第52話 翔べ! カティア

 旧世界にて建造された巨大な魔道艦ターミナートル。当時の最先端技術を詰め込んだ鋼鉄の塊は朽ち果て、今は荒野の中で古代遺跡と化している。

 そんな魔道艦を仕事で訪れたマリカとカティアは、コウモリに似た不気味な闇の魔物”ハンターバット”の群れに襲われていた。その数は十体程で、マリカとカティアに対して口から魔弾を放って攻撃を仕掛ける。


「飛び回る敵に対処するのはムズいなもう!」


 ハンターバットの戦闘力は特段高いというものではない。では何が厄介かというと、高度な飛行能力を有している点である。獲物の上空から魔弾で攻撃し、確実に弱らせて仕留めた上で肉薄して血を吸うのだ。

 マリカやカティアに翼は無く、自由に飛び回る敵から一方的に撃たれ続ける。一応はカティアが杖を装備しているので対空射撃が可能であるが、さすがに物量差で負けているので応戦は難しい。


「マリカ様、わたしが援護しますのでアチラの部屋に逃げてください!」


 二人が落下した場所は広い空間で、遮蔽物も無いうえに高さがある。つまり、ここは飛行するハンターバット側にとっては有利な地形となって、まさに狩場となっているのだ。

 それならば狭い部屋などに逃げ込んだ方が生存率は高く、相手に頭の上を抑えられない状況を作るべきだとカティアは判断したのである。


「カティアも続いて!」


 援護を受けたマリカは無機質な部屋の中を走り、カティアが指し示した扉を目指す。その扉には”武器庫”と書かれたプレートが打ち付けられていたが、文字など読んでいる暇は無く、勢いよくガチャッと開いてカティアを待った。

 魔弾を連射して隙を作ったカティアは手招きするマリカのもとに駆けて扉をくぐる。


「これで一安心・・・・・・」


 という訳にもいかず、カティアの通過後に閉めらた扉はハンターバットの魔弾で吹き飛んだ。狩人の名に恥じない獲物への執着を見せつけ、逃げたマリカ達への追撃を諦めない。


「だったらさ!」


 近くにあった棚などを入口に移動させるが、これらも一時的な時間稼ぎにしかならないだろう。すぐさま魔弾によって破壊されてしまうのは火を見るよりも明らかだ。


「カティア、何か案はある?」


「うーんと・・・ええと・・・・・・あっ、アレはオプションユニット!!」


 いくつかの弾頭や兵装が乱雑に散らばっている武器庫の中、見覚えのあるコネクターを搭載したユニットをカティアが発見する。これは間違いなくアンドロイド用のオプションユニットで、その近くに落ちていた付属品と共にカティアが引きずって運ぶ。


「高機動パック・・・戦闘用アンドロイドのために開発されたモノです。魔力を推進剤として飛翔する事ができます」


「こりゃいい。おあえつらえ向きだね、今回の敵には」


 すぐさまマリカはリペアスキルを使い、ユニットと付属品全てを修復した。

 鈍い輝きを取り戻したユニットはランドセルにスラスターを付け足した形状をして、そのスラスターから凝縮した魔力を噴射して跳躍するのだろう。


「後は、この脚部用のサブスラスターを付けて・・・・・・」


 高機動パックと共に発見された一対の半円筒は、ふくらはぎに装着する装備のようだ。装甲のようになっている半円筒の側面と背部には小型スラスターが突き出ていて、これも推進器として機能するらしい。


「マズい・・・! バリケードが突破される・・・!」


「お任せください! これで空戦もある程度できますから、ハンターバットを蹴散らしてみせます!」


「頼むね! 私は射撃はヘタッぴだけど杖の魔弾で援護する!」


「はい! わたしは剣で近接戦を仕掛けます」


 ハンターバットによって破壊されたバリケードを乗り越え、カティアが敵の飛び回る大部屋へと乗り込む。


「高機動型カティア! いきます!」


 バックパックとして背負った高機動パックに魔力を流し、その内部で魔力が凝縮されていく。直後、眩い閃光がスラスターから噴き出して、強大な推進力を得たカティアが飛翔する。まるで旧世界におけるロケットや戦闘機の発進のようで、加速していくカティアはハンターバットと同じ高さまで一瞬で到達した。


「マリカ様に手出しはさせません!」


 素早い剣戟でハンターバット一体を両断し、鮮血を撒き散らして遺体が落下していった。

 更に脚部のサブスラスターによって姿勢制御を行い、次のターゲットめがけて滑空していき、すれ違いざまに一閃して撃破する。


「スゴイよ、カティア! これなら勝てる!」


 カティアの活躍を目の当たりにし、快哉を叫ぶマリカは魔弾で支援を行って一体を撃破した。しかしマリカの射撃能力は低く、連射の末にやっと直撃させることができて、まさに数撃てば当たるを体現した戦い方をしているので燃費が悪いにも程がある。

 カティアの強襲も相まって残るハンターバットは四体となったが、彼らは狩りを諦めることはなく、その凶暴性を表すかのように反撃に移った。生存本能よりも闘争本能が勝っているようで、とにかく獲物を喰い千切って血を吸い取ることしか考えていないのだろう。


「早く終わらせたいな・・・!」


 魔弾を撃ちまくったせいでマリカの魔力は少なくなっていた。このままでは魔力切れは時間の問題で、それまでに敵を殲滅しなければ死は免れられない。

 敵の数が減ったことでマリカは少し冷静になり、カティアの背後に迫ろうとするハンターバットを狙撃する。多少狙いがズレて一撃必殺とはいかなかったが、カティアが振り向いて剣で切断した。


「ありがとうございます、マリカ様!」


「残るは三体だよ。一気に勝負を決めよう」


「はい!」


 スラスターを全開にしたカティアが掴みかかってきたハンターバットの翼を切断して墜落させ、そこをマリカがトドメを刺す。これで二体二へと持ち込んだわけだが、互いを守り合いながら連携するマリカとカティアの方が優位に立っているのは間違いない。


「私が敵の動きを封じ込めるから、仕留めて!」


「了解です!」


 いくら狙い定めた攻撃が下手と言っても牽制くらいはできる。マリカは敵の進行方向に魔弾を放って急ブレーキをかけさせ、そのスピードが鈍った隙にカティアが確実に倒す。

 強い信頼と共に補い合う二人は最後の一体に集中し、挟撃してハンターバットの逃げ場を封じる。そしてカティアの強烈な斬撃が炸裂、ハンターバットは頭部から一刀両断にされて沈黙した。

 

「全部倒せた・・・・・・」


「お見事です、マリカ様!」


「いやいや、カティアのおかげだよ。私だけだったら、あのコウモリ達に全身から血を飲まれていた」


「マリカ様の血液・・・きっと美味なのでしょうね」


「そ、それはどうでしょうね・・・?」


 本当の吸血姫のようなコトを言い出したカティアに苦笑いしつつ、ハッとしてマリカは上を見上げる。一応は窮地を脱することができたが、アレクシアとは離れ離れとなってしまっているのだ。


「アレクシアさんもハンターバットに襲われているだろうから助けないと」


「わたしの高機動パックなら上まで行けます。お運びしますね」


 お姫様抱っこの要領でカティアがマリカを持ち上げ、スラスターを点火して飛び立つ。そしてマリカ達が落下した大穴まで辿り着き、上の階の床へと降り立った。

 

「アレクシアさんは・・・?」


 周囲を見渡すと、いくつかのボロボロとなったハンターバットの死骸が転がっている。

 その少し先に視線を向けると、剣を突き出してハンターバットの胸部を突き刺しているアレクシアが立っていた。その相手が最後の一体だったようで、ゆっくりと剣を引き抜くと周囲には完全な沈黙が訪れて羽音は一切聞こえなくなった。


「あら、アナタ達も無事だったのね?」


「なんとか・・・アレクシアさんも一人で敵を全滅させるなんて凄いですね」


「私はアンドロイドの始祖たる存在なのよ。この程度、どうという事はないわ」


 剣の刃先に付着した血肉を振り払いつつ、まさにドヤ顔で自らを誇るアレクシア。プロトタイプアンドロイドというのは聞いていたが、その性能は後の量産型アンドロイドよりも上回っているらしい。


「まあ久しぶりの戦いだったのでカンを取り戻すのに多少かかったけれども・・・・・・アナタはオプション装備を見つけたようね」


「あ、はい。たまたま発見しまして、マリカ様のリペアスキルで直して頂いたのです」


「ほう・・・さすがのリペアスキルね。これは本物だわ」


 カティアが背負うユニットを観察し、その状態が製造直後の良好さを示していることに感嘆している。これを利用すれば自らの目的も達成できるだろうと口角を上げながら。


「アクシデントがあったけれど、仕事を続けましょう。目的の動力機関はもっと先にあるわ」


 魔具を仕舞って歩き出したアレクシアに続くマリカ達。

 魔物との戦闘はあくまで事故や災害のようなモノであり、マリカの依頼された事案はまだ解決されてはいないのだ。



   -続く-
























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