9話:ラブホテルとアルバイト
「その、すみません、ずっと気になってたんですけど」
「えっ」
彼は咄嗟に手で口と鼻を抑える。
「もしかして、鼻毛出てました?」
「だったらもっとすぐに言ってます。……じゃなくて、どうしてわたしを買おうと思ったんですか? その、お兄さん、あんまりそういう相手に困ってそうには見えないんですけど」
もしかしたらとんでもない性癖でも持っているのだろうか。わたしは先ほどから、あまりにも悩みすぎるあまり、そんな妄想まで広げてしまっていた。だが彼は、気まずそうに頭を掻いて笑う。
「あーっ、なんていうか……その、引かないで聞いてくださいね」
って、こんなことしてる時点で引いてたらごめんなさい。そう付け加えて、彼はポケットから煙草を取り出すと、唇に咥えて火をつけた。
「その……俺、年下がすごい好きなんですよね。特に、女子高生、とか……。でも、なかなか出会いとかもないじゃないですか。だから……その、ね」
「いや、別に引いたりはしないですよ。この界隈のお客さんって、そういう人ばっかりだし」
わたしは少し拍子抜けな気持ちを感じながら、彼との手を離すと、薄暗い照明を触りにベッドへ向かう。このホテルの殆どの部屋は、入ったことがあるから、大体の位置は触り慣れたものだし、自分の好きな明るさがあった。部屋の明度を、それよりも更に、やや暗く設定してから、彼の座っているソファの隣へ、自分も座る。彼は少し恥ずかしそうに、煙草を灰皿に置いた。
「でもほら、ロリコンって、なんか、ヤバいじゃないですか」
好きな相手が女の先生であるわたしも大概です。心の中でそう呟いて、足を組んだ。すると短いスカートだから、太ももを伝って、薄い布地がめくれ上がる。ふと隣を見ると、彼はわたしのそんな太ももに熱い視線を注いでいた。どうやら気になるらしい。面白いな、この人。
「……興味津々ですか?」
わたしがからかう様な口調で言うと、彼はすぐに目を背けた。そして顔を赤くしながら、焦ったように煙草を吸う。
「いっ、いやっ、その……だってアリスさん、かわいいし、つい……」
「え、いや、全然いいんですけどね。これから、そういうことをするわけですし」
そう言って、わたしは自分から手で、スカートをめくってみる。丁度、彼の角度からはギリギリ下着が見えないくらいの位置まで。すると彼は、無意識なんだろうか。最早あからさまにわたしの足に目を向けてきていた。しかし何故か触ろうとか、自分からめくり上げようとか、そういうことは一切してこない。紳士なのか、恥ずかしがり屋なのか。わたしは謎が深まるばかりだったが、とにもかくにも、こうして座っていては時間が勿体ない。普通のお客さんなら別にホテルを延長してもらっても一向に構わないが、彼に限ってはなんだか焦らし続けるのも申し訳なくなる。足を振って立ち上がると、脱衣所へ向かった。
「じゃあ、先にシャワー浴びてきますね。それとも、お兄さんが先に行きます?」
「ああ、俺は後で大丈夫ですよ。お先にどうぞどうぞ」
はっとした顔をして、彼は顔の前で手を振る。そんな彼にわたしは首を傾げながら、ついつい笑ってしまう。その様子に、不思議そうな顔を浮かべて彼が訪ねてくる。
「どうかしましたか?」
「ああ、ごめんなさい、ついおかしくって。なんだかお兄さん、そういうことしたそうなのに、我慢してるのが可愛くて」
「かわっ……いや、だってあんまりがっつくのも、ねえ、良くないじゃん。なんていうか、その、嬉しくないでしょ?」
とうとう堪え切れず、わたしは声を上げて笑ってしまう。そんな様子に、彼は今度こそ、怪訝そうに眉を顰めた。
「いや、なんか、お兄さんほんと面白いですね。わたし、お客さんからこんなに気を使われて、優しくされるの初めてです。……ほんとにそういう関係みたいですね」
それじゃあお先に。そう言って、脱衣所の扉を閉める。結局彼は、最後まで何が何だか、という様な顔をしていたが、シャワーを浴びて、戻ってきたときも、同じ顔を浮かべていた。
「ちょっと、いつまでそんな顔してるんですか」
「いや、だって、いつもこんな感じで、他の女の子にも言われるから」
そりゃ言いたくもなる。わたしは隣に座ると、彼の太ももに手を置いた。予想通り、彼は身体を小さく跳ねさせ、驚いた様子でこちらを見つめる。見た目は爽やかな印象だけど、意外と遊んでいそうだな。なんて思っていたが、どうやら本当に爽やかで、そして遊んではいても慣れてはいないらしい。遊び慣れていないというわけではない。ただ慣れていないのだろう。
「な、なにかな」
期待の篭った、熱っぽい目を向けられて、わたしはいたずら心をくすぐられる。太ももを指先で撫で上げながら、身体を傍に寄せる。
「な、何かな?」
「んー、わたし、ベッドに横になりたいから、お兄さんも早く、お風呂行ってきてほしいなーって」
我ながら、不思議に思うほど、この時のわたしは饒舌だった。それこそ、別の人格でも現れたのか、と思うほど、性格が積極的になっていた。少なくとも、学校ではこんな一面、出したことはない。それは先生に対しても。
やめよう。今は先生のことを考えるのは。わたしは、そのことを頭から消し去るように、別人になりきるくらいの勢いで、彼にすり寄る。
「それとも、お兄さん、わたしとそういうこと、したくないんですか? さっきから、全然触ってくれないし」
これはやや本気で思い始めている。
「い、いや、そんな、急に触ったら、嫌かなって」
「そりゃあ、普通のお客さんなら、急に触られるのはちょっと嫌かもしれないですけど」
わたしは立ち上がると、彼の右脚と左脚。その間に足を割入れる。ソファにもたれかかった彼の太ももの間に、膝で立つようにして、後ろの背もたれに両手を着く。
「お兄さんは、なんか、そんなこともないかなーって。試しに触ってみますか? それとも、お風呂の後がいいですか?」
正面に立つと、彼の胸が上下しているのが良く分かる。わずかに開かれた薄い唇からは、興奮を抑えきれないというように息が漏れていた。その唇が、何かを言いたげに小さく動いたり、喉が、生唾を飲み込んで、ゆっくりと動いている。こうして見ていると、男の人の身体とは、本当に何とも言い難い、ごつごつとした作りをしているのが見て取れる。そんなことをふと考えていると、彼が口を開いた。
「で、でも、我慢できなさそうだから、先にシャワー、浴びてくるね」
恥ずかしそうに顔を背けて、耳まで赤くしながら、彼は立ち上がろうとするので、わたしはそこを退いた。それから彼は、急ぎ足で脱衣所へ入っていく。その後ろ姿に手を振りながら、わたしは部屋の準備に取り掛かる。例えば、ベッドの枕を一つ、邪魔にならないところへどけて置いたり、掛け布団を脇に畳んで寄せたり、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出したり。彼が帰ってきてから飲めるようにコップと一緒に準備して、わたしは鞄を机に置いた。中から、ローションとうがい薬も取り出しておく。そうして口の中を濯ぎながら、枕元にローションを置いて、ティッシュも取りやすい位置に引っ張ってくる。そのままティッシュを何枚か取って、口元にあてがう。濯ぎ終わったうがい薬をそれに染み込ませて、ごみ箱に捨てる。
最後に、部屋の隅にあるドレッサーに鞄を置いて、髪の毛や服を整え。そこで鏡に映った自分の表情に、思わず目を疑った。普段、したことのないような、楽しそうな顔をしていたから。
不思議だ。普段、ホテルで一人になった瞬間のわたしの表情なんて、お世辞にも笑顔とは言えない。むしろ、無愛想ですらある。それが何故か、今は楽しそうに笑っていた。もちろん、良いことではあるけれど。
そうしていると、彼が扉を開けて帰ってくる。わたしは前髪を整えると、ソファに一緒に座った。ミネラルウォーターのキャップ。それについているラベルを剥がし、彼のコップに注ぐ。
「おっとっとっとと」
「いやお酒みたいに注ぐね」
「まま、まずは一杯」
「え、マジでお酒なの?」
彼は何故か濡れている髪の毛を、適当に手で書き上げると、一息にコップを煽った。わたしはまさかと思い、尋ねる。
「……お兄さん、もしかしてとは思うんですけど」
「ん、どうしたの? 心配しなくても水だったよ」
知ってます。
「じゃなくて、あの、頭も洗ってきたんですか?」
「え、うん」
きょとんとした顔でうなずく彼に、わたしは口角が上がるのを感じる。しかし彼自身は、なぜわたしが笑っているのかがわからないらしく、コップでもう一杯、今度は手酌で水を飲んでいた。
「え、どうして?」
「いや、珍しいなーって。なかなか、ホテルのシャワーで、頭まで洗う人、いないから」
せっかく髪の毛もかっこよく整えてたのに、勿体なくないですか? そこまで言って、彼はようやく理解したらしい。本当だ。というような顔で、目を丸くする。
「……ほんとだね」
「おにいさんって、もしかして本物の天然ですか?」
ともあれ、別に髪の毛が濡れていようと、わたしとしては問題はない。それからわたしは、彼の手を引いて、ベッドに誘った。
そんな彼は、為されるがままに仰向けで横になる。わたしは傍に座り込んだ。
「あっ、そうだ。わたし、お兄さんの筋肉、触ってみたいんですけど、いいですか?」
彼は恥ずかしそうに口元を腕で覆う。
「いや、良いけど、そんな筋肉とか、ないよ? たぶんクラゲみたいな体してると思う」
「いやいや、腕とかも引き締まってるし、絶対ムキムキですって!」
言いながら、わたしは彼のシャツのボタンを外していく。すると、身体は意外と色白だった。だが、案の常、細いながらも筋肉の付いた身体が現れる。腹筋も、うっすらと割れていた。わたしはそこに両手で触ると、指で押してみたり、撫でてみたり、色々と触ってみる。
「すご、硬いですね。腹筋とかもなんかこう、弾力があって」
「いや、普通に恥ずかしいし照れるなあ」
言って、目を細めてわたしを見つめる。どうやら本当に恥ずかしいらしく、耳がまたしても、真っ赤に染まっていた。わたしはそんな彼の腰のあたりに跨ると、ゆっくり腰を下ろす。
それが大きくなっているのをズボン越しに感じながら、スカートが破れないように、少しだけ捲り上げて、彼の胸に再び手を添えた。
「んっ、すご、硬いですね。腹筋も、うっすら割れてるし、かっこいいです」
だが、ここまでしても彼の手が、わたしの身体に触ってくることは一向になかった。見ると、シーツをがっしりと握りしめている。これではどっちが男でどっちが女か、分からない。
もっと過激にいかないと、踏ん切りがつかないのだろうか。わたしは一度立ち上がると、彼に足を広げてもらって、その間に正座をする。そうして、ズボンのベルトに手をかけた。
「え、ちょ、どうしたの?」
彼が焦った様子で首を上げ、こちらを伺う。わたしは敢えて、何気ない顔を浮かべた。
「え、次は足の筋肉とか、見たいなーと思って。駄目ですか?」
「だっ、駄目じゃないけど……」
でも、今脱がされると、その、立ってるから……。そう言って、わたしの手を上から軽く押さえる彼に、わたしはまたしても、いたずら心が働いてしまう。そんな彼の手をあれこれと言いながら、再びシーツに置くと、ベルトに再び指をかけた。かちゃかちゃと音が部屋に響き、そしてボタンも外して、チャックも降ろす。腰を上げさせて、そのままパンツごと、ゆっくりと下げていく。すると、大きなそれが、勢いよく現れた。わたしは、彼の足を跨いで横に再び座ると、彼の顔の上に、自分の顔を寄せた。
自分でも、顔がにやつくのが分かる。きっと、わたしはいやらしい顔をしているのだろう。それほど、彼の態度は、こちらのからかいたくなる気持ちを掻き立ててくる。
「ねえ、お兄さん。なんでこんなになってるんですか? もしかして、わたしみたいな子供が触っただけで、本当にエッチな気持ちになっちゃうんですか?」
言いながら、ゆっくりと指を這わす。熱を持ったそれは、わたしが触るたび、跳ねるように動いて、手の中に納まらない。サイズは平均より、少し大きいだろうか。だがそれよりも、私が気になったのは、その太さだ。どうやら、かなり太めらしい。彼、どうやら見た目や性格に反して、ずいぶんと凶悪なものをもっているらしい。
どうやって進めようか。わたしは考えながら、それを握りこむと、指を順序良く、小指から人差し指にかけて、握りこんでいく。勿論、あくまで優しく。すると、彼は次第に唇の端から、吐息を漏らし始めた。
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