第6章

 晩飯は焼き魚と肉じゃがとお浸しだった。 

 光彦が家庭料理を欲していたので、それに応えて、りんが作ったのだった。

 食べながら彼女は自分のことを話した。 

 ファションヘルスで働きながら日本全国を旅している。関西から出発して日本海側を北上して北海道まで行き、それから太平洋に沿って南下し、先日までk市のヘルスで勤めていたのだが、その後この市に来たのだと言った。

 日本全国を旅しようというつもりはなかったのだが、成り行きでそうなったとのことだった。

 どこかに定住したいと思ったことはなかったのかと問うと、

「1ヶ月も同じ所にいたら人間関係など様々なことが澱んでくるのでリセットしたくなる」と答え、それから「ただの飽きんぼなのかもしれない」と言って、笑って舌を出した。


 光彦が風呂に入ると、昨夜のようにりんが入って来た。今度はTシャツも着ずに真っ赤なブラジャーとパンティ姿だった。白い肢体に真っ赤な下着は扇情的で、光彦は極力彼女を見ないようにして、背中に気を集めた。

 

 風呂から出ると、ビールを飲みながら、たわいない話をし、そろそろ寝ようかという段になった時、りんは真顔になって、

「明日でお別れだから、今晩抱いてください」と言った。

 光彦は思わず咳き込んだ。

 またも大胆なことを言われて、またも困惑する。もしかしたら、彼女は自分が狼狽えるのを見るのが面白くて、からかっているのではないかと邪推したくもなる。

「お店で検査をしているので、病気は持っていません。それに昨日から誰にも触れられていないので、きれいなものです」

「いや、そういう意味じゃなく、もっと自分を大事にした方がいい」

「……」

 りんは何も言わずに、光彦の顔をまじまじと見つめた。それからなんとも言えない哀しそうな、それでいて穏やかな表情になった。

「そんなこと言われたの初めてです。いつもいつも身体目当てにいっぱいいっぱい男が寄って来ました」

 それから、りんは大きく頭を下げた。「こんな私を、大切に扱ってくれて、ありがとうございます」


 翌朝、朝食を食べた後、光彦は出勤した。 

 アパートのドアの横にガス給湯器の入った金属製の扉がある。家を出る時にその扉の中に置いてくれたらいいと言って、りんに鍵を渡して、出掛けた。

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