第6話『下女』(1960)

一番強い韓国映画でございますか?

韓国映画にもいろいろありますな。

美男美女の恋物語、就職難のフィッシュマン、財閥の殺人犯、財閥の殺人犯、ハイパー悪の市長、財閥の殺人犯、半地下の家族、超能力殺人犯、漢江の怪物、財閥の殺人犯……多種多様な、学問のようなものでございます。


ただ、たったひとつ、オールタイムベストを挙げるとするならば、『下女』でございます。


『下女』


今は亡き韓国映画界屈指の怪物監督キム・ギヨンが1960年に放ち、韓国映画オールタイム・ベストのアンケートで堂々第1位にも選出された、彼の代表作にして最高傑作。韓国映画の草分けであり、アカデミー作品賞『パラサイト 半地下の家族』も本作品の影響下にあることで知られている。


あらすじはこうだ。

裕福な音楽教師のもとへ下女が派遣されてくる。この下女がヤバい。品もなく態度も悪ければ意地も汚い。だが美しい。やがて主人は下女に弱みを握られ家庭が崩壊していく、というものだ。


この下女の演出があまりにも上手すぎる。

あまりにも薄幸な外見、それに反したギラついた視線、頻繁に指先を口に運ぶ物干しそなしぐさ、舌なめずり。この下女を見た瞬間に「逃げろー!!」と叫んでしまうこと請け合い。家じゅうのネズミすら逃げ出す恐怖心が背筋を走ります。


彼女は幸せな家庭をどんどん不幸に追い込み、主人を誘惑して強請り、家族だけではなく、この一家にかかわるものすべてを不幸に引きずりおろしていきます。


「私一人が不幸にならない全員引き下ろしてくれる」

「私は悪くない」


そういった負の存在の概念存在。

「恨」という感情が受肉したものであります。

炸裂する殺鼠剤、場面転換したら一人減ってる、階段落ち。

のオンパレード。

そして、家族が失われた家の中で鳴り続けるるミシンの音。ミシンの音。ミシンの音。ミシンの音。


嗚呼一家全滅……。


ところが、一転。


急に時間が巻き戻り奇妙なほど明るいエンディングが始まります。


「はっはっは、下女に対して身を持ち崩すなんて、あるわけないよね!」

「やだーお父様ったら><」

「わっはっは、わっはっは」


(そして画面が暗転してアイリスアウトして終わっていく)



これまでの底冷えした陰湿な韓国映画をお見舞いされてきた我々は、寒暖差で急に風邪をひきます。教授、これはいったい!?


「なんかあまりにも救いがなさ過ぎて、政府に怒られたかなんかして、チャンチャンってエンディングにしたらしいぞい」


「へー」


あまりにも卓越した恐怖演出と、異常なエンディング。

サウナのごとき寒暖差を味わえるのは本作しか存在しません。


こんなの小説でやったら全問不正解で失格だよ。


いやはや、おもしろすぎる。


私は、この作品からどんなに暗い話でも無かったことにしてジャンプして丸ワイプしたら終わっていいと学びました。


『下女』

(DVDのレンタル等でお楽しみください)

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