--7. アフェクトゥス
「よくここまで頑張ったな潤、お前は大した奴だよ」
「黙れ。俺には今、お前と話している余裕なんてない」
アライアス・レブサーブは潤達の目の前に立ちはだかる。寄り添い合っていた潤とガルカは彼を殺す為に立ち上がり、お互いに武器を持つ。
「もう逃げ場はない、お前はここで死ぬ」
「お前達に殺されて、か? ふっ、生憎俺はまだやりたいことがあるんでね、死ぬのはお前らだけでいい」
反吐が出る。レブサーブの言葉全てに拒否反応が起きてしまいそうになる潤。彼の言葉が全てその場だけの空気の発言だと理解しているからこそ、重みの欠片もない言葉を嫌悪する。
「口だけの癖にほざくなよ」
「言葉だけじゃないって証拠は今から見せてやる。ほら、そっちから来いよ」
その笑みが持つ意味はなんなんだ。相も変わらず気持ちが悪くなりそうなレブサーブの笑顔は潤を淀ませていく。そんな彼の表情を崩すために身体に負荷をかけようとも動く。
「オラアッ!」
剣はレブサーブの首を狙っていたが当然と言うべきか、彼には届かない。代わりに高い金属音が響き、潤の武器は鎖とぶつかり合う。そんな行動に一瞬は戸惑っていたガルカも順応しすかさずレブサーブに狙いを定める。
「ふっ!」
「おーっと」
ガルカの攻撃は鎖を出すまでもないと言わんばかりに避けられてしまう。合間を縫うように潤はもう一方の剣で刺そうとするがそれすら叶わない。
「残念、惜しかったなぁ」
「黙れと言っただろッ!」
互いの武器がかち合うが、レブサーブの操る鎖は傷つく気配すら感じない。逆に刃こぼれを起こしてしまいそうな程攻撃を続ける潤はいまだ届かないレブサーブの首に若干の焦りを感じる。
「そうやって他人を否定して本当に英雄になるつもりか?」
「くっ!」
潤とガルカによる攻撃の最中、レブサーブは語りかける。
「見返りを求めず他人を守り意味もなく自己を犠牲とする、その精神自体には感服しかけるがお前はそれとは程遠いな」
「お前が他人を語るな! それにお前は俺にとって他人ですらない、ただの敵だッ!」
「おいおい仮にも俺は元上司だぜ、少しは優しくしてくれよ」
返ってきたのは潤の魔術、ウルサヌスによる攻撃。話にならないと言わんばかりに肩をすくめるレブサーブ、彼の目に次に映ったのはガルカだった。
「お前はどうだガルカ、俺に対して慈悲のひとつやふたつ、恵んであげたいとか思わないか?」
「一切ないわ」
それもそのはず、間接的な物事を含めれば数え切れないほどの人間を殺していることになる。やつの真意を聞くには良い機会だと思ったガルカはレブサーブ自身の心情を掘り下げようとする。
「貴方の事、調べれば調べるほどボロが出てきた。新世紀戦争時における上層部の毒殺も全部貴方がやったの?」
「また懐かしいモンを出すなあ。この際だから言っておこう、ご名答だ」
理由なんて聞くまでもない。この男の行為と言葉にそれ程重大な意味なんて無い。生き残っていたら面倒だから殺した、単純明快で何も考えていないようにも聞こえる彼のそんな言葉が幻聴として耳に入ってきそうなくらい想像がつく。ガルカはその先が聞きたかった。
「そこまでして、貴方は何がしたいの?」
鳴り響いていた戦いの証でもある金属がぶつかり合う音と魔術による痕跡を残し、三人は一斉に距離を取り潤はガルカの対角線上にレブサーブを挟む形となってその場にぴたっと止まる。
「言っただろ、世界を変えようと心から願っているって」
「ふざけるなっ!」
「ふざけてなんかないさ、俺は本当に世界を変えようとしてるんだ。これは俺の夢や目標なんかじゃない、絶対に叶えるべきものなんだよ」
まるで清廉潔白な少年のように、傍から見れば世迷言にも聞こえる事を恥ずかしげもなく宣言する。
「その為に俺は何だってやるさ。金を盗んでも人の意志を踏みにじっても、人を殺すことだって一切躊躇わない。なんだったら、戦争だって起こしてもいいって思ってる」
「それで犠牲になる人の気持ちを……」
「いつだって考えてるさ」
「嘘をつかないで!」
やるせない気持ちになったような顔をする潤の代わりにガルカが彼の告白に反応する。個人が果たしたい目的の為だけにその他大勢の人間が代償となり死んでいく事は断じて許されない。そう思うからこそガルカは誰よりも早く言葉が出た。
「この俺が嘘をつくと思うか?少なくともアリアステラに居た時に俺の行いがバレてれば大人しく白状したぜ」
「そんなのは結果論に過ぎない!」
ガルカが反論するが、レブサーブに常識が通じるとも思っていない彼女に彼はことごとくその見識通りの意見が降りかかってくる。
「おっと、これは一本取られた。だが犠牲になる人間の心情なんて俺が一番考えているし、一番読み取れるさ」
「何を理由に……」
「ふむ、どうせお前らは死ぬ運命だ。ここで教えといてやるよ」
そう言うとレブサーブは鎖を自分の周りに展開する。いつも通りの笑顔を見せているはずなのに彼の威圧感は今までとは別格だった。手前に差し出されるように出てきた鎖を手にして、男は再び自己紹介してみせた。
「改めて挨拶しようか、俺はアライアス・レブサーブ……
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