第18話黒幕登場

その時扉を叩く音がし、お父様が入ってきた。


「失礼致します。お話の途中でしたか?」


はああああ、と開けた口を閉じた。


強い憤りの動機と感情をどうにか抑えた。


「いえ、まだです」


「それなら丁度良かった。では、話をしましょう」


王妃様 の声だ。


お父様の後ろからハリアー様と王妃様が一緒に入ってこられた。


すっと会釈する。


「お久しぶりです、ハリアー陛下。王妃様」


「久しぶりですね。皆揃っているので場所を移しましよう」


王妃様がそう言い、皆、談話室に移動した。


私の左にシルビア。右にお父様。


前に1番左にハリアー様、真ん中にアルファード。つまり私の前。その横に、王妃様。


不思議だった。扉の一番遠くにハリアー様が座るはずなのに、王妃様が当たり前のように座っている。そして、ハリアー様がとても、挙動不審だった。


「父上、母上、ナギッシャ殿からもカレンに言ってください」


席に座るとお茶を飲む前からアルファードが言い出した。


「何をですか?」


お父様が聞く。


「私とカレンが婚約するのを」


いけしゃあしゃあとアルファードはそんなことを言った。


「はっ!?」


分かりますよ、お父様。その驚きと、苛立ちの感情。


私もそうです!


「あの時は私の気の迷いでした。やはりカレンが相応しいです。そう思われますよね、父上、ナギッシャ殿。特に父上はカレンが1番相応しいと仰っておられましたよね?」


まるて、全てを悟ったような顔で、ハリアー様に同意を求められる。


確かに1番ハリアー様が私を押していたからとても、緊張した。ここでハリアー様が同調されたら、お父様が断るとは言って下さったが覆るかもしれない。


「ま、まあ、そうだが・・・だが、クラウンも、なあ」


何故かチラチラと王妃様を気にしながら口ごもり、お父様を見た。


「申し訳ありません、アルファード様。カレンにはハリアー陛下も認める婚約者候補がおりますので、アルファード様と婚約は出来ません。それに、シルビア様がおられますよね」


ひくひくと顔を引き攣らせながらも、丁重に断った。


「父上が?カレンに婚約者候補?そんな馬鹿な事はないでしょう。私以外に誰がいますか?」


その自信は、どこから来るのか不思議なくらいに淀みなく言った。


「ゼット皇子です」


「え?」アルファード


「なんで!?」シルビア


「ゼット皇子直々にカレンを、との事でした」


「まさか!カレン婚約なんかしないよね?私がいるだろう?父上、断っていますよね?」


ぎゅっと唇を閉める。


「カレン、君も分かっているはずだ。私と一緒になるのが幸せだと。幼い頃から一緒にいるのだから」


膝の上で握りしめる手に力が入る。


「カレン、どうしたんだ?何をそんなに怒ってるんだ?ああ、そうか、ゼットがあまりに強く迫ってきたから断れなかったんだろ?」


もう!無理!!


「いい加減に」


「カレン!」」


王妃様の鋭い声に、ハッとした。


「も、申し訳ありません」


すっと背筋を伸ばし、軽く頭を下げた。


「よく我慢しました」


優しく微笑んだ。


私の我慢の限界を見て、助けて下さったんだ。


「さて、陛下、この現状をどうお思いですか?」


冷静に冷ややかに陛下を見た。


「・・・こんなことになるとは・・・」


口ごもると、背筋を丸くした。


初めて見るハリアー様の姿だった。明らかに怒っている王妃様の凄まじい迫力に、逆らえないでいた。


「全く、親子して、カレンカレンと、いい加減に、なさいませ!王に相応しい教育は私がやる。お前は口を出すな、と陛下が仰った結果がこれでございますか!?如何ですか、満足に育ちましたか!?アルファードは!?」


「そ、それは・・・」


また、小さくなられました。


それで王妃様はいつも静かに見ていたんだ。本当なら自分が出たかったのを我慢していたんだろう。


「何故、私がアルファードが愛だのたわけた事を口走ったのを止めなかっと思いますか?我が息子なから、何とも愚かに育ったのだと、憤りを覚えたからです。前々からカレンが不憫だと思っておりました。ですからこれはいい機会だと口出さず、あえて陛下がいない日を選んだのです。愚かと言えば、あの宰相。人の顔色ばかり見てたいして役に立たずいつ失脚させようかと思おうておりましたが、何と全てが上手くいったことか。そう思いませんか、陛下?愚かな息子には愚かな娘が。愚かな王には、秀でた宰相が。本当に良き友人を持たれましたね」


何とも冷徹で、まるで女王様のような口調で王妃様は言い放った。


つまり、愚かな息子アルファードには愚かな娘シルビアが。


愚かな王ハリアー様には、お父様が。


・・・宰相になられたんですね、お父様。本当なら、喜んで差し上げたいのですが、今この状況下では、お預けでございますね。


そして・・・。ちらりとシルビアを見ると、真っ白な顔で固まり、アルファードは、え?私のことか?と分かっていない様子で、ある意味、図太い神経で挫ける事をしらないかもしれない。


ハリアー様はいたたまれない顔で横を向いていた。


この様子だと、お2人でかなり言い合いをしたのだろう。


初めて王妃様のこのような感情を見た。余程溜まってたのだろうな。


「それなら・・・、アルファードに秀でた婚約者がいいのでは無いのか?」


おずおずと聞いたのを睨んだ。


「既に愚かに出来上がった人間には、秀でた者の後ろ盾が必要なのです。しかしアルファードはまだこれから。私がきっちり2人を育てて参りましょう。本当にやり甲斐ある2人ですわ」


微笑みがとても怖いです!


そして、何と厳しい内容でしょうか。


「は、母上!私はカレンが・・・」


まだ言っている。


「まだ手続きは済んでおりませんが、ナギッシャ殿、宰相となります上、2人の婚約発表までご尽力を、賜りますようお願い致します。だが、まさか、ゼットが出てくるとは予想外でしたね。まあ、あれも個性が強いですが、アルファードよりはカレンには宜しいかと思います」


王妃様は明らかにアルファードの事は眼中にないようだ。


「さて、話は終了でございます。ナギッシャ殿、カレン、ご足労をおかけ致しました。もう、帰られても宜しいですよ。陛下も公務に戻られて結構です」


有無を言わさない断言に、ハリアー陛下とお父様、私は直ぐに立ち上がった。


「では、これで失礼致します。カレン、帰りましょうか」


「はい、お父様。2人とも頑張って下さい。大丈夫ですわ。だって、あの時、私に言われましたね。本当の愛を見つけたんだ、と。私こそが、愚かな婚約者だったんです」


アルファードとシルビアに優雅に微笑むと、2人は目を見開かせ、青くなった。


「そうでしたね。前の宰相からの公文書にありました。では、カレンはもともと、アルファードには相応しくなった。よく、分かりました。アルファード、シルビア、愚かなカレンに近づくのは禁じます」


意地悪そうに笑われると頷かれた。


その後すぐにお父様と部屋を出た。


アルファードとシルビアは引きつった青い顔で俯いたままだった。


週が明け学園に行くと本当に2人は私を避けた。余程王妃様が怖いんだろう。それと、シルビアはあの後、自分の屋敷にも寮にも帰れず、アルファードの誕生日が済むまてま王宮に住むことになったらしい。


うん。頑張って。


 


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