237話「テンプレ撃退」



「いらっしゃい……こりゃまた大人数だな」


「二十人くらいだが、空いてるか?」


「空いてるところに適当に座ってくれ」



 適当な食事処を見つけた俺は、奴隷たちを引き連れて店主に空席状況を聞く。どうやら昼前ということもあり、まだ空席が多く残っていたようで、まばらだが何とか全員座ることができそうだ。



 俺はその中のテーブル席の一つに腰を下ろすと、向かい側にマチャドが座る。だが、他の奴隷たちは座ろうとせず立ったままだ。



「どうした。座らないのか?」


「いえ、私たちは奴隷ですので」


「そういうことか。店主、奴隷たちもテーブルに座って構わないだろうか?」


「俺にとっちゃあ、奴隷だろうが何だろうが同じ客だ。適当に座んな」


「だそうだ。気にせずに座れ」



 そう言われて、恐る恐るだが全員席に着いた。注文を取りに来た店主に「人数分の食事を」とだけ伝え、しばらく待っていると突如入り口が騒がしくなる。



「おいおいおいおい、なんだこりゃあ。なんで奴隷の女が人間様の椅子に座ってやがる?」


「奴隷は奴隷らしく床にでも這いつくばってろよ」


「そんなことよりお腹が空いたんだな」



 騒がしい方に顔を向けると、そこには武装した冒険者風の三人組の男がいた。一人はゴリマッチョ、もう一人がヒョロガリ、そして、特徴的な口調をするデブだ。



 ゴリマッチョは近くに座っていた奴隷の髪を掴むと、無理矢理に席から引き剥がそうとする。



「退けよ。奴隷は奴隷らしく床で這いつくばれ」


「い、痛い。や、やめてください!」



 やれやれ、こういった他者を見下す愚か者は、自分が同じ目に遭わないと反省しない生き物というのが相場だったりするのだが、どうやらあいつらはその典型らしい。



 俺は内心でため息を吐きながら、男たちのところへ近づき、男の腕を掴みながら言ってやった。



「それくらいにしてもらおうか」


「誰だオメェ? ガキには関係のねぇことだ。すっこんでろ」


「残念ながらそうもいかん。この子たちを買ったのは俺だからな。その奴隷を傷つけられて“はいそうですか”と黙っているわけにはいかんよ」



 そう言ってやると、しばらくの沈黙の後小馬鹿にしたような下卑た笑い声を上げたかと思ったら、醜悪な顔で凄んできた。



「オメェのようなクソガキが、奴隷を買えるわけねぇだろうが! いいからガキはガキらしく、家に帰って母ちゃんのおっぱいでもしゃぶって――いたたたたたた」


「何か言ったか? これでもAランク冒険者なんだがなぁ?」



 男の悪態を遮って、俺は掴んでいた腕を捻り上げる。そのあまりの激痛に、情けない声を上げる男だったが、俺がAランク冒険者だということを告げると、表情が一変する。



「はっ、お前みたいなしょんべん臭いクソガキがAランク冒険者だとぉ!? 吐くならもっとマシな嘘を吐け!」


「これが俺のギルドカードだ。ここにちゃんとAランクを書いてあるだろう」



 だが、すぐに平静を取り戻し、虚勢を張るものの俺がギルドカードを提示してやると、再び焦った表情になる。いろいろと忙しいやつだ。



 それから男も引っ込みが付かなくなったのか、提示したギルドカードを見てそれを鼻で笑った。どうやら、偽物だと思っているらしい。



「そんなものは偽物だ! お前のようなAランク冒険者が居てたまるか!!」


「ならどうするんだ?」


「表に出やがれ! 本物の冒険者ってやつを教えてやる」



 といった感じで、急遽ストリートファイトをすることになった俺は、マチャドたちに「すぐに終わるから待っててくれ」とだけ告げ、外へと出ていく。



 その後、マチャドたちが大人しく待つこと十数秒後、先ほどの男たちが外から店の中に投げ出され、横並びに床に叩きつけられる。もちろんやったのはこの俺だ。



 その先には、先ほど男が髪を掴んだ奴隷がおり、いきなりの出来事に目を見開いて驚いている。床で蹲って苦しんでいる男の顔を髪を引っ掴んで上げさせると、淡々とした口調で俺は口にする。



「うちの奴隷に手を出したんだ。さあ、彼女に謝れ」


「な、なぜ俺が奴隷なんかにあやま――ごぶっ、ぐべっ、ばぼっ」



 立場が理解できていない男の言葉を遮るかのように、俺は髪を引っ掴んだまま男の顔を床に叩きつけた。男の血で床が染まっていくが、そんなことは知ったことではない。



 何度か顔面を叩きつけ、再び顔を上げさせる。男の顔は血まみれでぐちゃぐちゃになっており、元々醜かったがそれがさらにグロテスクになった感じになっていた。そんな男に、先ほどとまったく同じ言葉を俺は男に投げ掛ける。



「同じことを何度も言わせるな。彼女に謝れ」


「ず、ずびばぜんでじだ。でゅでゅじでぐだざい」


「お前らはどうする? 謝るか、こいつと同じ目に遭うか。好きな方を選べ」


「「す、すみませんでしたぁー!!」」



 俺が男にしたことを一部始終見ていた残りの二人は、俺が本気だということが伝わったらしく、ものすごい勢いで奴隷の女に謝り始めた。



 そのあまりの剣幕に、奴隷の女はどうしたらいいのかわからず戸惑っていたが、ひとまずこいつらに身の程を教えられたので、ここいらで勘弁してやるとする。



「今回はこれぐらいで勘弁してやるが、次同じことをしたら……死んだ方がマシだったと後悔するような恐ろしい目に遭わせてやる。わかったな?」



 俺の凄みに、最初の頃とは打って変わって、素直にコクコクコクと首がもげるのではないかというくらいに頷いている。



「よろしい」


「で、では俺らはこれで……」


「待て」


「ひっ」



 俺の許しを得たことで、すぐさまこの場を立ち去ろうとしたが、俺が怪我をさせた男はしばらく冒険者活動はできないだろう。自業自得といえばそうだが、それで生活ができなくなって野垂れ死にされては俺が殺したみたいで後味が悪い。



「【エリアワイデンスマジック】・【ハイヒール】」



 俺は広域化の魔法を使って三人の怪我を治療する。みるみるうちに男の顔が、グロテスクから元の顔へと戻っていき、再び醜い顔へと再生する。他の二人も、打撲やかすり傷程度の怪我だったが、すぐに元の状態へと戻った。



「これでいい。もうお前らに用はない。さっさと行け」


「は、はいっ!」


「あ、ありがとうごぜぇます」


「なんだな」



 治療が終わると、すぐに男たちは脱兎の如く店を後にし、先ほどまでの騒ぎは無くなり、元の静けさを取り戻した。誰も何も喋らないと思いきや、その沈黙を奴隷の一人が破った。



「すげぇぜ! 噂には聞いていたが、さすがは魔族を打ち破った英雄様だぜ!!」


「あの程度の相手に負けるわけがない。実力的にはお前一人でも勝てる相手だ」



 俺の実力を絶賛するカリファだったが、よく見てみると戦闘組の奴隷が目を輝かせている。その一方で先ほどのならず者冒険者が怖かったのか、身を縮こまらせている奴隷もいた。



「ひと悶着あったが、何はともあれまずは飯にしよう。店主迷惑を掛けたが料理を頼めるか?」


「あ、ああ。わかった。ちょっと待っててくれ」



 それから、料理が続々と運ばれてきたため、とりあえずは食事をすることにした。奴隷たちは俺が許可を出すまで食事に手を付けようとしなかったが、俺が許可を出すとものすごい勢いで食事を始めた。



 どうやら、カリファ以外の他の奴隷たちも腹が減っていたようで、そこそこな量の食事をぺろりと平らげてしまった。



 食事も終わり、店主に食事代を支払ったあと、俺たちは店を後にした。

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