Session6-12 〈魔神の種〉との類似性

GM/クレナイ:しんとした静かなホールに、オレンジ色の柔らかくもの悲しげな光が、ほのかに灯る。

──"奈落教"のこと、ホルンの師匠イアンのこと。ハイマンのこと、魔動機のこと……。すべてを伝えれば、なるほど、とクレナイはうなずく。

「そうでちたか。……お疲れさまでちた。しかし、"奈落教"が絡んでいると……」


オルフ:「真偽を確かめた訳じゃないが……あそこまで奈落に精通して一切絡んでないって方が違和感がある。」

GM/クレナイ:「……遺跡ギルドではない大きな勢力として、一応の警戒はしていまちたが。確定とみても良いでちね。"紫水晶"を魔神が所持していたことも、それが異界由来のもの……『異界の力』であると考えれば、おかしくはありまちぇん」

シンカイ:「意図的にこぼしたようにも見えましたが、まず間違いはないと思われます」

GM:『異界の力』……ハーヴェス王国へ赴いたさいに探索した、あの遺跡に書かれていた言葉でもある。

オルフ:「異界の力、ね」

GM/クレナイ:「"奈落の魔域"のような門を通ることができる、というのは……おそらく転移魔法の代わりでちね。【テレポート】、【ディメンジョン・ゲート】に近い、長距離を一瞬で移動できる手段を持っているとなると、捕まえるのは困難でち……」


シンカイ:「あの女史と……同じ魔法印を持つアルクトス様も関係があるのでしょうか?」

アルクトス:「……」

オルフ:「どうだろうな。あの女の意識が戻れば何か分かるかもしれないが」

GM/クレナイ:「あの女性のことも、調べてみなければなりまちぇんが……」クレナイはしばらく口をつぐむ。「彼女は、"紫水晶"を持っていたのでちね」

オルフ:「ああ、間違いない」 

GM/クレナイ:「感情を暴走させる代わりに、大きな力……"暗黒の波動"をさずける。その効果は、お前さまたちも知っての通り。でちが、そこから先……欲望に飲まれ続けた者はどうなるか?」ランプの明かりが揺れる。

「あちきも、数例しか見てはいないのでちが……あのハイマンのように、徐々に感情が欠落し、最終的にはいっさいの感情を無くしてしまう、といわれていまチュ」

アルクトス:「アレが末路、ということか」

シンカイ:「あのお方はそのような状態に……」

オルフ:「感情の欠落か。……それは」却って使いやすくなりますね、と。

GM/クレナイ:「そうでち。……ただ、アルクトスには反応があったのでちね? それならば、まだ治る可能性はありまチュ。奈落教、魔神、紫水晶……アレが異界の力を根源とするのであれば、似たような事例があるのでち」

オルフ:「似たような事例?」

GM/クレナイ:「……まだ予想の範疇ではあるのでちが、『魔神の苗床』と酷似しているのでち」

シュシュ:出たわね。



魔神の苗床は、召異魔法【デモンズシード】の魔法によって生み出される〈魔神の種〉を、人族に植え付けて作られる一種の生贄です。植えられた者は、魔神使いへの思慕の感情を抱くようになり……やがて情熱的な心酔や恋慕へと変わり、最終的には、自我を失い、〈魔神の種〉を植えた相手の命ずるままに動くだけの存在となりはてます。



オルフ:「魔神使いに“種”を植え付けられた状態だったか?」

アルクトス:「どこかで聞いた話だな」

シンカイ:「召異魔法の負の面にして、真実の形……。つまりあのお方は、何かしらのいしずえにされているやも、と……」

オルフ:つまり、殺して蘇生すれば治る。

アルクトス:過激すぎぃ(笑)。

GM/クレナイ:「魔神の苗床になった人物は、魔法で〈魔神の種〉を取り除けば、やがて元の感情を取り戻しまチュ。……〈魔神の種〉の代わりが"紫水晶"なら、あとはちゃんと安静にしていれば……いつかは……」

オルフ:「つまり必要なのは時間って訳だな」

GM/クレナイ:「でち。あのハイマンはひとまず、しばらくはこの宿で預かりまチュ。……ライフォスの治療院に預けてもいいのでちが……色々な面で、周りが怖いでちからね」

オルフ:「罪人であることは確かだからな。結局、当人の都合なんざそれで被害を被った、被りそうな奴からすれば関係ない」それが気に喰わない、という顔はしつつ。

イスデス:難儀なお方よ……。


GM/クレナイ:「イアンのことも、ホルンに伝えておきまチュ。……なんでも、魔術をかけられて強制されているようでちから。なんとかしてその魔術を解除できれば、貴重な情報が引き出せるかもしれまちぇん」

オルフ:「つまり、次会ったら捕まえて引き摺って来いって事だな」

アルクトス:「ただ、無理に連れてくると術で死にかねないか? 解除できる目途が立ってからの方が良いだろう」

シンカイ:「うかつに触ると……色々としがらみが込み入ってますわね。もどかしいですわ……」

GM/クレナイ:「なのでまあ、気絶させて連れてきて、魔法を解除……したいのでちが、すぐにその手段は確保できまちぇん。アテはあるのでちが……」

オルフ:「ひとまず確保まではしてもよさそうだな。そっちは後回しだ」 

GM/クレナイ:「お願いするでち。……まあ、この件が起こってすぐにまた、グランゼールに潜入してくるとは考えづらいでちがね。それと、おまえ様たちの戦った妙な魔動機に関しては、パーツをマギテック協会に送って調査してもらおうと思いまチュ」

オルフ:「頼む」

GM/クレナイ:「何かわかったら、こちらに連絡してくるように言っておきまチュ。……と、そのくらいでちかね。……依頼の追加報酬は、明日にでも渡しに行くでち」

クレナイはきみたちに、3000Gの入った金貨袋を手渡してくる。後日、君たちの回収した紫水晶の量に応じて、追加で振り込まれるだろう。


オルフ:「……そうだな、休ませてもらうか」 

GM/クレナイ:「……お疲れさまでちた。おまえ様たちには無理をさせて申し訳ありまちぇんね」クレナイは、少し落ち込んだ様子で言う。「あちきがもっと……魔剣の声を聴けていれば、よかったのでちが」

アルクトス:「……。もしあの女が目を覚ましたら呼んでくれ、口が利けるかは知らないが」

GM/クレナイ:「了解しまちた。……アルクトスとは、なにか関係がありそうでちからね」

アルクトス:「ふん……私は知らないが、そうなのかもしれん」

オルフ:「自分に出来ない事が出来たら、なんて考えるだけ時間の無駄だ。そんな事を考えてる暇があったら休んでる方がまだマシだ。……明日も早いだろ」おまえもねろ。

GM/クレナイ:「言うようになったでちね。オルフ」

シンカイ:「オルフ。……わかりきっていることを強く言わないの」苦笑してたしなめます。

GM/クレナイ:「まあ正論も正論でち。……今は、おまえ様たちが頼りでち。あちきにできることは、おいしいゴハンを用意しておくことくらいでちからね」

アルクトス:「普通こんな夜間まで動いたら次の日は休みだろ……」

シンカイ:「他の従業員様も大勢いらっしゃいますから。そこがこの店の強みなのでしょうね」

オルフ:「それでいい。……洗い物くらいはやっておく」


GM:──瞬間、オルフの脳内に、何者かの声がわずかに響く。

オルフ:「……ッ」 飲み終わったカップ持って厨房に引っ込も……うとして。

GM:『それでいい。今はただ、強くなりなさい。オルフェウス』


オルフ:「……言われずとも、だ……」

言われずともそうするつもりだった。だが、何もできないのだから何もするな、と言われたようで。何処か、苛立つ自分がいた。


GM:『やがて、貴方は王に──』……声はそのまま、沈むように遠ざかっていく。

オルフ:頭を振り、言葉を追い出す。何度か聞いてきたが、今は聞きたくなかった。俺は今、冒険者になっている最中だ。

GM/クレナイ:「……オルフ? 大丈夫でちか?」

オルフ:「……もういい時間だ、全員寝ろ」振り払うように全員の前にあるカップを回収する。「疲れが出ただけだ。洗い物を済ませたら俺も寝る」



GM/クレナイ:「……。最初にここへ来た時も……何か、感じ取っているのでちか……?」その背中を見ながら、クレナイは呟きを漏らした。




 第6話 『グランゼールの地下街へ』 了

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