#10 私を許して
私は私を見なくなった永野に戸惑った。私は彼を傷つけてしまった。それは私を苦しめるに十分なものだった。傷ついたのは永野なのに私が今苦しんでいる。嫌われたかった。それは事実。だけどこんな気持ちになるなんて思わなかった。
しかし自分の気持ち一心で永野に酷いことをしていたのに謝る気にはならなかった。謝るくらいなら、私は少しぐらい彼の言葉に聞く耳を持つべきだった。彼の言葉をちゃんと受け止めて考えて答えを出すべきだった。ただただ彼を突き放すのはやめるべきだった。わかっていたのに出来なかった自分が憎い。
気まずい気持ちのまま一時限目が始まった。
まるで授業が頭に入らなかった。ただ目の前の永野が気になって仕方なかった。今はどんな気持ちだろう。彼はどう思っただろう。私はなんてことをしたのだろう。
痺れを切らした私は休み時間永野に話しかけた。
「永野。」
しかし彼は答えてくれなかった。無視された。私は苦しさを覚えながら永野に声をかけた。
「カ、カズ!」
すると永野は私を見た。その鋭い瞳が痛い。心を抉るようだった。
「何?」
「ご、ごめん。」
すると永野は私に言った。
「何が?」
「無視したりして。」
「そんなのアヤが嫌いになってほしかっただけだろ?俺がお前を好きになってほしいのと同じだ。」
さらっと言う恥ずかしい言葉に私は顔を赤らめた。そしてうつむいた。
「こっち見ろよ。」
そう言って永野は私の頬に優しく硬い大きな手を添えて私の顔を上げた。
「知ってるよ。」
彼はそう言った。私は彼の顔を見て「え?」と声を漏らした。
「お前が本当は俺のこと好きなの。」
え???
「どういうこと?」
私がそう言うと永野は太陽みたいに眩しい笑顔を私に向けた。
「だって俺のことずーっと考えてしまうくらい俺を意識してるんだろ?」
私は、その言葉の意味を理解すると同時に顔を真っ赤にした。そして近い顔をぐいっと押した。そして席を立って「永野の馬鹿!」と言ってトイレに駆け込んだ。
私には聞こえなかった。彼の「カズって呼べよ」という声が。
私は暫く冷めない体の熱を嫌ってほど感じていた。そしてこう思った。
やっぱり永野なんて嫌い!
永野は私のことをからかってるだけだ。じゃなかったら私が彼のことが好きなんて言わないはずだ。彼は私をからかってる。なのに私の顔の熱は覚めることなかった。
永野は頭をかきながら笑った。私は笑い事じゃないと思いながら次の授業の準備をして席についた。嫌だな、永野が前の席なの。
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