨房の中。多分、客席からは見えないはず・・・


「うわあ、あっさりしてるのにコクがあるんですね。美味しいですわ」

「へえ。豚骨以外でもわるくないですね」


 聖女と魔法使い。そして取り巻き達が夢中で食べているようだ。

 麵をすする音を聞きながら・・・僕は、そおーっと裏口から外に出た。


 なんで、裏通りの小さな店にわざわざ聖女たちは来たんだろう・・・

 不思議に思いながら、僕はキターカタの町を後にした。


 目指すは北。険しい山の向こう。

 あの山の向こうには越えては来ないだろう・・・きっと。



 その頃、聖女たち。

「それにしても、キターカタのラーメンを食べられてよかったわ」

「くれぐれも、他の地方にばれないようにお願いします」

 取り巻き達のあせる声。

「そんなに、気にすることかしら?」

「聖女様、わかってないですね」

 魔法使いのロリッ娘が言う。

「もし、聖女様がキターカタのラーメンをえこひいきするなら、私の地元のハカータは黙ってないでしょうね」

「えぇ・・・そうなの?」

「ラーメンは文化ですよ。地元のラーメンが一番ってみんな思ってるです」

「そ・・・そうなんだ」

 できるだけ、目立たないお店を探した結果。たまたま賢者がバイトしていた店に入ったのであった。


 


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