16.「孫子」第七章・軍争篇/2
古い兵法書(※2500年前基準)には、「たぶん教えても分からないから、『この太鼓や鉦の合図にあわせてこう動け』『この旗印がこう動いたら、決められた行軍を行え』とだけのみ叩き込んで、余計なことは言わない」とあります。
一見古いやり方のようにも見えますが、実は今(※2500年前)の戦いにも応用できるものです。
音でタイミングを一致させ、旗印で行軍の方向を操る。あるいはそれを応用してより複雑な動きをも可能にさせる。これはひとえに、進軍や退却、攻撃や防禦の切り替えを可能にせしめるためにあります。
こうして整備され、教育された軍は、蛮勇や怯懦に揺れることがありません。
なぜなら、昂奮して単身陣を抜けて相手へ切り込んだり、恐怖によって戦場から逃げることを封じているからです。
こうしていると、乱戦に有利です。
そもそも乱戦はどこが何やら、何がどこへやらといったカオスになりがちなものですが、こうして陣形を常に保つことを考えていれば、隊がまるで個人のように動き、大隊がまるで小隊のように動くので、大人数でも小勢のように扱えます。
大軍を操るコツは、そこにあります。
さらに、そうした「わけが分からなくても動ける態勢」をより突き詰めて考え抜いていれば、その応用だって利きます。
できるだけ多くの太鼓や鉦を揃えて、旗印も多様なものを揃える。
そうすると「相手にノイズを与える」ことだって可能なのです。
たとえば、太鼓や鉦が鳴れば動け、みたいな情報だけでなく、「この太鼓、鉦が鳴った時にはスルーして良い」「この旗印はフェイクである。動いてもついていってはならぬ」と教えていれば、相手は(ある程度こちらの音や旗印に反応できるようになっても)、翻弄されて、整然と動く自軍に対して何の手立ても打てなくなって右往左往します。
右往左往している軍は、どんな将軍とて建て直すのは骨です。
さらにそれに追われて将軍さえも混乱させれば、そこの覇権は自軍のものになること間違いありません。
◇◇◇
相手の気力や体力を読み取るのも大事です。
だいたい起き拔けの朝方は、敵も疲労がある程度抜けて元気です。
しかし昼を過ぎればそれも徐々に鈍化して、戦い抜いた後の夕方は、誰も彼も疲労困憊して、動くこともままなりません。
こうしたことを知っていれば、「あえて一日動かず気力体力を溜めていた軍」を用意しておいて、相手が疲労困憊してフラフラになっているところを追撃させる、などということも可能なわけです。
こういうことを知っていると、相手の気力や体力ですら「勝てる要因」になり得ます。
また、混乱している状態の敵軍に、整然とした自軍を当たらせる。
昂奮して周りが見えていない状態の敵軍に、状況がよく見えている自軍を当たらせる。
こうすれば相手の将軍の心をも支配することが可能です。
さらに、遠くから来る敵軍を有利な場所で待ち受けて襲いかかる。
戦い抜いて疲労困憊の敵軍に、気力体力の充実した自軍をぶつける。
補給なしでフラフラの飢えた敵軍に、補給充分の状態の自軍で攻撃する。
こうすることで、戦力差のデメリットを埋めて、弱兵でも強兵を打ち破ることが可能になります。
加えて、整然とした旗並びの敵軍は避ける。
準備が整っていて正面衝突するしかない敵軍も、正面からは当たらない。
あるいはそのように(消耗戦を避ける方に)動かす。
このようにしていれば、余計な戦力を削らず、相手の変化に対応することが可能になります。
とにかく、有利不利と優先順位を間違えず、消耗戦は徹底的に避ける方向で行く。
これが(実際に武器をかちあわす)戦争を勝つコツと言うことができましょう。
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