第23章 蝶が舞う

 りんはアパートに入った。

 カーテンはすべて閉められていて、室内は真っ暗であった。

 光彦のメモに書いてあったように靴箱の上に白色の四角いリモコンが置いてあった。

 それを取り、指示されたとおりに照明は点けずに、壁を伝って暗闇の中をそろそろとリビングまで進んだ。

 リビングに入り、これでいいのかと訝しがりながら、天井に向けてリモコンの真ん中のボタンを押すと、ウィーンという機械の作動音がした。

 しばらくして、暗闇の中に、蛍光色の黄緑色の一羽の蝶がぼうっと浮かび上がった。

 蝶はゆっくりと左右に揺れながら、宙に浮かんでいる。 

 それから、二羽、三羽、四羽、同じ黄緑色の蝶が現れて、ゆらゆらと舞い始めた。上下左右にゆっくりと飛び交っている。

 と、不意に、闇は消え、眼前に鮮やかな青空が広がった。

 同時に蛍光色の蝶は白色、黄色、青色、桃色に変わっていた。

 四羽の蝶は互いに縺れあったり、離れたり、戯れながらゆっくりと右上に昇っていく。

 それらが昇りつめて、画面から消えた。その瞬間、今度は色とりどりの蝶が左下から現れて、勢いよく舞い上っていった。

 次第にスピードを増しながら、次々と蝶が飛び出して来る。

 左下の地上から何千もの色鮮やかな蝶が弧を描きながら連なって右上の遥か天高くまで上がり、次々と蒼天に吸い込まれてゆく。

 

 ……映像が消えて、元の暗闇に戻った。

 1分余りのほんの僅かな時間だった。

 りんは身じろぎ一つ出来なかった。呆然と立ち尽くし、涙がとめどなく溢れ出た。

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