第15話 買い物イベント発生⁉

 ある休日の朝。僕は、鈴ノ音ショッピングモールという大きな商業施設の最寄りにある鈴ノ音駅の前、公園の中にある噴水の前にいた。


「うーん……」


 水飛沫みずしぶきが当たらないように少しだけ距離を空け、見つめていたのはスマホの画面。そこに映っているのは、不安でしょうがないと言っている自分の顔だった。


「ほんとに……これでよかったかな……」


 白のTシャツにデニムのズボン。迷いに迷ったが、結果的にシンプルな服装に決まった。


 出かける前に何度もチェックしたけど。……やっぱり、不安だ。


 ――ママ、はやくーーーっ!

 ――走ったら危ないわよー。


 今日が土曜日ということもあってか、周りを見ると、家族連れやペットとお散歩している人たちなどでにぎわっていた。


 ――舞川さん、どうして僕をここに……。


 手に持っていたスマホの画面を操作し、『舞川さん』のトーク画面を開く。


『もりり~ん♥ 明日暇~? うん、わかったっ! じゃあ明日十時にスズネの噴水広場の前に集合ねっ♪ もりりんのためにいいイベントを用意したから、ヨロシク~♥』


 ――僕の意見は……? それに……『いいイベント』って……。


 舞川さんのことだから、なにか考えがあるのは間違いないが、急にも程がある。


 遅刻しないために気をつけた結果、待ち合わせ時間より三十分も早く着いてしまった。遅刻は厳禁、早く着いて損はないが。


 ――早く、来ないかな……。


 ……。

 …………。

 ………………。


 それから、二十分後。


「――森野もりの君っ」


 声がした方を見ると、私服姿の委員長いいんちょうが小走りでこっちに向かってきた。


「おはようございます」

「お、おはよう、委員長」


 ジャスト五分前。さすが、委員長。


「森野君、早いですね?」

「お、遅れたらまずいからね……」

「良い心がけです。待ち合わせ場所には五分前に着くのがマナーですから」

「だ、だよね……あははは……」


 ――ほんとは三十分も前に着いていたけど。


 それをわざわざ言う必要もないため、笑って誤魔化す。


 ――それにしても……。


 委員長のことだから、てっきり落ち着いた雰囲気の格好で来ると思っていたけど、いい意味で裏切られた。


 白のTシャツとあわいピンクのプリーツスカート。とても可愛らしい格好な上に、肩にかけているブラウンのショルダーバックが色のアクセントになっているようだ。


「ど、どうですか? 変じゃないですか?」

「え」


 委員長は自分の格好に自信が持てないのか、時折、顔を俯かせながらチラチラとこっちを見てくる。


「えっと……とても、似合ってるよ……?」


 ――無難すぎたかな……。


「っ……あ、ありがとうございます……っ」


 ………………。


 ――気まずい……。


「い、委員長って、普段そういう服着るんだね……っ」

「あぁ……実はこの服、私の物ではないんです」

「え、そうなの?」

「はい、姉の物です」

「へぇー。委員長、お姉さんいたんだ」

「森野君は一度見たことがあるはずですよ?」

「へっ?」


 ――見たことがある? いつ、どこで?


「ほら、始業式のときに壇上に立っていたじゃないですか」

「始業式?」

「途中で出てきましたよ。――――…生徒会長として」

「せ、生徒会長!?」


 ……どうしよう。全然、式の内容を思い出せない……。


 ――あの日は、柊木さんのことで頭がいっぱいだったから……


「やっほー!」

「へぇー、二人の私服姿とか新鮮~っ」


 ――ん?


「来たみたいですよ」


 委員長の視線を追って駅の出口を見ると、柊木さんと舞川さんが並んでこっちに手を振っていた。


 柊木さんはイメージ通りと言うべきか、露出度高めのファッションだった。


 ベージュのオフショルダートップスにデニムのショートパンツという組み合わせが、完璧に似合っていた。特にショートパンツから伸びる長い脚、目のやり場に困る弾力のありそうな太ももに、心臓がドキドキと高鳴る。


 学校とは違う姿を拝めるとは…………舞川さん、ありがとう。


 と心の中でお礼を伝え、舞川さんの方を見たのだけど。


 ――…? どうして制服?


 そう。舞川さんが着ていたのは、私服ではなく、なんと学校の制服だった。いつもよりさらに着崩しているけど。


 シャツのボタンは胸の辺りまで開けられていて、正面から見ても深い谷間が丸見えになっていた。まるで、『みんな見てぇ~♡』と言わんばかりに。


「舞川さん、どうして制服なのですか?」

「JKでいられるのは短いからねぇ~。ほらほら、みんな揃ったんだから早く行こう~っ!」

「おおぉー!!」


「「………………」」


 元気よく腕を突き上げる二人に見習い、


「「お、おぉぉぉ……」」


 周りの視線を感じながら、僕と委員長は小さく手を上げたのだった。




 ――ああぁー恥ずかしい……。

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