185.
「はい、お疲れ様でーす。昼礼始めるよー」
四人揃っての昼礼が始まった。何やらお知らせがいくつかあるみたいで野中さんは手帳を見ながら話している。
「まずは二人とも面談お疲れ様。どうだった? たくさん喋れた?」
「そうっすねぇ……。いやぁ、みんな若いっすねぇ……」
聞くところによると松野さんの面談相手は全員十代だったとか。私も足立さんと話す時はいつも似たようなことを考えているから気持ちは分かる。
「お前と話す時の俺らもそう思ってるよ。なぁ?
「本当に。二十代も十分若いから!」
「それはそうなんすけど。なんていうか、悩む内容とか考えてることが若いなぁって……。そう思わない?
「私も同じことを思いました」
きっと松野さんも気付いていると思う。それが狙いなんだって。
私たちより若い子たちが悩んでいることは、おおよそ私たちも悩んだことがあることばかりだ。北山さんはちょっと例外だったけど。
だからきっと、似たような悩みを乗り越えた私たちにアドバイスさせたいのだろう。野中さんの狙いはなんとなく読めた。
「若い子たちが今悩んでることって、大概みんなぶち当たったことがある壁だから。俺も多井田も、松野も藤代さんも。全く同じ気持ち、経験ではないにせよ、参考にはなると思う。だから、いろんな話をしてあげてほしいかな」
野中さんの言葉を聞き、多井田さんも松野さんも深く頷く。特に多井田さんは心当たりがあるようで何度も頷いた。
「ああ、ごめん。長くなっちゃった。そろそろ連絡事項話します」
ハッとした野中さんは手帳に目を落とした。どうやら本題はこれからのようだ。
「えーっと……社食について。最近
給食委員会と聞くと小学校でありそうな……って、違うか。会社でも委員会があるんだなぁ。
私は入社して未だに一度も社食を利用したことがない。一回くらい行ってみても良いかも。北山さんとか足立さんとか。ついて来てくれないかな……。
「あとはプロジェクト発足のお知らせ。働き方改革プロジェクトと美化プロジェクトが来月から新たに発足します。どちらも目的はエンゲージメント向上かな。これはもうメンバー決まってて——」
次から次へと続くお知らせを聞きながらぼんやり考える。
野中さんはよく工場全体の話をするけど、なんだかそれは私とは関係ない、遠い世界の話のように思える。この前は経営会議の内容を共有されたけど何が何だか分からなかったし。
この新しく発足するプロジェクトも委員会も私には関係なさそうだ。
「働き方改革プロジェクトには松野、美化プロジェクトには藤代さんの名前が入ってるから。よろしくね」
「うっす」
「…………えっ?」
今、私の名前呼ばれた? なんで……?
「どっちのプロジェクトも近々集合があると思うから参加よろしく。メールするってプロジェクトリーダーが言ってたよ」
「これってどういう基準でメンバーを選んでいるんですか?」
私が気になっていたことを多井田さんが聞いてくれた。ナイスすぎる。私がメンバーになってしまった理由が知りたいよ……。
「働き方改革のほうは各課で無作為に選んでるみたい。美化は女の人だけで構成してるらしい。女性目線で工場を美化していきたいんだってさ」
「女の人……なんで私なんです……?」
「ほら、こういうプロジェクトは間接部門のほうが圧倒的に参加しやすいじゃん? 現場の人は生産あるから抜けられないし。それで藤代さんの名前が挙がったわけ。大丈夫、一人じゃないから」
「他にも美化プロジェクトの人がいるんですか?」
一人じゃないと聞いて少しホッとした。もしも製造課で私だけだったら責任重大すぎる。考えるだけで恐ろしい。プロジェクトなんて参加したことないのに。
「今週末で出向から帰ってくる子がいるから、その子もプロジェクトに参加してもらうってさ。名前は……えーっと……なんだったかな……」
野中さんは視線を宙に向け、思案している。名前が出てこないらしい。一体誰だろう、知ってる人だと良いな。
「あ、そうだ。
「……小野寺さん、ですか? 小野寺さんは私の同期です」
まさか本当に? つい一時間ほど前に松野さんと話したばかりだから驚いた。小野寺さん、帰ってくるんだ……。
「金曜日の午後に出社予定だから話してみなよ。プロジェクトに参加してもらう話はもう聞いてると思うから」
「分かり、ました……」
「連絡はこれくらいかな。長くなっちゃったけど昼礼終わろうか。じゃあ、唱和——」
野中さんの話が頭に入らない。情報過多のせいでさっきから脳がフル回転している。
新しく発足するプロジェクトへの参加、そして同期の小野寺さんの帰社。昼礼にしては濃い内容だった。
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