第三十二話 中と外と練習
「おっと? トシュテンが来たな、ちょっと慌ててるみたいだが、親父関連でなにかあったか?」
開拓地での作業中、父さんが掌で目の上にひさしを作るようなポーズで、村の方向を見ていた。
たしかにトシュテンさんが見えるけど、僕には小さく見えていて、慌てているかどうかなんてわからない。
たぶん視力の強化というので見ているのだろう。
「ちょっと行ってくる。お前はいつも通りやっててくれ」
「うん、わかった」
遠ざかる父さんの背中を見ながら、別のことをやりながらでも無意識下で動いているボーン二体をよそ目に、手に持つ鍬に意識を移す。
この前から始めた鍬の強化だけど、なかなかに厄介だ。
木でできた柄の部分、鉄でできた鍬の部分で魔力の通し方が違うのでかなり繊細な魔力の操作が必要になっている。
ボーンが持つ鍬に魔力を通せなかったのも、それのせいだと思う、ボーンに通す魔力と鍬に通す魔力の道が違いすぎるからボーンを通してだと強化できなかったんだろう。
そして、それならばとボーンから鍬に送るの魔力を増やして、無理やり通そうとしたとき、鍬の柄にビキリという音ともにヒビが入ってしまった──それを父さんに見つかって、道具は大事に使えと普段より強めのげんこつをもらった──その、失敗からただ強い魔力を籠めればいいってわけじゃないとわかった。
そこから理解できたのは、物には魔力に対する許容限界があるらしく、限界が来ると壊れちゃう。
ただ、僕の生活魔法で創った物で試してみたんだけど、魔力がスムーズに流れていると、いくら強く流していても許容限界は来ずに、物が持つ魔力の許容範囲を超えると、そのまま外に放出されるみたいだった。
でも、少しでも流れが滞ってしまうと、魔力が弱いうちはいいけれど、流す魔力を強くしすぎると、滞った部分に魔力溜りみたいなのが発生して、そこから素材の限界を超えちゃって、ダムに穴が空いたように一気に流れ出しその力で、ヒビが入ったんだと思う。
ヒビが入る前にはやばいと思って、魔力を流すのはやめたのでヒビ程度ですんだのだけれども、流し続けていたらあの感触からいって、多分粉々に砕けたんじゃないかな?
少し気になったので、そこら辺に落ちている石を拾って、魔力を通してみる。
うん、自然物も魔力が通りづらいな。
最近練習がてらに、こうやって魔力を物にスムーズに通すことを試していたら、なんとなくだけど物の構造がわかるようになってきた。
僕が試しただけだけど、鍬の柄の部分である木の棒より、鍬の鉄部分のほうが通しづらく、石はその間くらいかな?
ただ、鉄が通しづらいと言うより、鉄の中の不純物のせいで複雑になってると思う。
生きてる人には試したことはないけど、村に生えている樹に試してみたら簡単に弾かれて通る気なんて微塵もしなかったな。
今はこうやって物体の中に通してるけれど、以前の僕や、今、父さんたちがやってるみたいに、物に魔力を纏わせるのはそう難しいことじゃない、こういった拾ったものでも、すぐに出来る。
ただ、魔力を纏わせるだけと流すのでは難しさがぜんぜん違う、中に通すときには針の穴に糸を通すような繊細さがいる。
それから、外に魔力が漏れないよう石に魔力遮断をかけてから、握った指先から魔力を通して強めていった。
魔力を強くするとやはりうまく流れないような感触がある。
強化ならもっと操作して綺麗に流すことを練習しないといけないんだけど、今回はそれが目的じゃないから、そのまま中に留まらせるように魔力を強めていく。
ただの石で本来、魔力はほとんど持たないものだけど、こうやって魔力を流していくと、存在強度といえばいいのかそういった感じが強くなっていく。
ただ、魔力を纏わせるとは違い、その内部にある道みたいなものに、魔力を流すことで物質との一体化みたいな物がおき、存在強度がグンと上がる。
これが自己強化を行うと僕たちが力が強くなったり、体が頑丈になったりするということなんだろう。
そんな事を考えながらも、ふと石の方を見てみると限界が近いらしく圧力が高まっている感じがする。
あ、あれ? この感じ、このまま限界超えるとまずくない? そういえば鍬の柄もヒビ入ったとき結構な音と衝撃を立ててたような。
破裂した後のこと考えてなかった。って、やばい! もう限界をほぼ超えて、ヒビが入る寸前だ。限界まで込めると、どうなるか気になったから軽い気持ちで実験しただけなのに、いきなり身の危険が降って湧いたぞ! 全部自業自得だけど!
「あわわ、どうしよう」
手放したいけど、最大まで溜めたらどうなるのかも見てみたい。
あ、そうだ。自己強化をかけて防御しよう。
あ、今、思いついた、いつもの自己強化プラス魔力を掌に覆うタイプでの強化だ。
覆うやつは効率が悪いと言っても、効果がないわけじゃない。
ダブルでやって少しでも防御力をあげよう。
これを二重強化と名付け……いや、名付けはやめておこう。
自己強化をかけた上で魔力を覆わせたら少し魔力が暴れたけど、制御して落ち着かせる。
ガチりと噛み合ったようで、僕の腕に何があっても大丈夫という万能感が宿る。
手はこれでいいとして、後は音がでないように僕の周辺を風魔法で防音して、破片が飛び散らないように大きめの水の玉を作ってその中に突っ込んだ。
そして、魔力を込め続けた石がバガン!!と激しい音を立てて砕け散った。
遠くにいる父さんたちの方をちらりと見たけど、こちらには気づいた様子もないので外には漏れてないだろう。でも、なんか焦ってる感じ? でもとりあえずはこっちの証拠隠滅しとかなきゃ。
石の破片も飛び散ろうとしたけれど、水の抵抗よって勢いを殺された後、重力に従い水の玉を抜け大きな塊は下に落ち、小さな物は水に浮いていた。特に被害がないことを確認した後、水の玉を地面に落下させ吸い込ませ、風魔法の防音も解いた。
「危なかった―。こんなことバレたら、また父さんにげんこつを食らうところだった。でも、魔力を込め続けるとこうなるのか、結構危ないな」
手や腕を見てみるけど、掌の上で破裂したのにかすり傷一つない。そんなに威力はなかったのかな? これなら自己強化だけで足りたかな?
「うん、怪我はないみたい」
魔力だけで、破壊できたけどこれ効率悪いな。
腕の強化をまだ解いてないから試しとばかりに、落ちている石をもう一つ拾って握りしめてみると、バキリと簡単に砕ける。うん、簡単。
石を放り捨てて手についた石の粉を払った後、さっき見たとき父さんが焦っている様子だったから、もう一度そちらを見てみると、トシュテンさんと一緒に村に戻っていく後ろ姿がみえた。
やっぱり何かあったのかな? ちょっと聞きに行ってみようかな?
──このとき僕が思ったのはそんな本当に軽い気持ちだった。
だけど、仕事をやめて村に戻ろうと一歩踏み出そうとしたとき、胸の奥から今までとは比べ物にならないくらいの激痛が走った。
「ぐぅっ!」
僕の口からはあまりの痛みのために、唸り声が漏れる。
そして、体の自由が失われ、体に纏った魔力も霧散する、体が硬直して一歩踏み出そうとしたせいでバランスを崩し、僕は地面に向かって倒れ込んでいく。
その先にはさっき砕いて先の尖った石があって、僕は自分の顔にそれが近づいていくのをスローモーションのように、ゆっくりと見ていた。
ぶつかる前になんとか眼をつぶることができ、訪れる痛みに耐えれるように歯を食いしばった。
そして、ガツンと体に衝撃が走る……が、痛みは訪れない。
そう、僕の体が地面に落ちる前に誰かに左右から支えられていた。衝撃は支えられたときに起きたものだった。
つぶっていた目を開けると、開いた先にはぶつかろうとした石があり、ちょうど僕の目の辺りだった。
そのことを認識して僕はぶわりと冷や汗をかいた。
「あ、ありがとうございます」
僕はなんとか支えてくれた人たちにお礼を言って、ようやく自由の戻った体で顔を上げた。
だけど、僕の目に入ったのは人ではなく、目も鼻も口もない茶色い丸い顔、肉も皮もない胴体、骨のような手足を持った二体の物体だった。
そう、僕が創り出したボーン二体だった。
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