第十一話 心配と反省と愛情
いつもの時間に目が覚める。ベットに寝転んだままいつもの習慣の「圧縮、吸収、混合」をやる。基本だからね知ってたよ「圧縮、混合、吸収」前からそう言ってたもん。
なぜか、本当になぜかよくわからないけど、布団をかぶって転げ回りたい衝動にかられる。
実際に行動に出ようとする前に、覚醒し始めるめた頭と体が優しいぬくもりと魔力を感じる。
「アリーチェ? どうして僕のベットに? こっちで寝ることは父さんも母さんも今まで許可したことなかったのに」
僕の服をその小さな手でギュッと握ったまま、すやすやと寝ていた。
母さんのベットに戻そうと起こさないように優しく抱き上げ部屋の外にでる。
僕の部屋から居間が見えるのだけどそこには珍しいことに父さんと母さんがすでに起きていた。
僕は驚いたが声には出さずに「おはよう」と口の動きだけで挨拶だけをした。
母さんにアリーチェを渡そうとしたが母さんは首を振って自分たちの部屋を指差したので移動し、母さんのベットにアリーチェを寝かせようとしたが、手を離してくれないので僕は服を脱いでからアリーチェを寝かせた。相変わらず天使だと何度見てもそう思う。
「どうしたの? 父さん母さんこんな早い時間に」
居間に戻ってきた僕はおそらく何か用があるのだろうとは思いながらも小声で問いかけた。
「──お前がそれを言うのかよ、いたっ……いやすまん。ちょっと話があるんだ」
小声の小声で流石に聞き取れなかったけど、父さんが母さんから肘鉄を食らって謝っていた。
「話はあるんだが……お前開拓地にはいかなくても大丈夫か? 」
父さんが決死の覚悟みたいな顔をしていたので何事かと思ったが、ただ時間あるかという確認だけだった。
「うん、行くけど。──少しくらい遅れても別にいいよ」
最初の台詞で二人の顔がこわばったけど、続いた台詞でその緊張が解けた以上に見える笑顔になった。
「そうか、そうか。そうだな少しくらいは良いよな」
「そうよね、お話するくらい良いものね」
なんだ?父さんは大はしゃぎと呼べるくらい喜んでるし母さんは少し涙ぐんでる。
今までだって朝に会話ぐらい……いや、休息日しかなかったな。
今までは止められても開拓地か農作業に行ってたような気がする。
僕になにか夢中にさせる物がそこにはあったんだろうな、でも両親に心配させてたなんて反省しないと。
「それで父さん、話って?」
「昨日、教会でなにかあったか?」
僕はビクリと体を震えさせた。
なにか?なにもなかった。ほんとうになにもなかったよ。
僕は魔力基本の3つのことは知ってたしずっとその名称で練習してた。
ああいや、そうだ、なにかあったぞ。
「そう言えばあったよ、シスターが青年と少年の恋物語が顔を真っ赤にして涙を流すほど好きだって神父様が言ってたよ」
「──まじかよ、あの巫女様が……」
僕の台詞に父さんが唖然とした表情になった、いやそれよりも──
「巫女様?」
「いやなんでもねぇ、今は忘れてくれ。教えれる時が来たらちゃんと教えるからよ」
「う、うん」
「エド?」
「お、おう、すまねぇ」
まだ違う話があるのか、じれた母が父に続きを促した。
「そんなことじゃなくてだ、お前自身のことだよ。昨日のお前は普通じゃなかった」
それいじょうはやめて! せっかく埋めたのに。父さんが僕の黒歴史を掘り起こそうとしている。身悶えする衝動が僕を襲うが次の父さんの台詞で完全にそれがどこかへ言った。
「お前がアリーチェと風呂に入らなかったのは初めてだし、アリーチェもお前に何があったのかとずっと心配してた、アリーチェも寂しかっただろうにお前のことだけをだ。アリーチェがお前と寝るのを許したのはその姿があまりにも見ていられなかったからだ。何があっても俺たちが起きていればいいと思ってな」
「……アリーチェが」
そうだ、アリーチェとお風呂に入らなかったことはこれが初めてだ、悲しいし寂しかっただろうに僕だけのことを心配してくれてたのか、それが僕は、たかが中二病が恥ずかしくなっただけのことでなんて情けない。
「すまん、お前を攻めてるわけじゃない。ただ、教会でなにか言われたかと思ってよ。お前の様子を見てだな思うことがあってだな、……ほら、魔獣のことでなにか言われたとか」
──本当はこの話に乗って魔獣をおびき寄せたかもと知ってショックだったと言うことにして、ごまかそうと思った。だけど僕は今、目の前で心配してくれている両親や、さっき僕の横で眠っていたアリーチェのいじらしい姿を思い出すとごまかすことなんて出来なかった。
◇◇◇◇
それから、確かに魔獣のことは僕が原因かも、とは言われたけれどそれがショックとかではなくて、その後の神父様の説明で、僕がいつもやってる魔力の練習で使っていた方法を自分独自のものだと思っていたが、昔からあったということ、さらに独自の名前をつけてドヤ顔──表現は変えたが──していたことが恥ずかしくてたまらなくなってしまって……ということを話した。
前世の記憶があるとか中二病にかかってたんだとかは流石に話さなかったけど。
「ルカ! あなたねぇ!!」
さすがに温厚な母さんもこんなくだらないことで家族全員に心配掛けたことに怒りを抑えられなかったんだろう。手を振り上げた。
母さんがここまで怒るということは、おそらく、昨日のアリーチェはそれほどひどかったんだろう。
来るであろう痛みと衝撃を想像しギュッと目をつぶった。
その後すぐ、パーンという破裂音がした──けれど、痛みも衝撃もない。そっと目を開けると目の前で、父さんがかばって代わりに受けてくれている。
「エドワード?どうして?ちゃんと叱ってあげなきゃ」
「いってて、ソニア気持ちはわかるがちょっとまってくれ。確か俺たちは心配したし、アリーチェは見てられなかった」
「ええ、そうよ」
「だが、こいつはこんな馬鹿だが賢い。教会で魔獣のことを言われたか?と聞かれたならそれを利用してごまかすこともできたはずだ。多分俺たちはそれで騙されてただろう」
「……ええ」
ごめんなさいその通りで最初どうやってごまかすかということを考えてました。
「だけど、こいつは話してくれた。子供の頃なんて大人に叱られるのが嫌で、いくらでも嘘をついたもんだろ? それを正直に話したんだ、俺たちが感情的になって叱るのは違う気がしてな」
「エドワード、だけど……」
「それに言い方がわりぃが、俺達が勝手に心配して、勝手に失望して、勝手に怒っただけだ。こいつがやったのはアリーチェを風呂にいれなかったことだけだ。違うかソニア? 」
「──いいえ違わないわ、エド。ごめんなさいルカ、打とうとなんてして」
「謝らないで母さん、僕が悪いんだ」
「そうだ、オメェが悪い!」
ゴンッと鈍い音をさせて僕の頭に衝撃が走る。
父がものすごい手のひら返しをして僕を殴ったのだ。流石にこの手のひら返しには頭を抑えながら困惑した。
「……えぇ」
「エド、貴方……」
「アリーチェを悲しませたのは、こいつが悪い!なにがあってもこいつが悪い!!──でも、こんなもんでいいんだよ」
と、僕にげんこつを見せながら父がニッと笑った。
そのあとの父さんが口の中だけで発した「こいつにはもう間違いたくないんだ」という言葉は僕に届くことはなかった。
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