第146話 角狩りついでのレベリング

「〈ブレイブスラッシュ〉!」


 聖剣が光を纏い、振るわれた斬撃がサンダーディアーの首を落とした。

 何度か周回する内に〈くくり罠〉で吊り上げる手間も省き、〈潜伏迷彩〉で接近、聖剣で瞬殺している。どの道、ジョブの殆どはレベル20を超えているので、経験値を稼ぐ必要も無い。時間効率重視で、回転数を上げていた。


「あぁ~、また外れの皮です」

 お供のアクアディアーも、レスミアがミスリルソードで首を落としている。〈不意打ち〉するのも手間なので以下略。


 ドロップ品と宝箱を回収して〈ゲート〉でエントランスへ戻った。そして、鳥居型の転移ゲートで22層がまだ選択出来る事を確認してから、20層へ降りてショートカットでボス部屋に直行する。


 角の採取……レアドロップのサンダーディアーの角目当てに周回をしていた。


 雪女アルラウネの弱点である雷属性。俺は手持ちの特殊武器があるが、レスミアか他のメンバーにも雷属性武器が有れば、有利になるのは間違いない。しかし、雑貨屋に属性武器は無いし、街に買いに行く時間も無い。

 最後の手段は現地調達だ。幸いと言っていいのか、20層のボスが雷属性で、そのレアドロップの角は雷属性の効果を秘めていると、フルナさんから聞いている。後は、何本手に入るか……



 15週したところで、転移ゲートの22層が赤文字に代わり、選択出来なくなった。おそらく22層は雪に閉ざされたのだろう。懐中時計を見ると、17時過ぎ。区切りには丁度良いか。


「レスミア、フノー司祭に連絡しに行ってくれないか。その後は、帰って休んでいるといい。俺はもうちょっと粘るからさ」

「分かりましたけど、ザックス様も夕飯までには帰ってきて下さいね」


「いや、ここまで出ないとは思わなかったからなぁ。遅くなるから、夕飯はストレージに入れてあるので済ますよ」

「それなら、私も付き合いますよ! 一人で無理し過ぎです!」


 そんな些細なことで、言い争いをしていると、ダンジョンの入り口から入って来たローガンさんに仲裁された。軽く事情を話すと、


「転移ゲートの監視を交代しに来てみれば、痴話喧嘩しとるとはのう。まぁ、結婚する前に喧嘩して、胸の内を話し合った方がええ」


 結婚という言葉に驚き、息を飲んでしまう。いや、そこまで進んで無い。レスミアの実家に手紙を出そうとは話してはいるけど。この世界の平民は結婚が早いと聞くが、レスミアはまだ15歳、俺の感覚からすると中学生だからなぁ。スタイルは成熟しているけど。

 思わずレスミアの方を見ると、顔を赤くしてアワアワしている。少し和んでいると、ローガンさんは年頃の孫を見るように、柔らかい口調で話しかける。


「レスミアちゃんは、ザックス殿を心配しているだけじゃろ。ただし、四六時中一緒に居れば良いという訳でもないんじゃよ。男には男の、女には女の役割があるんじゃからな。

 まぁ、その不安は儂が取り除こう。儂がザックス殿と一緒にボス戦を周ろうじゃないか。トレジャーハンターには〈ドロップアップ〉と言う、レアドロップが出やすくなるスキルがある。それがあれば、多少は早く帰れるじゃろ」


 レスミアは目を見張った後、ちょっとだけ悔しそうに「後3つなのに」と呟いた。

 トレジャーハンターと言うだけあって、面白いスキルを持っているな。なんて、ジョブの方に気を取られていたら、今度はこっちに矛先が向いた。


「ザックス殿もじゃぞ。新婚の嫁さんが待っとるのに、いつ帰れるか分からんでは、心配させるだけじゃろ。レア種への対策が必要なのは分かるが、時間は区切った方がええ。

 そうじゃな、儂が協力するのは6の鐘が鳴るまで、それが帰って休む。

 これでどうじゃ?」


 最後に聞いたのは何故かレスミアの方。

 取り敢えず、まだ結婚してないと突っ込んで訂正しておくか。そう思って、レスミアと顔を見合わせると、同時に頷いた。


「まだ「分かりました。ローガンさん、後はよろしくお願いしますね。ザックス様、6の鐘は帰って来て下さいね。お夕飯の準備をして待っていますから」


 レスミアは柔らかく微笑むと、ローガンさんに一礼してから帰って行った。

 以心伝心なんて無理だったか。頷いたのが了承と取られた上、さり気なくタイムリミットが6の鐘帰るになっていた。恐ろしい。


「夫婦円満のコツは、余程の事でもない限り、女の言う事は聞いておく事。後は家事でも些細な事でも何かしてくれたら、ありがとうと言っておく事じゃ。機嫌を損ねると後々まで面倒だからのう」


 なんか遠い目をしているが、奥さんと何かあったのだろうか。かなり年配のローガンさんなので、長い夫婦生活で色々あったに違いない。すると、ローガンさんの後ろに居た青年が「じーさん、そろそろ俺の話も」と声を掛けた。


 うん、ローガンさんと一緒に来て居たのは、気付いている。何故か横を向いて、紹介も無かったのでスルーしていたが、よく見ると10層で見かけた、肉狩りの弓使いの青年だ。


「コイツは儂の孫なんだが、転移ゲート監視の交代役じゃな。ただ、転移ゲートは自分の到達した階層までしか表示されない。

 さっきの20層ボス周回に協力する代わりじゃ、コイツも一緒に連れて行ってくれんか」


 そう言えば、転移ゲートの仕様を忘れていたな。調査パーティー以外の自警団では11層以上が表示されないから、監視も出来ないか。ローガンさんが交代と言っていたが、流石に連日の調査で疲れている&明日には討伐に向かうかもしれないのに、徹夜で監視する訳にもいかないよな。仕方がない……かな?


「それと、裏の理由もあってな。自警団ではスカウトが足りないのは知っとるじゃろ。コイツは若手の中ではマシな方じゃからな、戦士からスカウトへ転職させて来た。

 基礎レベルは15だから、スカウトのレベルもついでに15まで上げて欲しいんじゃ。そうすれば〈敵影感知〉で索敵出来るようになる」


 自警団の事は自警団でやって欲しいと、突っぱねたいが、表の監視要員というのも必要なのも確かだ。 既にレスミアと、6の鐘までに帰ると約束してしまったのも痛い。レアドロップが出やすくなるスキルの協力が欲しいからなぁ。

 悩んでいると、ローガンさんが青年を掴んで無理矢理、頭を下げさせた。


「コラッ、頭を下げてお願いせんか! お前の事なんじゃぞ!」

「っつ、分かっているよ。じーさん。

 よろしくお願いします……」


 青年の左頬は赤く腫れあがっていた。ずっと横を向いていたのは、腫れを隠すためか。それにしても、説得(物理)とは……最初の頃とは印象が変わったな。とは言っても4日前の話だけど。気弱な感じで自警団の若手にも舐められていると聞いていたのに、いつの間にか熱血教師になっている。先程の交渉も老獪さが感じられたからな。

 まぁ、ローガンさんなりに自警団を立て直したいと言う意気込みは分かった。少しくらいは手伝うか。



「分かりました〈敵影感知〉を覚えるまでですよ。ただ、このまま20層を周回すると、基礎レベルが上がり過ぎてしまいます。1回だけ10層のボスを倒しに行きましょう」


 レベル1のスカウトなら、レベルの近いゴリラゴーレムでも十分だろう。経験値増5倍と〈獲得経験値中アップ〉を付けておけば、スカウトだけ一気に上がるはず。20層はその後だな。

 簡単に打ち合わせをしてから10層に降り、またショートカットを走り始めた。




 ローガンさんはショートカットを使うと、段差が腰にくる事を失念していた。お孫さんに背負わせて、なんとか周回速度を保っていたけど、〈敵影感知〉を覚えた後は俺が背負うしかなかった。

 高負荷トレーニングか、姥捨山か、子泣き爺なのか分からないが、ひたすら走り周り、8周目。ようやく角が宝箱から手に入った。



【素材】【名称:雷玉鹿の角】【レア度:D】

・サンダーディアーの槍のように大きな角。突撃時には槍のように扱われ、岩壁を突き崩す程の威力と強度を誇る。魔力を込める事で雷属性を帯びるが、槍角は物理攻撃用なので、そこまで強くはない。



 1.5m程の一本角だ。根元に行くほど太くなっており、そのままランスに出来そうな形をしていた。ただ、刺突武器は植物魔物に効き難い事は、リーリゲンとの戦闘から分かっている。他の武器を後で考えよう。


 エントランスに戻り、ローガンさんにお礼を言ってからダンジョンを後にした。懐中時計を見ると6の鐘が鳴るまで30分。走ればギリギリ間に合う。散々走り回った後だけど、帰り道を急いだ。



 今日1日の成果は以下の通り。


・スカウトレベル20→21

・熟練職人レベル17→20

・採掘師レベル17→20

・商人レベル15→20


 現状育てているジョブが全てレベル20を超えてしまった。経験値を気にしなくていいのは、特殊武器が使えて楽なのだが、レベルアップさせる楽しみが無いのは寂しい。ファーストジョブの職人と採取師がレベル15で、カンストのENDマークが付いていない。こちらも上げてみよう。



【ジョブ】【名称:熟練職人】【ランク:2nd】解放条件:職人Lv15。

・熟練した技術により、様々な物を作り出すサポートジョブ。アクセサリー等の小物から、服飾、革加工、写本等々、様々なスキルを習得できる。自分の職業に合ったスキルを使い、効率化しよう。


・ステータスアップ:HP小↑、MP小↑【NEW】、筋力値小↑、耐久値中↑、器用値中↑

・初期スキル:職人スキル、アイテムボックス小、ポリッシング

・習得スキル

 Lv 5:熟練集中

 Lv 10:耐久値中↑、エアリング

 Lv 15:初級鑑定、メタモトーン

 Lv 20:MP小↑、マニュリプト【NEW】


【スキル】【名称:マニュリプト】【アクティブ】

・写本スキル。視界内にある文字を自動で書き写す。ただし、紙とインクは別途必要。



 魔法使い系でもないのに、MPの補正が増えたのは〈メタモトーン〉がMP食いだからだろうか? 

 新しく覚えた〈マニュリプト〉は、自動と言ってもコピー機ではなく、〈二段斬り〉のように体が勝手に動く系統のスキルだった。書き写したい対象の横に紙を並べて、インク瓶を用意し、ペンを持った状態でスキルを使うと、手が勝手に動いて書き写してくれる。しかも、インク付けも自動で行ってくれる親切仕様。目を離せないのと、文字しか写せないのは難点だけど……挿絵は写せなかった。

 ただ、書き写す対象はステータス画面や鑑定結果でも使えるのが、とても良い。攻略本用の原稿を作る時に欲しかったよ。まぁ、今後もネタは増えるからいいけど。



【ジョブ】【名称:採掘師】【ランク:2nd】解放条件:採取師Lv15以上、鉱物系採取地で多く採取する。宝石を採掘する。

・非戦闘職。鉱物系採取地に特化し、採取地で採取をすると経験値が貰える。レベルが上がると狙った素材を採掘しやすくなるスキルを習得する。しかし、あくまでも入手しやすくなるだけなので、数を掘ろう。


・ステータスアップ:HP小↑、筋力値中↑、耐久値中↑【NEW】、器用値小↑

・初期スキル:採取師スキル、アイテムボックス小、採掘道具強化

・習得スキル

 Lv 5:初級鑑定

 Lv 10:筋力値中↑

 Lv 15:石炭供給操作、投擲術

 Lv 20:耐久値中↑、鉱脈狙い【NEW】


【スキル】【名称:鉱脈狙い】【パッシブ】

・鉱石系の素材が出やすくなる。ON/OFF切り替え可能。



 狙った素材が手に入り易くなる系統のスキルだ。〈石炭供給操作〉で石炭系の出る確率を下げて、こっちをONにしておけば、銀鉱石やチタン鉱石が手に入りやすくなるのだろう。欲を言えば、ピンポイントに指定したいけどな。銅鉱石とか未だに出るけど使い道が無いんだよ。売っても安いし。



【ジョブ】【名称:商人】【ランク:1st】解放条件:基礎Lv5以上、買い物をする

・非戦闘職。売買をするたびに少し経験値が貰えるため、コツコツと地道に商売をしよう。取引金額が多いほど経験値も増える。スキル〈アイテムボックス〉と街と街を繋ぐ転移ゲートを使えるスキル〈トランスポートゲート〉が便利で、商売をしない人でもこのジョブに就くことが多い。


・ステータスアップ耐久値小↑、知力値小↑、敏捷値小↑、器用値小↑

・初期スキル:アイテムボックス小、初級鑑定

・習得スキル

 Lv 5:逃げ足

 Lv 10:相場チェック

 Lv 15:日刊帳簿チェック

 Lv 20:アイテムボックス中、品質管理【NEW】


【スキル】【名称:品質管理】【パッシブ】

・アイテムボックス内の時間経過が遅くなる。



 アイテムボックスは容量が増えただけなので割愛。新しいスキルも、今更感が漂っている。いや、ストレージが無かったら重要なんだろうけどな。ムッツさんによると、次の25で転移門のスキルを覚えるらしいけど、微妙なスキルばかりだ。いや、街に行けば〈相場チェック〉は役立ちそうだけど……現状は枯れ木も山のなんとやら。



 更に、ボス周回ついでに、レスミアの料理人と採取師のレベル上げしておいた。現状のレスミアのジョブは以下の通り。


・基礎レベル22

・スカウトレベル21  ・狩猫レベル22

・料理人レベル20   ・職人レベル15

・採取師レベル15   ・植物採取師レベル1

・採掘師レベル1    ・熟練職人レベル1

 ※戦士など、ファーストクラスのレベル1は省略


 ジョブが一つずつしか上げられないのは面倒ではあるが、レスミアが〈自動収穫〉を欲しがったのでしょうがない。採取系セカンドクラスで罠術師だけが手に入らなかったのは、解放条件を満たしていないせいだ。鳥を解体したことがあるそうなので、おそらく『魔物を罠にかける』が未達成なのだろう。暇が出来て、使えそうな罠を見つけたらでいいか。


 そんな事よりも、本人は料理人レベル20で覚えた〈初級属性ランク0魔法〉を嬉しそうに使っていた。魔法の適性が水と風属性しかなかったが、どこでも水を出せるようになったので家事が捗るそうだ。

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