第二十九話 お風呂上がりの今の日常
お風呂から上がってから、ふわふわのアリーチェの髪を、生活魔法を使い髪が傷まないよう優しくゆっくりと乾かす。
しっかりと乾いたので、そのまま出ようとしたけれど、アリーチェに止められた。
「にいたんもするの」
「あ、うん。そうだね」
僕は布で適当に拭いただけだったので、まだしっとりしていた。
アリーチェがちゃんと乾けばそれで良いんだけど、アリーチェに言われたら仕方ないので、僕も髪をしっかりと乾かした。
僕に使うので温度も風の勢いも効率重視で強くしたからすぐに乾いた。
「ちゃんと乾いたよ」
「むぅ、あーちぇがちぇっくするの」
そう言ってばんざいのポーズを取る、抱っこしろということだ。
僕がアリーチェの抱っこを拒むことはありえないので、即抱っこしてアーチェを頭のところまで持ち上げる。
自己強化は使っているから、バランスも崩れず余裕だ。
「わしゃわしゃー」
「あ、こら。アリーチェわしゃわしゃ、しちゃだめでしょ」
アリーチェが僕の髪を、わしゃわしゃとかき混ぜるようにして、もみくちゃにした。
僕も口で注意はするけれど、アリーチェがしたいようにさせていた。だってかわいいから。
しばらくの間、僕の髪で遊んだあと、「むふー」と、満足したように息を吐いて手を止めた。
「どうだった、ちゃんと乾いてた?」
「ん、ごうかくなの」
「アリーチェに合格貰えれば絶対大丈夫だね」
「ん! ぜったい!」
合格を貰えたので、アリーチェを降ろそうとしたけど、甘えたいモードに入ったらしく降りるのを嫌がったので、そのまま抱っこしてお風呂場から出た。
母さんと父さんが待つリビングにいくと僕が出した、ガラスっぽい徳利とお猪口で、魔力草で作ったというお酒を二人で飲んでいた。
母さんはあまり飲めないらしいけど、お猪口に入れた薄いけどきれいな緑色のお酒を、ランプの光で照らしながら、少しずつ飲んでいた。
緑色なのは草の色ではなく魔力が影響していると聞いた。
そもそも、お酒は魔力草から取れる、果実で作っているらしく草は香り付け程度らしい。
上がってきた僕たちを見て、母さんが笑って「あら、なかよしさんね」と言っていた。
父さんは「アリーチェ、俺にはそこまでうれしそうにほっぺ、すりすりしてくれないのに……」と嘆いていた。
僕を睨もうとしたけど、そうするとアリーチェも一緒に睨むことになるで一人で悔しがっていた。
僕が椅子に座り、アリーチェを膝に載せようとしたけれど、今度は母さんに甘えたくなったらしく、母さんの膝の上に収まっていた。
そこでまた、父さんが落ち込んだ顔をしたけど、アリーチェは家族全員に甘えたかったみたいで、母さんの膝の上を堪能した後は、父さんの膝の上に移動していた。
まあ、その時の父さんの顔のだらしなさといったら筆舌に尽くしがたいとはこの事を言うのだろうなと思うほど、蕩けていた。
そこで満足してれば良かったんだけど、アリーチェ可愛さが爆発したのか、アリーチェの頭をなですぎて嫌がられ、早々に膝から逃げられていた。
そして僕のところに戻ってきたんだけど、アリーチェが「にいたん、ごめんさいなの」と言った。
僕は何を謝ってるのかわからなかったんだけど、父さんにやられてわしゃわしゃするのは、いけないことだと思ったらしく、それを謝っていたみたいだ。
「良いんだよアリーチェ、アリーチェは優しくわしゃわしゃしてくれたんだもんね。父さんのは雑でちょっと嫌だったよね」
「ん、ざつだったの」
僕の台詞をアリーチェが肯定したとき、父さんはショックを受けて、倒れるようにテーブルに突っ伏した。
「ほらアリーチェ、母さんのお膝に戻ろう?」
「……んーん、にいたんがいいの」
「そっか、おねむになったら、ねていいからね」
「ん」
僕はまたばんざいポーズを取るアリーチェを抱えて膝に載せて、満足したように笑うアリーチェを見る。
──ああ、あいつはこんなに素直じゃなかったな。でも、構ってやらなかったらわんわんと泣いて手間のかかる妹だった──
ん? いまなにか違うことを考えたような気がしたな。そして、なんだか懐かしい感じがした、デジャブかな?
そのことはすぐに忘れて、突っ伏したまま「くそぅ、くそぅ」と嘆く、父さんの機嫌を取ろうと、徳利を手にとった。
そして凍らないまでに冷やした水を球状に生み出し、徳利をつけて水を回転させ一気に冷やす。
「ほら、父さん。アリーチェが、お酒注いでくれるってさ」
「なんだと!」
現金なものでガバっと父さんが顔を上げた。
「アリーチェ、父さんにお酒、入れてあげて、冷たいから気をつけてね」
「ちゅめたい!」
一応、注意はしたけど、アリーチェはやっぱり冷たさに驚いて、手を離した。
けれど、予想はついていたので、僕は最初から徳利をささえたままだった。
アリーチェは今度は、恐る恐る徳利に触ってから冷たさに慣れた後、父さんのお猪口にお酒を注ごうと両手で持ち上げた。
僕はアリーチェの邪魔にならないよう、動きに合わせて徳利を支える。
父さんはお猪口を持ったまま息を呑んで黙ってみていた。
ゆっくりとこぼすことなくお猪口にお酒がちゃんと注がれる。
「できた!」
アリーチェがちゃんと出来たのを褒めようとしたら、父さんが一気に飲んで「くぅぅ! 冷たい上にアリーチェの入れてくれたのは特別うまいぜ!」と言い放った。
父さんそういうところだぞ。
案の定、アリーチェは空のお猪口を見て「せっかくいれたのに」と悲しそうにしていた。
「か、母さんもアリーチェに入れてほしいわっ!」
最後のわっ!のところで父さんがビクリと震え、スネを押さえるような姿勢で、再びテーブルに突っ伏す。
多分、母さんがテーブルの下で脛を蹴ったんだろうな。
それから、アリーチェは母さんにも入れてあげ、僕と母さんはアリーチェを褒めると、アリーチェの機嫌は戻ったみたいだった。
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