第三十三話 僕の中の痛み

 体の自由が戻ると同時に魔力も操れるようになった。

 助けてくれたとはいえ、勝手に動いたボーンたちが少し怖くて、操ってみた。

 右手を挙げさせて、降ろす。足踏みもさせてみたけど、なんの問題もなく僕の意思どおりに動かせる。


 無理矢理、説明をつけるとすれば、最近はほぼ無意識下で動かしていたから、その流れで僕自身が危ないと思ったことでその意識を感じて無意識下で操作した? でもあのときは、体どころか魔力も操れなかったような気もしたけど……危ないと感じる前に察知して動かしていたのかな? うーん、わからないや。たぶん無意識でやったんだとは思うんだけどね。


 僕がいろいろ考えていると、遠くの村の門から父さんたちが少し急いで戻ってきた。

 

 更にそのうしろから母さんと母さんに抱かれたアリーチェもいる、こっち来るのは珍しい。

 あれ? アリーチェ母さんに抱きついてるけれど、あれはぐずってるときのアリーチェだな。

 アリーチェのことなら離れていてもよく分かる。


 僕の方に向かっているみたいだけれども、早くアリーチェを慰めようと僕からも駆け寄ろうとしたんだけど、何故か先程の激痛が頭をよぎり足が止まった。

 駆け寄ることを躊躇したことにすこし情けなくなったが、気を取り直して動こうとしたけれど、さっきのことがまた起きたように体が動かない。


「あ、あれ? おかしいな。アリーチェが泣いているかもしれないんだ、そばにいてやりたのに」


 そんな僕の思いとは真逆で、体は動かない。


 そして胸の痛みといつの間にか大量にかいていた体が冷たくなるほどの冷や汗で、体の感覚はあるのは分かる。

 けれど、どう動かそうとしても足から根が生えたように、ここから動くことを許してはくれない。

 僕の内からここから動くなと命令されているようだ。


 それでも無理やり体を動かし、アリーチェの下に行こうしたとき、胸の激痛と供に意識が飛びかけ足から力が抜けて、ぺたんと尻餅をついてしまった。


 尻餅をついて、座り込んだ形になったところで痛みが消えて、そこで気が抜けたのか少しボーっと、してしまった。




「おいルカ! 大丈夫か!」


 少し呆けた頭だったけど、その声に顔を上げると父さんがその声の通り焦った顔で、直ぐ側までに来て僕を覗き込んでいた。

 

 それからすぐに、座り込んだ僕の体に温かいぬくもりがギュッと抱きついて来た。

 ──ああ、このぬくもりは、アリーチェだな。


 分かってはいるけれど、ぬくもりの正体をみるために父さんから顔を下げると、やっぱりアリーチェで、つむじが僕の目の前にあった。

 そのつむじは僕の胸に顔をこすりつけるようにしているので左右に揺れていた。

 

 抱きついているアリーチェを抱きしめ返しながら、その頭越しに、まだ遠くに母さんとトシュテンさんが、駆け寄ってくるのが見えるので、父さんはアリーチェを連れてここまで急いできてくれたようだ。


「トシュテンの家の近くで会ってから、ずっとお前のところに行くとアリーチェがぐずるんでな、一緒につれてきた。ここにも俺が抱えてな」


 僕の母さんたちを視る視線に気付いた父さんが、軽く経緯を説明してくれた。


「それよりもお前大丈夫か? つらそうな顔して座り込んでたぞ」

「うん、ちょっと疲れちゃったかな? そっちに行こうとしたら力が抜けて座り込んじゃった」


 心配掛けないためと思い、体が動かなかったことと、痛みが走ったことを隠して父さんに話していたら、アリーチェががばっと顔を上げて、大きな声で怒った。


「めーーーー!! にいたん、うそついちゃだめなの!! にいたん、いたいいたいだったの!!」

「ア、アリーチェ?」

「いたいいたいめーなの!!」


 アリーチェは怒りながらも僕の胸を小さな手で心配そうに撫でたあとに、その場所におでこを当ててまたこすりつけるように抱きついてきた。


 僕は初めてアリーチェに怒られたことと、同時にアリーチェが僕の場所だけじゃなくて、状態までみえていたことに、二重にびっくりし硬直してしまった。

 その僕に父さんがこわばったような顔で問いかけてくる。


「ルカ、アリーチェの言ったことは本当か?」

「う、うん、ごめん。 でも、ちょっとだけだよ、少し痛いくらい──」


 そう言おうとしたらアリーチェが、ぽかぽかと僕の胸を叩きはじめたのでまた言い直す。


「──結構痛かったけど、今はなんともないよ。急に痛くなって、それで体動かなかったからびっくりしただけだよ」

「本当か? 後で神父様に見てもらうが今は大丈夫なんだな? 本当だな?」

「うん、本当だよ。今は痛かったことも、わからないくらいなんともないよ」


 そう言いながら、立とうと腰を上げたけれど、それは父さんが僕の肩に手を置いて静止させた。


「──もう少し休んでろ、ソニアも、すぐに来る。俺は他の奴らを集めきゃならん」

「うん、いってらっしゃい」

「アリーチェもルカを頼んだぞ」

「あい!」


 僕に抱きついたままアリーチェは片手だけ上げて、元気よく父さんに返事をしていた。

 それにうなずきながら父さんは他の作業場に走っていった。


 父さんの後ろ姿を見つつその先を見てみると、この軽い騒ぎは、僕と父さんの作業場は他の人達と結構離れているのと、各自の作業に集中していたせいか他の人達には気づかれていなかったみたいで、遠目に作業しているのが見えた。



 父さんが行った後すぐに母さんとトシュテンさんが駆け寄ってきて、母さんにはそのままアリーチェごと抱きしめられた。


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