第95話 アクの強い特殊武器

 一度、階段を下り16層へ入ると、そこは少し明るくなった並木道だった。暗くなるんじゃないか、と言う俺の予想とは裏腹に、頭上の枝葉は14層と同じくらいの量だ。15層がピークだったのか? 確か、ここからワイルドボアから蜂型魔物に変わる筈だから、そのせいか?


 しかし、それを確かめるため、16層を進むのにはMPが心許ない。15層に戻り、まだ行っていない方の採取地を目指す事にした。こちらなら距離が近く、片道で済む。



 早速覚えた〈敵影感知〉を試したいので、スカウトはそのままにして、残りを僧侶と採取師をセットする。

 そのまま進むと、前方から圧を感じた。何と言うか……視線を感じるのを数倍にした様な?

 更に進むと20m程前方でワイルドボアが木の根元で穴を掘っていた。木に隠れて様子を伺うが、俺に気付いている素振りは見えないし、こちらを見ていない。見られているわけでは無いが、この視線の様な圧が〈敵影感知〉か。


 斜め上からも圧を感じるが、方向くらいしか分からない。取り敢えず〈エアカッター〉でワイルドボアを先に処理した。

 更に10m程近付き〈敵影感知〉で感じる圧を探るが、3次元で隠れているシルクスパイダーは見つけられない。大体の方向は分かるのに……


 念のため、ストレージの蜘蛛の巣を取り出し、木に貼り付けておく。そして、圧を感じる斜め上の枝葉へ向けて〈エアカッター〉を打ち込んだ。


 打ち込んだ所から、切られた枝が落ち、葉っぱが舞い散る。しかし、肝心のシルクスパイダーに当たった様子も無く、姿も表さない。仕方がない、諦めて蜘蛛の巣にワザと掛かる事にするか。


 蜘蛛の巣に掛かりしばらくすると、〈エアカッター〉を打ち込んだ所の1m程横からシルクスパイダーが降りてきた。惜しい!もうちょい横だったか。

 えいえいおーと踊り、後ろを向いたところに、ショートソードを胴体に突き刺して終わった。


 確かに〈敵影感知〉は過信出来ないけど、大体の場所は分かるので、範囲魔法で薙ぎ払うのには十分だ。〈ストームカッター〉で倒せる確率がかなり上がり、戦闘時間が更に短縮された。



 もう一つの採取地は植物系で、蜜リンゴの木や薬草等の素材が多数見つかった。

 早速、回収し始めたのだが量が多いので、半分ルールでも1人で採取するのには時間が掛かる。正直、火種の実とか買取金額も安いから、回収する必要がないのではと思うほどだ。

 贅沢な悩みに聞こえるかもしれないが、植物系は新素材でもないとワクワク感が無いからな。個人的には鉱物系の採取の方が好きだ。土山を崩すまで何が出るか分からないし、宝石まで出るのでガチャ気分で楽しめる。


 どちらにせよ、レスミアがいればおしゃべりしながら作業出来るのに、と思わないでもない。そんな益体も無い事を考えながら作業をしていると、火種の実の木の影に紫色の花が咲いているのを発見した。1m程の高さに紫色の小花が沢山咲いている……ラベンダーにも見えるが、このダンジョンの採取物には無かったはず。ギルドの冊子を思い出しながら〈詳細鑑定〉を掛ける。



【素材】【名称:パララセージ】【レア度:E】

・ダンジョンのマナで薬効が増幅されたセージ。気分を和らげ、体の痺れを緩和する効果がある。



 そうそう、思い出した、セージだ。料理に使われるハーブという事は知っているけれど、生えている所を見るのは初めてだ。名前や説明文からして、ムッツさんが雑談で言っていた20層ボスの対麻痺用素材だろう。


 重要な素材なので、採取しようとしたところで気が付いた。そう言えば、採取方法まで習ってない。薬草の様に、葉っぱを採取すればいいのか? 花の部分はいるのか?確か料理に使っていたのは葉っぱや、その粉末だったような気がする。



 エヴァルトさんから薬草の取り方を教えてもらったのも、雑談だったからな。煙きのこの様に石突部分は要らない、みたいなルールがあるのかもしれない……まあ、知らない事を考えても仕方がない、丸ごと採取するか。後で誰かに聞こう。


 根元の茎を持って引っこ抜き、根っこから花まで丸ごと回収する。花が揺れるたびにセージの強い香りが周囲に充満して臭い。本当は良い匂いなのだろうけど、強過ぎるのも考えものだな。香水を付け過ぎた人みたいだ。




 採取を終えてダンジョンの外に出て来た。現在10時過ぎ、中途半端な時間なので、レスミアが来るまで蜘蛛の巣でも解体しようか。


 昨日と同じ空き地に丸太を立て、ストレージから取り出した蜘蛛の巣を貼る。粘着糸の巻き取り用の木の枝も、適当に取り出しておく。

 そして肝心の熱する道具は、特殊武器を試す事にする。気分的に、半分駄目元ではある。駄目だったらフライパンだ。


 特殊武器10pの紅蓮剣にチェックを入れると、左手に大きな剣が表れる。しかし、俺はに慌てて飛び退いて避けた。次の瞬間、ズンッ!と重々しい音を立てて、長大な赤い剣が地面に突き刺さり、鞘の無い刀身が4割程地面にめり込んだ。



【武具】【名称:紅蓮剣】【レア度:A】

・重く硬く魔力を拒絶する金属、アダマンタイトで作られた両手持ち用のツヴァイハンダー。魔法生物すらも拒絶し、その存在を否定する。芯材にミスリルが使われているため、スキルを発動する事は問題無いが、バフ系魔法の効果時間が短くなる。魔力を込めると刀身が炎を噴き出し、火属性を帯びる。

・付与スキル〈魔法生物特攻〉〈加重〉〈紅炎〉〈冷熱耐性〉



 先ず見た目がデカい。説明文にある通り、ショートソードの倍程の長い刀身で、幅も太い真っ赤なツヴァイハンダー、いわゆる両手剣だ。名前の通り炎の様な意匠が施されている。素材のせいか重さは倍どころではなく、数倍はありそう。実際、伯爵家の別邸にいた頃では、柄を持って斜めに持ち上げるのが精一杯だったのだ。


 あれからひと月弱。レベルアップしているし、筋力値補正の大きい村の英雄ジョブもある。筋力値EからCに上がっているのだ、いける筈。

 何処ぞに封印された聖剣の様に、地面に直立した剣の柄を両手で掴み、真上に引き抜く。かなり重いが、なんとか持ち替えて青眼に構える。腕の筋肉が悲鳴を上げているのを我慢しながらゆっくりと振り上げ、振り下ろす……が、止める事が出来ずに、切っ先が地面にめり込んだ。駄目だこりゃ、まだ使いこなすのは無理だな、。


 念の為、構えてからMPを注いでみると、鍔から切っ先に向けて炎が噴き出した。まるでガスバーナーの様に炎は伸び、その先の木に届きそうだったので、慌てて消す。

 刀身は熱くなっているようだが、重過ぎて作業には向かないな。不採用!



「まあ、重いのは知っていたから、別段悔しくは無い……筋力値がBに上がったら再チャレンジしよう」



 気を取り直して、本命の特殊防具15p、ブラストナックルを取り出した。赤いメタリックな色のガントレットだ。手の平と甲に複雑な文様とルビーの様な宝玉が付いていて目立つ。



【武具】【名称:ブラストナックル】【レア度:A】

・アダマンタイトとミスリルの合金と、火竜の革から作られたガントレット。各金属特有の特徴は失ったが、硬度と軽量化、魔力伝達率が両立している。魔力を込めるとガントレット全体の温度が上がり、火属性を帯びる。更に、魔法陣に充填した状態で殴れば、そこに〈ファイアマイン〉を埋め込む。

・付与スキル〈ヒートアップ〉〈熱無効〉〈ファイアマイン〉〈魔喰掌握〉



 説明文の通り、今身につけている硬革グローブより重いが、金属部品が多い事を考えれば常識的な重さだ。実際に手に嵌めてみるが、多少重いけれど硬革グローブより指が動かし易い。火竜の革のせいか?指の部分の装甲もウロコ状なので、火竜のガントレットなんて名前でもよさそうだ。

 しかし、紅蓮剣もそうだったが、付与スキル名だけでは、よく分からないスキルもあるな。〈魔喰掌握〉って意味が分からない、魔法を食う?



 分からない事はさて置き、試しにMPを流してみるが、熱くならない。ブラストナックルを着けた手を顔に近づけてみても熱くも無い。ジャケットの裾を触ってみたり、頬を摘んでみたりしたが、特に変化は無い。


 説明文と違う事に首を傾げながら、何気なく巻き取り用の木の枝を拾う。すると、キュウー!という音と共に、焦げた臭いと煙が立ち込めた。驚き、取り落とした木の枝は、黒く焼け焦げている。念のため、もう一本拾ってみると、触った箇所が焼け焦げた。


 あっ!熱さを感じないのは、付与スキルに有った〈熱無効〉のせいか! 着ているジャケットにまで効果があるのは凄いが、熱いかどうかも分からないのは、ちょっと不便だ。

 蜘蛛の巣の粘着糸を触ると、粘着力を無くしてベロンと剥がれた。しかし、木の枝が持てないので巻き取りが出来無い。

 仕方がないので左手に巻き取っていたら、熱で溶けた蜘蛛糸がぼたぼたと零れ落ちる始末だ。

 これはアカン……林の中で男が白い液体を振り撒いている。完全に不審者だ。


 作業を中断して、左手のみブラストナックルを取り外す。熱するだけなら片手でいいもんな。そう考えたのだが、いきなり熱気を感じ始めた。

 どうやら、片手だけでは〈熱無効〉のスキルは効果が出ないらしい。更に右手にも魔力が流れないので再加熱も出来ないので、どう足掻いても両手装備しないと駄目なようだ。


「いけそうだったのに、こちらも駄目か……大人しくフライパンにするしかないのか」




 追加スキルを入れ替えて〈カームネス〉を発動させた。

 ちょっと頭をクールダウンさせる。


 ブラストナックルは両手に装備しなければ使えない。

 そこを、片手だけに魔力を通して加熱することは可能か?


 そもそも、スキルや魔法を使う際、魔力を込めようとすると武器を持った方の手に流れる。ON/OFFや量は調整出来るが、右手か左手かは意識した事は……


 いや、ワンドを持っていなかったダンジョン初日、右手と左手で打てるか試した覚えがある。それにフェケテリッツァ戦で牽制に〈エアカッター〉を使っていたが、左手で打てる様に意識していたはず。

 つまり、意識して使い分けは出来る、多分。


 実際に右手にショートソード、左手にナイフを持ち〈二段斬り〉を使おうと意識すると、両手に魔力が流れ、先に右手に貯まった。キャンセルして、今度は左手で使おうと意識すると、両手に流れる魔力が若干、左手に多く流れるが、結局右手が先に貯まる。失敗だが、なんとなく魔力の流れを動かせた気がする。

 〈カームネス〉を掛け直し〈作業集中〉を重ねて掛け、魔力の流れを制御する作業に没頭した。




「ザックス様、大丈夫ですか! 起きてますか?」


 目の前にヒラヒラと手を振られて、不意に集中が途切れる。その途端、遮断していた左手に魔力が流れ始め、左手に持っていた木の枝が焼け焦げてしまう。むう、ようやくコツが掴めてきたところなのに。

 声のした方を見ると、レスミアが離れて行くところだった。そして、少し離れた所から、暑そうに手をパタパタ振っている。


「この辺り、物凄い熱気ですよ。真夏に逆戻りしたみたい。また、変なこと始めたんですか?」


 俺の手に装備されたブラストナックルを指差し、そう言う。ただの訓練なのに、酷い言われようだ。俺は〈熱無効〉のお陰で暑くもないが、念のため〈ブリーズ〉の魔法で風を起こして熱気を散らしてから、ブラストナックルをポイントに戻した。その途端、ムワッとした熱気を感じる。〈ブリーズ〉を追加で使いながら、簡単にレスミアに状況を説明した。


「昨日と同じでフライパンで良いじゃないですか~。

 もう、それくらいにして、お昼にしましょう」


 レスミアの反応は薄く、呆れた声だけで直ぐに昼食の準備を始めてしまった。

 うん、何に使える技術なのか、俺自身にもイマイチ分からないけどな。蜘蛛の巣解体以外……二刀流した時に、スキルを左右で使い分けられる?……魔法主体で戦っているから使わないかなぁ?

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