第17話 新たな出会い(2)

 ……そう、私が助けたのは少年じゃない。ゴロツキの方だ。


「あなた、私が声を掛けなければ、あのゴロツキ達に魔法で攻撃するつもりだったでしょう?」


 私は多少魔法の心得があるから魔力を察知できるし、あんな一瞬にして総毛立つ殺気を放たれたら嫌でも気づく。

 ……この子が、危険な魔法を使おうとしていることくらい。


「そうだね」


 少年はニコニコと、


「改めて。ありがとう、お姉さん。僕に人殺しをさせないでくれて」


 殺そうとしてたのか。やっぱりね。

 彼は無邪気で罪悪感の欠片もなくて……それ故に、躊躇がない。

 怯えているように見えた表情は、ただ虫けらに絡まれたことが不快で歪めていただけだったのだろう。

 どうしよう、厄介なのと知り合っちゃった。逃げた方がいいかな?

 私が考えあぐねていると、少年の方から私に近づいてきた。


「助けてもらったから、何かお礼をした方がいいかな?」


「別に……」


 及び腰の私に、彼はぐいぐい来る。


「遠慮しないで。僕、意外となんでもできるよ! あ、そだ。そのレアカラーの窮奇、まだ所有者登録してないよね。僕がしてあげるよ。僕、資格持ってるから!」


 凄い。一目で魔物の名前も契約の有無も解るんだ。


「僕と髪と同じ色の窮奇、可愛いなぁ」


 雪のように真っ白な髪の少年は、白地の虎の背を撫でる。怒るかと思ったが、魔獣はゴロゴロ言いながらされるがままにしている。


「ね、お姉さん、なんて名前? 窮奇も」


 少年が紫色の瞳を向けてくる。


「エレノア・カプリースよ。こっちはセリニ」


 なんだか押されるままに答えてしまう。


「了解」


 少年はにっこり微笑むと、背伸びをして私と窮奇の額に手を宛てた。


「我、スノー・レシタルの名において、エレノアとセリニの主従の絆を結ぶ」


 聞き取れない言葉が詠うように紡がれ、彼を中心に光が溢れてくる。額が熱い。セリニの魂の一部が私の中に流れ込んでくるのが解る。きっとセレニも同じだろう。

 呪文が止み、光が収まると、彼は手を離した。


「はい。出来上がり! 後で登録書類を役所に提出してね」


「あ……ありがとう」


 金貨五枚の施術が無料で済んでしまった。……ラッキー?


「じゃあね、お姉さん」


 彼は呆然としている私を置いてその場を離れようとして、「あ、そうだ」と戻ってきた。


「お姉さん、忘れ物」


「え?」


 おいでおいでと手招きされて、私が腰を曲げて顔を寄せた、瞬間。

 チュッと頬にキスされた!


「な……!?」


「あはは! またね、エレノア!」


 悪戯な子供の笑顔で手を振って、少年は去っていく。


「……なにあれ?」


 立ち尽くす私の腕の中で、窮奇がみゅーと鳴いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る