13話 vs.2級魔族リリ②

・9月15日・ 昼  ……4つめの盗賊のアジト……


「マリン……?」


(なんか様子がおかしいよ)

 マリンの様子は目に見てわかるほど正常なものではなかった。


 体の黒い模様は恐ろしいほど膨大な魔力の流れで、とても嫌な予感がする。


 ニヤリと笑った口先、マリンの目にはリリしか見えていない。

 目の前の獲物を狙う猛獣の姿がそこにはあった。


「……そんなこともできたのですね、なぜでしょうか。普通あなたには使えない物なのですが」


 今のでもノーダメかよ……


 正直、化け物だ。

 3級と2級でここまで違うとは、予想以上だ。


 俺はすぐ逃げようとしたが、


「中級緑魔法"バインド"」


 リリの魔法により、体の自由が奪われる。


(動かない!?)


「ちょっとそこで見ていてください」


 リリは逃す気はないそうだ。


 マリンはリリの生存を確認すると、ケタケタと笑って、


「混合魔法"デストロイヤー"」


(混合魔法!?)

「混合魔法……!?」


 流石のリリも驚く。

 ……って言うかマリン、喋れてる!?


 いやいや、それどころじゃない


("デストロイヤー"聞くからにやばそうな魔法だけど……大丈夫だよな?)


(いや、お兄さん……多分大丈夫だと思うけど、一応防御姿勢をとって)


(すまん、体が動かん)


(やっぱり、そうだよね)


 混合魔法といえばナチルがラピッドタートルを倒した際に使った魔法だ。

 あんなのを打つなんて、とても考えられないが、


 せめてと思い、目の前に"リャーマ"で炎の壁を作る。

 魔力コントロールが可能になった今、こう言うこともできるのだ。

 ……まぁ、この壁にあまり意味はないようにも感じる。


 マリンは手を上にあげる。その上では黒、赤、茶の魔力の玉がくるくる高速でまわり始めた


 その手をリリの方向に向け、手に恐ろしいほどの魔力が集中し始める。


 まわっていた魔力の玉はどんどん広がっていき、やがて大きな円の形になる。

 そこから、光の見えない完全な闇のエネルギーがリリめがけて放出される。


「はっ!! いいでしょう!! ……面白い!! 受けて立ちます!!」


 リリは意外と好戦的なようだ。


「上級魔法"メルディア・リャーマ"!!」


 リリは手を前にすると、手の前に光の魔法陣が浮かび上がる。

 その中心には光のエネルギーが集まっていき、やがてそれは放出される。


 混合魔法と上級魔法、闇と光のエネルギーが衝突する。


 なんで威力だろうか、事前に貼っていた炎の壁が風圧で消し飛んだ。

 俺は魔力コントロールでかろうじて残ってる"ダブル・ブースト"を体に集中させる。


 混合魔法は上級魔法が使えるようになればできる魔法。難易度や魔法そのものの威力はほとんど変わらない。


 本人の魔力次第というところだ。


 このエネルギーのぶつけ合いに勝ったのはマリンだった。


 リリの放つ光のエネルギーは徐々に押され、リリは闇のエネルギーに包み込まれる。


 そのままリリ後ろにあった木々さえも消滅し、マリンの魔法も収まっていく。


 それにしても凄まじい衝突だった。

 俺はマリンの方へ駆け寄ろうとするが、


「流石に死ぬかと思いましたわ……これ以上は流石に本気を出さないといけないようですね……」


 リリは地面から出てくる。

 ただ、ダメージはとても与えたらしい。

 出血が酷く、右腕も使えなくなっている。


 流石にしぶとい、あれだけを食らってまだ生きているのか!

 しかも、本気ではなかった……まじで?


 リリは目を閉じると、意識を集中し始めた。


 すると、黒いあざが体全体に浮かんでいき、それは模様を作っていく。


 まるで、マリンと同じような……


「3級と2級、魔族の違いはこれが使えるかどうかですわ! "セカンドモード"!」



 黒いあざの一部が右手に集中し、右手は元の機能を取り戻していく。

 そして右手から黒いあざが漏れ、それはやがて槍の形を作る。


「あの槍は……」


 見たことがある。

 アリスに刺さっていた物と同じ太い槍だ。


 見たことある……はずなのに、まるで初めて見るような気がする。

 この違和感はなんだろう


 そう深く考える暇もなく、戦闘が始まる……


 先に動き出したのはマリンだ。


 リリの下腹部へと拳を直撃させる。

 地面を変形させるほどの力だ、いくら強化したとはいえまともに食らって、大丈夫なはず……


 俺の思いとは反対に、リリはノーダメ、微塵も動かない。

「次は私の番ですね?」


 リリは槍でマリンに攻撃を仕掛ける。

 マリンは紙一重のところで避けながら後ろへと追い詰められていく。


「なかなかやりますわね、これならどうですか?」

 

 するとリリは槍で攻撃を加えながら魔法を唱え始める。


「"リャーマ"、"リュビア"、"ヴァイス"、"ウインズ"、"ジェノ"」


 火の玉、水の玉、土の玉、かまいたち、黒い炎、それらを詠唱を短縮して唱える。

 どれも魔法としては不安定だが、確実にマリンは押されていっている。


(アリス……あんなことが可能なのか?)

(普通の魔法攻撃を考えると威力が落ちるからしないようなことだけど、槍の攻撃がメインだからね、威力が落ちても問題ないんだよ)


 どうやら、詠唱を短縮すると、魔法を打てることには変わりないが、不安定になるらしい。


 マリンは追い詰められ、空へと飛ぶ。

 リリはその隙を狙っていたのだろうか、槍をマリンのいる空へと構える。


 リリの槍にはさっきの魔法よりも巨大な魔力が込められる。


 あれはやばい……さっきの魔法でさえもすごかったのに、あれは次元が違う。


「奥義! "ロンギヌスの……」


 リリは左足を前に出し、右足を後ろに踏み直す。

 槍は太い槍から、細長い槍に変形する。


「!?」


 だが、そこでリリの動きが止まる。

 奥義は中断され、集まっていたエネルギーは分散し、消えていく。

 槍の先を見ると、小さい黄色い魔力の膜があり、それで止められていた。


 そしてリリの目の前には黒い羽の生えた男が立っていた。


「いつまでも帰ってこねぇと思ったら何してんだぁ? リリ……? それに勝手に"セカンドモード"使うんじゃねぇつっただろぉ?」


「も、申し訳ありませんですわ、ザラ様。緊急事態でしたので」


 ぱっと見柄の悪い金髪のチンピラだが、魔族だろう。

 しかもリリのあの慌てよう……上司のようだな


「お前がそれ使うってことはよっぽどのことだろうなぁ……って、ああ、なんだてめぇは失敗作か。 こんなところにいたのか、てめぇ……」


 ザラと言う魔族はマリンの方を見ながら、ほうほうと頷く。


「不安定とはいえ、"セカンドモード"なりかけじゃねぇか、しかも見た感じ喋れなくなってやがる さては誰かに何かされたな……ギャハハハ! それは愉快だなぁ?」


 ザラはリリの方を向き、


「とりあえず、もう帰るぞリリ、あの方がお待ちだ」

「その、あいつらはどうしましょう?」

「あぁ、そっか、忘れてたぜぇ……そうだな、計画の邪魔されても困るしなぁ……殺すか?」

 ザラは陽太をギロリと睨むと、陽太は怯むが、ザラは陽太の顔を見て驚いた顔をして考え込む


「なるほど、お前がか……よし、殺しはなしだ。封印にする。上級封印魔法"シエスタ"」


 ようやくリリの"バインド"の効果が切れてきて、陽太は喋れるようになる。

「お、おい! 何をする気だ!」


 陽太とマリンの目の前には12面体が現れ、陽太の体をすり抜けていく。

 害はないかと思い、不思議に思った陽太だが、その一瞬の緩みで12面体は陽太とマリンを包み込み透明だったものが徐々に実体化していく。


「……ははん、やっぱりダメだな、俺はあいつのようには封印魔法が得意ではないようだ、まぁでもこいつらが頑張ったとして3週間は保ちそうだがなぁ?」


「くそ! 出られない!!」


 12面体の実体化に気づいた頃には遅かった。

 徐々に実体化しているので抜けられると思ったが、抜けようとすると、見えない壁があり、抜けられない。もう俺とマリンのいる空間は完全に閉じ込められているのがわかった。


「安心しろ、食べ物と水は送ってやる。それとてめぇら、いや、失敗作の方はどうでもいいが坊主!! てめぇだけは死ぬんじゃねぇぞ! 死んだら殺す!! ……それとついでに教えといてやろう、俺の名前はザラだ! 1級魔族ザラだ! 覚えなくてもいいが、一応教えといてやる!」


 その声を最後に目の前は緑色に染まった。

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