過保護な加護者

「イズミ、一体誰に加護を与えたんだ?」



 その場にいる誰もがズバリ聞きたかった事だった。それもそうだ。慣れていなかったとはいえ、3日も寝込むくらいだし、何よりご主人が加護を与えたいと思う相手に皆興味があった。


 そんなわざわざ聞かなくても、チュール様の加護を持つエーギル様ならご主人の心の内がわかるのではと思ったが、どうやらご主人の持つ、隠蔽の神ヘル様の加護の効果によって、ご主人の心の声やステータスはご主人が許可しなければ見えないようになっていて、エーギル様でもご主人の考えは読めないそうだ。


 皆は動きを止め、ゴクリと唾を飲み込む。


「誰だろう、わかんない」

「…………あの、ご主人、さすがにわからないというのは、説明がつかないのでは」

「だってわからないんだもの。名前も知らない子だから」

「イズミっ、そなた名も知らぬ者に加護を与えたのか!?」

「うん」

「……」


 あまりの衝撃に、皆声を失う。


 それはそうだ。3日も目を覚さない程の力を使って加護を与えた相手の事を「よく知らない」というのだから。


「なんかね、歩いてたら道端にスヤスヤ眠る赤ちゃんがいたの。パパとママ、うっかりそこに置き忘れちゃったみたいでね。人気のない所だったから、このままだと死んじゃうと思って。可哀想だし、この子に加護を与える事にしたの。もしかしたらパパとママが気付いて戻ってきた時に見つけやすくなるかもしれないし、多少の事があっても加護の力で生きられるかなって。……あれ? 皆どうしたの?」


 ご主人の話を聞いて、皆思い思いに身体を震わせて涙した。


「なんて……なんて良い子なんだ、イズミはああああああ」


 エーギル様にいたっては号泣している。


「そんなおじいちゃん、大袈裟な」

「大袈裟ではない!! イズミは3日間眠り続けてたんだぞ! それ程までに力を使って……見ず知らずの赤ん坊を……」

「それよりご主人、その赤ん坊を1人にして大丈夫なのですか?」


 おそらくだが、両親はうっかりでそこに置き忘れたのではない。意図的に置き去りにしたのだ。ならばその場に戻ってくる可能性は極めて低い。


 このままでは、赤ん坊の身が危ない……!

 せっかくご主人が身体を張って加護を与えたのだ。ご主人に仕える神獣フェンリルの名にかけて、赤ん坊の命はこの私が何がなんでも守り抜く……!!



「大丈夫。ご両親その後すぐ戻ってきたから。その場で引き渡したよ」

「へっ? あ……そうですか…………それはよかったです…………」





 穴があったら入りたい……!

 そして出来る事なら暫くそこで潜っていたい……。


 …………あの、オーディン様、「ま、そういう事もあるさ」って顔で、私の肩に手を置くのやめてもらっていいですか。



「初めて加護を与える相手が、見ず知らずの赤ちゃんかー。なんかイズミンらしくていいな!」

「俺的には、『加護大会』みたいなの開いて、優勝した奴に加護与えるってのもいいと思ったけどな!」


 なんだ、その大会。

 この男、神の事をなんだと思っているんだ。


「まぁいずれにせよ、赤ん坊が相手という事は、やはり魔力を必要以上に使い過ぎてしまったようだな。私がしっかりと教えなかったせいだ。許してくれ、イズミ」

「そんな、おじいちゃんのせいじゃないよ。私が勝手にやったんだから。それに今はこの通りもう元気だし」

「本当に優しい子だな、イズミは。それに比べて……」


 そう言って、エーギル様はギロリとオーディン様の方を睨みつけた。オーディン様は寒気を感じ、ぎこちなく振り返る。


「そもそもオーディンが加護の書物を下界に隠したりしなければこんな事には……。加護なんて不要な事……イズミには一生隠し通すつもりだったのに…………チッ」


 えっ、エーギル様、今舌打ちしました!?


 な、なんというか、エーギル様のイメージが日に日に崩れていく……。



 そして、ダメ押しとばかりにさらに爆弾を投下する。


「それでな、イズミ。今後もこういう事があったら心配だから、ここで一緒に住む事にしたよ」

「「「…………は?」」」


 有無を言わさぬ雰囲気でニコニコ笑うエーギル様。



 どうやら「ではまた」と言って行った先は天界ではなく、自分の担当する世界だったようだ。どうやったのかは知らないが、数年分の信仰心は集めたから、暫くノータッチでも問題ないらしい。不当な手段でなければいいのだが……。

 孫の事となると、恐ろしいな、この方は……。




 何はともあれ、この家にまた新しい家族が加わった。

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