第一章 引っ越し。 -11-
ここでの生活は楽しそうだけど、こんな風に唐突に一人暮らしが始まるなんて思ってもいなかった。一旦家に帰って部屋の整理とか、心の準備とかしたかったのだけど。
和月の、楽しいことがはじまる予感を抱かせる、キラキラと輝く瞳。
抗えない好奇心は、和月譲りだ。
「李斗さん、よろしくお願いします!」
「はい。こちらこそ」
和月は明日が早いから、と寿司を食べたら帰ることになった。和月はカメラマンだ。いろんな場所を飛び回って写真を撮っている。
芽依が携帯を確認すると、由理からメールが届いていて、妙に和月がいそいそとしているのも納得がいった。
『大丈夫? 和月に無理されてるなら言いなさいね、私から叱っておくから。ともあれ、一人暮らし頑張ってね。今度会いに行くわ』
これは、和月の家に由理が先回りして、お説教パターンだ。
芽依は子鹿のような和月の車を見送った。
「そういえば、二人とも」
李斗さんは談話室に戻ると、唯久と芽依に声をかける。
「時輪高校の埋蔵金伝説って知ってる?」
「え! なにそれ知らない!」
唯久がすかさず食らいつく。キラキラと光った目は、まるでおもちゃを見つけた子犬のようだ。
「今日さ、千東さんの家に行ったんだけどね。千東さんが教えてくれたんだよ」
「穂澄の爺ちゃんか」
「そう。昔、あの高校で学友と埋蔵金探しをしたんだって。黄金の冠があるって言ってたよ」
「ホントに! うわ、俺も探そ!」
うきうきと、唯久はスキップをしそうな勢いで嬉しそうに言った。
埋蔵金伝説、黄金の冠。
芽依のこれから通う高校に眠るお宝。芽依も思わず嬉しくなって、
「私も一緒に探す! 宝探しだね!」
これから待つ高校生活の始まりに、はち切れそうな期待を抱いた。
(ああ、楽しみ……)
芽依は夢を見る心地で、まだ見ぬ高校の友人を思い浮かべた。どんな人に出会えるのだろう、どんな楽しいことが、どんな新しい世界が。芽依は一週間先の楽しみをいくつも数え、そうして一人暮らし初めての夜は更けていった。
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