許嫁編 作戦①


姫華【六花に聞いたけど、ちょっとほっぺをぶつけて怪我をしただけだって】

姫華【ちゃんと気をつけてね! って注意しておきました!】


 姫華さんから、かわいい猫のスタンプと共にラインのメッセージが送られて来た。


 普段なら、小躍りしてしまうほどの嬉しい出来事だが、俺の心の中には、感情を全て吸い取ってしまうほどのブラックホールが渦巻いていた。


 姫華さんに……許嫁。


 もう……なにも考えたくない。考えた先には闇しかない。


「お兄ちゃん。聞いてますか?」

 

 数日たって、すっかり頬の腫れが引いた六花が、鳥の巣箱に入ったエサをツツいている。


「おい六花。それは鳥の餌だぞ。ちゃんと家のご飯を食べろ」


「お兄ちゃん? 誰と、何を喋っているんですか? すでに私はご飯を食べ終えましたよ?」


「……」


「だめですね。完全に意識がどっかに言ってしまいました。そろそろ学校に行かないと遅刻しますので、私は先に行きますね」


「ああ……うん……」


「あ。そういえば、巨乳先生の都合はどうでしたか?」


「巨乳先生?」


「白峰ほたる先生ですよ。まさかまだ連絡してないんですか?」


「……え? そんな約束したっけ?」


「しましたよ。ちょっとしっかりしてください。今日の放課後に3人で話せるようにしておいてくださいね」


「あ。わかった」


「ちょっとお兄ちゃん? お願いしますよ!」


 バシッと妹に背中を叩かれる。


「すまん」


 俺は、ヨロヨロと立ちあがりながら、学校に向かった。


 休み時間に、ほたる先生にラインを送る。


【放課後に、妹と一緒にお話したいことがあるので時間をとってもらえませんか?】


ほたる【いいよー。それじゃあ生徒指導室の予約とっておくね!】


 返事はすぐに帰ってきた。


 そう言えば、姫華さんに返信をしていない。


 なんて返信するべきだろうか。


 できたら印象がよくなる返事をしたい。許嫁がいるのだから、そんなことをしても無駄なのかもしれないけど。


 いや駄目だ。そんなこと考えるな。許嫁のことは忘れろ。



 結局、午前中の休み時間と昼休み全部使ったが思いつかなかった。



【ありがとうございます】


とだけ返信しておいた。



 放課後。

 

 生徒指導室の一室。


 ほたる先生と、六花が俺の両脇に座っていた。


「それで? 二人してどうしたの? 珍しいねー」


 ほたる先生は、俺と六花を見比べた。


「六花が話があるそうなんです」


「六花ちゃんが? どうしたの?」


 先生が六花の方を見ると、六花は形の良い眉を八の字にして、


「ていうか先生。どうしてお兄ちゃんの隣に座ってるんですか? 普通、正面じゃないんですか?」


「えー。隣の方が緊張せずにお話しできるし、いいことずくめだよ?」


「私が話しづらいんです。お兄ちゃんごしになるので」


「いいじゃん」


「わかりました。じゃあ私が真ん中に入りましょう」


 六花は立ち上がり、俺と先生の間に無理矢理入ってきた。


「え? 痛い! 大きな胸が痛い!」

 

 先生が悲鳴をあげる。


「邪魔ですから早くしまってください!」


「しまえないよ! 六花ちゃんのと違って先生のは大きいんだから!」


「聞きたいんですが、先生って脳みそが胸につまってるって本当ですか?」


 こいつら何やってんだ。


 俺は立ちあがって、反対側に座る。


「あ……行っちゃった……」


 と、先生頬を膨らませながら不満の声を出したが無視する。


 それよりも、姫華さんに送ったラインが既読にならない。


 別にいいんだけど。


 【ありがとうございます】しかおくってないし。


 別に良いんだけど、けれど昼休みから、5時間目と6時間目を終えた今、あれから2時間以上けいかしているのにもかかわらず、既読にならない。


 ああ、俺のメッセージなんて読む価値がないと思われてるのかもしれないな。


 俺がため息をついていると、


「まず。ここに姫華のスマホがあります」


 六花が言って、スマホを2台テーブルの上に置いた。

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