123.

「じゃあ全員揃ったので、進捗確認を始めたいと思います」


 程なくして山木やまきさんがやって来た。これで七人、若手チーム全員が揃ったわけだ。


「切断工程なんですけど、類似るいじ件数の確認と写真撮影が終わったところです。この後すぐに是正に移ります」

「ボリュームどれくらい? 木曜日中に終わりそう?」

「終わ……ると思います。多分……」


 少し間があったけどこの二人なら大丈夫だろう。いざとなれば私たちが手伝いに行けば良い。


松野まつのさん、加工工程はどうですか?」

「加工工程は類似件数確認の途中です。思ったより類似が多くて……。ちょっと間に合うか自信が無いな……」

「早く終わったところは加工工程を優先で手伝いに行くことにしましょうか」

「そう、だね……。助かるよ」


 松野さんの歯切れは悪い。本当に進捗が良くないらしい。設備も多いし、是正も大変そうだ。


「取付工程は写真と類似確認が終わったところです。たぶん木曜日に間に合うと思う。少し余裕があるから、もし早く終わったら加工工程のお手伝いに行きます」


 さっき足立あだちさんと確認した感じだと早くて水曜日の夕方には全て是正が終わりそうだ。……もちろん何も問題なければ、だけど。


「……あ。次、俺か。えーっと、検査工程は類似確認も写真も終わってる。既に是正し始めたところ」

「早いですね。木曜日中に完了出来そうですか?」

「余裕だな」


 頼もしい。そうやって言い切れるのは流石だ。

 全員の進捗報告を聞き、ホワイトボードへ向き合った。次の集合はどうしようかな。


藤代ふじしろさん、次の集合時間どうしようか?」

「どうしましょう……。今日は集まらなくて良いですかね……? それとも十五時の休憩明けで一旦進捗聞いたほうが良いんですかね……?」


 山木さんと松野まつのさんに助けを求めると二人は顔を見合わせ、すぐに答えてくれた。


「十五時の休憩明けに集合しよう。やっぱりこまめに集まったほうが良いと思うよ。俺らのところ進捗悪いし……」

「松野、気にすんなよ。加工工程は大体いつも大変だし」

「じゃあ……」


 ホワイトボードに大きく十五時休憩後、と書いた。今から二時間弱、出来る限り是正を進めないと……!


「十五時休憩後に集合にしましょう! 午後もよろしくお願いします!」

「お願いしまーす!」


 進捗確認を終え、再びラインの中へ。

 写真も類似確認も終わっているから私たちはすぐに是正を始められる。


「まずは何からやれば良いですか?」

「床配線からやろうか。配線カバーを被せて黄色テープを貼ろう」


 となれば消耗品置き場に行かないとな。確かあの部屋に配線カバーがあったはずだ。床配線の類似件数が五件。少なくとも五つは配線カバーが必要だ。


「消耗品置き場に行こうか。行ったことある?」

「消耗品置き場……? 無いです。第二棟の中にあるんですか?」

「ううん、第一棟だよ。せっかくだから消耗品室の使い方も教えるね」



 足立さんを連れて第一棟へ。

 聞けば足立さんは第一棟自体、普段は全く行くことが無いらしい。入社した時の工場見学以来だそうだ。


「藤代さんは普段どこにいるんですか?」

「私? 事務所だよ。ほら、ちょうどこの先にある」


 数メートル先を指差すと足立さんは驚き、目を見開いた。


「え、事務所……?」

「改善チームの席は全員事務所にあるから。中、見てく?」

「い、いや。いいです、いいです。止めておきます。緊張しちゃう……」

「そう?」


 せっかくだから事務所の中を見せようと思ったけど、足立さんは激しく首を振った。


「だって課長とか、係長とか。偉い人ばかりいるじゃないですか、事務所って。中に入るだけでいろんな人の視線が刺さるから怖いです……」

「そんなに怖い人はいないと思うけど……」


 怯える足立さんを見てふと思い出した。

 改善チームに異動して初めて事務所に入ったあの日、私も同じように怯えていたかもしれない……。懐かしい。今となっては慣れたものだ。

 だけど普段出入りしない人からすれば事務所は怖いところ、その認識は変わらないのだろう。


「消耗品置き場も誰か在駐ざいちゅうしてるんですか……?」

「え? いない、いない。誰もいないから安心して」


 消耗品の在庫が尽きたら事務所まで報告に行かないといけないけど。それはまだ足立さんに言わないでおいた。





「わぁ……めちゃくちゃ物が多いですね!」

「また増えてる……」


 消耗品置き場に着くと足立さんは感動したように声を上げた。普段ここに来ない人からしたら驚きの光景だろう。

 もっとも、ここをよく利用する私たちからすればもう少し整理整頓して欲しいところだが。


「配線カバーどこ……?」


 溢れる消耗品をかき分けながら引き出しに手を突っ込む。養生シールに保護材、マジックテープ。色鉛筆なんてものもあった。本当にこれ全部使うんだろうか……?




「……あった!」

「ありましたか!」


 引き出しをごそごそし始めて数分、ようやくお目当ての配線カバーが見つかった。


「いち、に、さん、し……」


 引き出しにあった在庫全てを引っ張り出したものの、足りない。あと一つあれば良かったけど……。


「四つしかありませんね……」

「すぐ買ってもらおう。報告までに届かなくても仕方ないよ、こればかりは」


 消耗品室の持ち出し用紙に記入し、事務所へと向かう。消耗品担当の人に言っておかないとなー……。




「私、外で待ってます」

「一緒に行こうよ。怖い人いないし大丈夫だよ」


 事務所に寄らなければならないことを伝えると、足立さんは頑なに入ろうとしない。この時間なら課長や係長はいないし、大丈夫だと思うんだけど……。


「ここで待ってます!」

「……分かった、行ってくる」


 足立さんの意思は固い。結局私が折れて一人で事務所の中に。


「すみません。配線カバーの在庫が——」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る