第二十八話 光る変わるビー玉

「どうだ? 何かわかったか?」


 手を拭きながら、戻ってきたカロリーナに問うと


「魔の森から移動した二足歩行の魔物に、影響を受けて他の魔獣が興奮状態に陥り、それに住処を追われた、辺境伯領と子爵領の賊が集まっていたみたいです。私達がここを通ると情報も流れていたでしょうし」

「んで、人数集まって気が大きくなった奴らが、貴族からたんまり奪ってやろうと襲ってきたと……」

「旦那様の魔術を耐えた三人が、それぞれの集団のまとめ役で今日に合わせて襲撃したみたいですよ」


 賊に関してはもういいだろう、住処も守れず流れ出た賊など、農民だって勝てる。農民は自分達の畑を荒らす輩には容赦ないしな。


 それよりも、魔獣に影響を与える人形魔物の方が気になるな。


 最初に発見されたのは10年以上前、しかし約2年前からいきなり魔の森を抜け出し、一定方向へ進みだした、目撃情報から考えると──


「それはやはりエドワード達の村の方向に向かっているか……しかし、なんで討伐されていない? 兵にも冒険者にも命令と依頼は出しているのだろう?」

「それがすぐに隠れて逃げるらしいんです。しかも学習したのかすぐに夜にしか移動しないようになったということです」


 逃げる? 学習した? 賢いとはいえ本能の塊に近い魔物が?


「予定では、街で合流した後、次の街へ出発。そこで視察が終われば、また兵を置いてエドワードのところへ向かう……だったな」

「はい」

「予定変更だ。街についたら代理を立てて、すぐにエドワードのところへ向かう。なんか嫌な予感がしやがる」

「はい、旦那様」


 魔の森から出た闇に覆われた魔物か、やはり魔素の浄化が間に合ってないのか……。


◇◇◇◇


「にいたん、キラキラしてほしいの」

「わかったよ、アリーチェ」


 最近、アリーチェのお風呂でのお楽しみはまた変わって。

 今は、僕が創った魔力結晶がアリーチェの流行りだ。

 そいつに魔力を通すことで反応光が出るんだけど、アリーチェに創ってやった奴は地水火風の属性入りの魔力結晶ができたらしく、魔力に属性を込めるとその色に光る。


 そして、全属性順番に流れるように流すとまるで虹が動いているように、きれいに光る。


 最近はそればかり、おねだりするようになった。

 幼児の好みの移り変わりは早いものなんだな。



 ここまで光らせるのに少し手間取ったけどすぐに慣れて、かなりスムーズに流せるようになったと思う。


 僕はこれをゲーミングビー玉とこっそり呼んでいる。


 最初は端から端に属性を順番ずつ光らせながら流す、これはすぐに出来た。

 魔力循環を行う要領で属性を順に変えて行くだけだったからね、そこから逆方向や、玉に沿って渦を巻くように中心に流れるように光らせる、そして、その逆回転を練習していった。


 魔力属性に別の属性を混ぜる割合で光の色が変わるのも、分かったので別の属性を少しずつ足す、少しずつ引くといったやり方で、単色を動かすのではなく、少しずつ色が変化していく光らせ方もできるようになった。

 ゲーミング的な光り方を完璧に再現できるようになったと思う。


 その際、擬似的なミラーボールっぽい光り方も出来たけど、アリーチェに「お目々痛い」と言われたので、永久に封印することにした。

 ミラーボール滅ぶべし。



「痛っ」

「にいたん?」

「ごめん、なんでもないよ。アリーチェ」


 ここ最近、胸の奥がギシリと痛む時がある。

 肉体的なものではなく、あまり味わったことのない胸の奥の何かがきしむような痛みだ。

 それと同時に魔力の操作、生活──いや、創造魔法の操作がスムーズになってきている気がする。

 魔力が強くなって体に影響が出てきているのかな?


「にいたん、だめなの。にいたんがいたいいたいだと、あーちぇぎゅっとなるの」


 アリーチェが僕の痛みを感じるように仕草を取った後。

 アリーチェが僕の胸をいたわるようにその小さな手でなでてくれる。僕はもうそれだけで魔力痛──今つけた──なんて吹き飛んで、元気百倍だ。


「大丈夫だぞ!! アリーチェ! 僕は元気だ! ほら、こんなにキラキラもさせちゃうぞ!」


 僕は全力を持ってゲーミングビー玉をゲーミングさせる。

 お風呂に虹色の光がビカビカと反射していた。


「きゃー、にいたんまぶしい」


 きゃっきゃっと笑うアリーチェを見ると僕も頬が緩む。いつものことだけど!


 守りたいこの笑顔!


「アリーチェが笑ってくれると僕はいつも元気だよ」

「いたいいたいないの?」

「もちろん!」

「だったらあーちぇいつもにってするの」

「うん、そして、アリーチェの笑顔は僕が守るぞ!」


 いつものことをいつものように誓う。


「だって、僕はアリーチェのおにーちゃんなんだから」

『だって、俺はお前の兄貴なんだからな』

 

 また軽い痛みとともに何かが聞こえた気がした。

 んー? 誰かなんか言った?


「アリーチェ、今別の人の声聞こえなかった?」

「んーん、しか聞こえなかったよ」

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