第25話 副隊長ゴードン

 パタパタっと小さな羽を懸命に動かして私の元まで飛んできた白い仔虎を、私は片手でキャッチして胸に抱く。


「まったく、命令違反ですよ。今度上官の命令を無視したら営倉に送りますからね」


 眉間にシワを寄せるゴードンに、私は「申し訳ありませんでした」と頭を下げる。……鉄火なところは私の短所だ。


「でも、フィルアート殿下が気に入った理由が解りました」


「え?」


 顔を上げた私に一瞬だけ目尻を下げてから、ゴードンは真顔に戻った。


「エレノアさんは剣筋がめちゃくちゃですね。反応は速いんですが、大振りが多くて命中率が低い。訓練メニューは基本動作から始めましょう」


「ゴードン副長が訓練メニュー作るんですか?」


「隊員の管理は私の仕事です」


 そうなんだ。じゃあ、第七隊の事務的役割の人なのかな? と勝手に解釈したけど……。

 私はこの後すぐ、ゴードンの実力を目の当たりにすることになる。


「では、次は厩舎に……」


 ゴードンと私が歩き出そうとした瞬間、不意に頭上が翳った。

 振り返ると、そこにはバスタードソードを掲げたジムの巨体が!


「ふざけやがって、クソアマ!!」


 風を巻き起こし、大剣が振り下ろされる。

 避けなきゃ!

 自分とセリニを守るので精一杯で、必死で一歩後退る私の前に……、気がつけば、ゴードンがいた。


 ……え??


 隣にいたはずなのに、いつ動いたのかすら解らない。ジムの剣戟の軌道を塞ぐように私の前に立ったゴードンは、ひょいっと右手を伸ばすと、剣の柄を握るジムの左手首を掴んだ。そして軽く腕を捻り上げるとジムの身体はふわりと宙に浮き、手を離した瞬間、地面に叩きつけられていた。


「うぅっ!」


 蹲って痛みに苦悶する巨漢を、細身の青年は冷めた目で見下ろす。


「この件は第二隊隊長にご報告します」


 淡々と吐き捨てると、踵を返す。


「次は厩舎ですね。時間が押しています。急ぎましょう」


 何事もなかったように歩き出すゴードンに私は言葉も出ない。

 ……この人、むちゃくちゃ強い。

 フィルアートもヤバいと思ってたけど……。騎士団って、このクラスの人がゴロゴロいるの?

 私、純粋に力だけならジムにも敵わないっていうのに。

 ……とんでもない人外魔境だ……。

 ちょっと高くなった鼻っぱしらを、一瞬にしてぽっきり折られてしまった。

 色々と打ちのめされつつ、私はゴードンの後を追いかけた。

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