第72話 お楽しみのレベルアップと修行者

 ダンジョンから帰り、家の敷地内に入った所でフラッと立ちくらみがした。自覚は無かったが、家に帰って来た事で緊張の糸が切れたのだろう。身体の方は大分疲れていた様で、自覚すると身体が重く感じる。


 いつもの様に装備品の手入れに行こうとしていたのだが、レスミアには直ぐにバレて「装備品の手入れなんて明日でもいいですから」と風呂場へ連れていかれた。更に入浴補助もすると言い出したが、身体が重いだけで動けない訳では無いので、断り一人で入る。


 とは言え、湯船に浸かると抜け出せなくなる気がしたので、シャワーで洗うだけにした。


 リビングに戻ると、ラベンダーの穏やかな香りが漂ってくる。レスミアがお茶を用意してくれており、テーブルに着くとお茶菓子と共に出してくれた。


「貧血にも効くハーブティーなので、多少は楽になると思います。安眠効果もありますから、飲んだ後は一眠りして下さいね」


 一口飲むと、その香りに心が落ち着く様な気がした。御茶菓子の蜜りんごクッキーの甘さも身体に染み渡る様だ。クッキーの中心に凹みを作り、そこに蜜リンゴの蜜を乗せただけだが、その甘さからお茶にはよく合う。単品だと、くどい甘さだけどな。


「美味しいな……それにしても貧血に効くお茶なんてよくあったな。常備薬みたいな物か?」

「ええ、女性が好む香りでもありますから、常備して有りますよ。夜寝る前に飲む人も多いと聞きますしね」


 その後、飲み終わってからベッドに押し込まれる。夕方近くとは言え、まだ明るい時間だったが、疲れとハーブティーのせいか、いつのまにか眠りに落ちていた。




 目が覚めると部屋が真っ暗……既に夜中になっていた。まだ動くのもだるいが、喉の渇きを感じてリビングへ向かう。

 部屋を出ると階下に見えるリビングには、明かりが点いていた。手摺りに寄りかかりながら1階を覗くと、何か繕い物をしていたレスミアと目が合った。


「おはようございます。お加減はどうですか?」

「まだ怠いな。どれくらい寝ていた?」

 レスミアは小走りに2階へ上がってくると、また肩を貸してくれた。


「先程、6の鐘が鳴ったので4時間くらいですね。今、スープを温めますから、座って待っていて下さい」

 リビングのテーブルに連れて来て貰い、キッチンに向かうレスミアに、先に水を頼んだ。水で喉を潤しながら待っていると、然程時間も掛からずにレスミアがスープを運んで来る。


「お待たせしました。食欲が無いかもしれませんが、スープだけでも食べて下さいね。お昼に話した大麦も入れてありますから」


 確かに食欲はあまり無いが、大麦は気になる。ミネストローネには細かく賽の目切りにされた野菜の他に、白くて楕円形の物が見えた。CMでご飯に混ぜて炊く奴しか知らないが、確かにお米の倍以上に大きい、これが大麦か……


 食べてみると、その食感に驚いた。お米よりもモチモチしていて、噛み締めるとプチッとする。ミネストローネ自体も色々な野菜の旨味と、ベーコンの旨味が合わさって、いつも通り美味しいのだけど、モチモチ食感が加わって更に美味しく感じた。

 この世界に来てからはパンが主食だったせいか、余計に美味しい。まあ、お米とは違うけれど、代用としては十分じゃないか?


「美味しいな。このモチモチした食感が気に入った」

「良かったぁ。食欲が出たならお代わりも有りますよ。いっぱい食べて元気になって下さいね」


 その後、お代わりを食べ、食後のお茶としてラベンダーのハーブティーを飲むと、ベッドに放り込まれた。




 翌朝、目が覚めると、また真っ暗な時間だった。部屋のテーブルに置いてある小物用ポーチから懐中時計を取り出してみると、午前3時、1の鐘よりも早い時間だった。


 しかし、寝るのが早かったせいで、既に眠気はない。体調は少し身体が重い程度、8割方回復しているので問題ないだろう。取り敢えず、空腹感を覚えたのでキッチンに行き、朝食……いや夜食?を取る事にした。


 冷蔵庫を漁ると、昨日のミネストローネの残りが見つかったので温め直し、適当な野菜と豚肉で野菜炒めにした。味付けは塩とレモン汁だけだが、サッパリしていて、そこそこ美味しかった。まあ、ミネストローネの方が断然美味しいので、やはりレスミアの料理の方が良いな。


 食器や鍋などの洗い物が終わる頃、1の鐘が鳴るのが聞こえた。

 外はまだ暗いので、装備品の手入れは明るくなってからの方が良い。そう考えて、ステータスの確認をする事にした。レアな幻獣を経験値増の4倍と〈獲得経験値小アップ〉を付けて倒したお陰で、大幅レベルアップしていたのだ。


・基礎  レベル9→15

・村の英雄レベル8→15  ・戦士レベル7→8

・魔法使いレベル7→15  ・スカウトレベル5→7

・商人レベル7→8      ・採取師 レベル8→8

・見習い修行者レベル8→10E


 一気に6レベルアップ! 山賊の時以来の上り幅だ。まあ、フェケテリッツァに止めを刺した時に装備していたジョブだけだけどな。しかし、装備していたはずの見習い修行者は、なぜかレベル10止まりで【E】が着いている。因みに倒した時点でのステータスがこれだ。


【人族、転生者】【名称:ザックス、16歳】【基礎Lv15、村の英雄Lv15、魔法使いLv15、見習い修行者Lv10E】

 HP  C □□□□□

 MP  C □□□□□【NEW】

 筋力値C

 耐久値D

 知力値E

 精神力E

 敏捷値D

 器用値E

 幸運値C


 ボス討伐証:AL371ダンジョン10層●

 アビリティポイント:3/37

 所持スキル

 ・特殊アビリティ設定

 ・ブレイブスラッシュ

 ・アイテムボックス中【NEW】

 ・中級鑑定【NEW】

 ・初級属性ランク0魔法(適正;火水風土)

 ・初級属性ランク1魔法(適正;火水風土)

 ・初級属性ランク2魔法(適正;火水風土)

 ・初級属性ランク3魔法(適正;火水風土)【NEW】

 ・MP自然回復小↑

 ・カームネス

 ・獲得経験値小アップ→獲得経験値中アップ【NEW】

 ・反復動作

 ・罠看破初級

 ・挑発



 ステータスのジョブ欄も見習い修行者Lv10Eとなっている。ついでにジョブの方を〈詳細鑑定〉してみると、



【ジョブ】【名称:見習い修行者】【ランク:1st】解放条件:基礎Lv3以上

・誰でもなれる基本のジョブ。魔物と戦うスキルは無いが、ステータスアップの分だけ長く訓練出来る。初期スキルでさらに効率アップ!


・ステータスアップ:HP小↑、筋力値小↑、耐久値小↑

・初期スキル:獲得経験値小アップ

・習得スキル

 Lv 5:反復動作

 Lv 10:獲得経験値中アップ【NEW】

 END



 やっぱりENDの【E】だったか。成長限界、カンストだな。そう考えると勿体ない事をした。知っていたら別のジョブにしていたのに! 流石に5レベル分の経験値が無駄になったようなものだからな。

 ただ、良い事もある。カンストしたお陰か、上位の修行者というジョブが増えたのだ。



【ジョブ】【名称:修行者】【ランク:1st】解放条件:見習い修行者Lv10

・己の力や技量、精神力を鍛えるために鍛錬をするジョブ。獲得経験値が増えるスキルがあるので、基礎レベルを上げるには持って来い。戦闘向きではないが、最低限の格闘スキルを覚える。


・ステータスアップ:HP小↑、筋力値小↑、耐久値小↑

・初期スキル:見習い修行者スキル



 上位のセカンドクラスかと思いきや、ファーストクラスのままだよ。むしろ見習い修行者が0.5クラスなのだろうか? まあ、見習い修行者のスキルをそのまま受け継いでいるようなので、せっかく覚えた〈獲得経験値中アップ〉が無駄にならない所は良い。これは特殊アビリティの追加スキルで常時付けるつもりだけどな。


 説明文に「基礎レベル上げに持ってこい」なんてあるが、これは俺のステータスのMPがDからCに上がり【NEW】マークが付いている事にも影響している。これは基礎レベルが10上がる毎に起きるステータスアップの恩恵だ。この世界では筋トレや勉強してもステータスは上がるが、かなり長期間続けないと上がらない。

 そこで、手っ取り早く強くなれるのが、ジョブの補正と、基礎レベル上げだ。ジョブに就けば、その補正だけでステータスが上がり、レベルを上げれば10毎に使ステータスがワンランク上がる。


 そのため、修行者の獲得経験値が増えるスキルなんて、人気が出そうなものだけれど、見習い修行者のイメージが悪い(=怠け者)せいで、修行者に到達する人は少なそうだ。エヴァルトさんの講義でも習わなかったくらいだしな。

 それに、普通の人はジョブ一つなので、戦闘スキルが覚えられないのもキツイか。最低限の格闘スキルとやらがどんなものか知らないが、魔物相手に格闘はちょっと躊躇するよな。俺みたいに複数ジョブが出来るようになれば、他のジョブで戦う事ができ、獲得経験値が増えるだけで十分選択肢に入るのだが……

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