第26話 騎獣厩舎

 次に連れて来られたのは、大きな檻の並ぶ騎獣厩舎。


「ここでは団員の騎獣や、訓練中の魔獣が飼育されています」


「わあ、すごい!」


 見たこともない魔獣がいっぱいだ!

 大きな運動場もあって、放し飼いにされている個体もいる。


「知能の高い魔獣はある程度自由にさせていますが、獰猛なものは厳重に管理させれるんですよ」


 ゴードンが説明する。

 人間と同じで、魔獣にも個性があるのね。


「あ、ルラキだ」


 運動場の隅で丸まって日向ぼっこしている藍色の翼竜に呼びかけると、ルラキはバサリと翼を広げて一羽ばたきで私の前に降りてきた。


「久し振り」


 頭を寄せてくる竜の長い首を撫でていると、ゴードンが意外そうに、


「フィルアート殿下の騎獣を知ってるんですか?」


「この前、乗せてもらいました」


「まさかあの人、またデートにルラキ連れてったんじゃないでしょうね?」


 ……その話、有名なんだ。


「副長の騎獣はどこです?」


 水を向けると、ゴードンは「こっちです」と案内してくれる。

 鉄柵の中には、頭がライオン、胴体が山羊、尻尾が蛇、そして鷲の翼を持った魔獣が十数匹。


「シメール!」


 ゴードンが呼ぶと、その内の一頭がのそりと近づいてきた。


「私の相棒、シメールです」


 立派なたてがみのライオン頭は、ゴロゴロと喉を鳴らしてゴードンに頬を擦り付ける。


「この魔獣はなんていう種類なんですか?」


 私は尻尾をボワボワにしてシャーシャー威嚇するセリニを宥めながら訊いてみる。


合成獣キメラです。王国軍が開発した、飛行タイプの量産型人工魔物」


「魔物を人の手で創るんですか!?」


 そんな技術があったなんて!

 驚く私に、彼は苦笑する。


「パルティトラ王国と暗晦の森の魔物との戦いの歴史は長いですからね。魔物に対抗する為に魔物を利用する技術も発展しました。外法という人もいますが、私は人類の叡智だと思っています」


 魔物を倒す為に魔物を使う。

 恐ろしいことだけど……。それくらい、人間も必死なのだ。


「撫でてもいいですか?」


 キメラに近づく私に、ゴードンは頷く。


「どうぞ。でも、私が居る時以外は触らないでください。所有者契約は本人にのみ有効ですから、迂闊に近寄って腕を食い千切られても自己責任ですよ」


 ……う、肝に命じます。

 因みに厩舎係は、所有者から一定の権限を行使できる権利を与えられているそうだ。

 シーメルの鬣を触ってみると、よく梳かれているのが判る。ゴードンが大切に手入れしているのだろう。


「うちの子もエレノアさんの窮奇みたいに小さければ連れ歩けるのですが」


 ぼやくゴードンは結構動物好きなのかもしれない。

 初対面は酷かったけど……そんなに悪い人でもないのかな?

 ざっと見渡すと、魔獣もいるけど、やっぱり馬と二足跳ね蜥蜴がダントツに多い。


「翼のある騎獣は少ないんですか?」


「飛行タイプは高いですから。私のシメールもあと二年ローンが残ってます」


 ……分割払いが利くんだ。


「エレノアさんにも馬か跳ね蜥蜴が支給されますから、事務局で申請してください。まだ窮奇には乗れないでしょうから」


 淡々と語る副長に、私はちょっと反発する。


「セリニです」


「……はい?」


「この子の名前はセリニです」


「……失礼。よろしく、セリニ」


 ゴードンは眉尻を下げて言い直す。

 うん、ちゃんと伝えれば話が通じる人だ。

 彼は挨拶しながらセリニに指を伸ばし……ガブッと噛まれました。

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