悪意の礫

芋鳴 柏

悪意の礫

世の中にはどうしようもないものが存在する。

もはや理不尽にすら思われる、そういったどうしようもなさというものが。

大概は、他者に問題がある。

よほど自分が人様に迷惑をかけていないと考えられるのならば、突然に殴りかかってくるような人間だって、他者に厳しすぎる人間だっている。

どうしようもなさの源泉は、常に周囲と違う人間にある。

彼らを、どうすればいいのか。


人は突然に敵になる。

今まで眼中にすらないものが、唐突に自分に牙を向くようなことだってある。

私たちがすべきことは、彼らに対して自分の善悪を問う事ではない。刃物を振り回して、やたらめったらに振るう人間からは、すぐに逃げた方が良い。

もしくは、嫌味が絶えない人間がいることもある。唐突に人に、礫を放り投げて喜ぶような人間だっている。彼らは、自分の悪意の投射が誰にも気づかれないと固く信じている。

スナイパーのように、自分のストレスを他者に打ち込むような人間もいる。


言葉は十二分な凶器だ。

怒鳴れば包丁、小言は弾丸。そんな危なっかしい凶器を振り回すような連中に、むざむざと刺されている必要は無い。自分が行える最低限の範疇で、彼らから逃げるべきだ。

逃げは恥ではない。

世の中は人がごまんといる。

一人や二人ぐらい外れがいたっておかしくない。

それを遠ざけて、自分が最も生きやすい場所で生きていくべきなのだ。


悪意の礫にどう対応すればいいのか。

これには考える必要が無い。よほどの悪事を自分がしていない以上、ただの理不尽である。

そして往々にして、そういった礫は的を選ばない。

私が的から降りさえすれば、別の的に投げ続けるだろう。

遊戯として人を狙いすまして弾を撃ち込むような人間に、どうして撃つのですかなどと問う必要は無い。人を的にしてしか見れない彼らは、人を選別し、的になりそうなものだけ撃っているに過ぎない。

私が的になるのを止めるのか、的全てが彼らの視界から消えるまで終わらない。

だからこそ、こういった理不尽な悪意からは早くに逃れるに越したことはない。


私たちは関わる人間を、選別できる世の中を生きている。

自分にとって「いらない」人間に、「いらない」を言える世の中なのだ。

「いらない」に理不尽を課すのも、「いらない」を遠ざけるのもなんだっていい。

「いらない」にいらぬ牙を向く必要は無い。

それこそ本当にくだらなくて、どうしようもない話だ。

「いらない」を視界から消した後に、気付けばそんな人のことすら頭からは無くなっていく。

的も、人も、本当の事を言えば、どちらもどちらで「いらない」からそうするだけなのだ。

私は、的になるほど好き好んで傷つくようなタイプじゃない。

嫌なものは、嫌である。

我慢なぞは、身体に悪い。

逃げの一手が、必定なのだ。

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