218話「あっけない幕切れ」
「そんな、どこかの宇宙の帝王みたいなこと言うなんてつれないのう。久しぶりの師匠に会えて、照れておるのか?」
「『すべての力の根源を集約し、今ここにかの者に破壊と混沌を享受させよ』 【アルテマーノデストロイッシュメント】」
ナガルティーニャのこちらの神経を逆なでする言動に、俺の怒りが頂点に達したその時、奇跡が起こる。
俺の持つ超集中の上位スキル【並列思考】が俺の怒りに反応し、とんでもない速度で計算を開始する。今目の前にいる外道に鉄槌を下すべく、並列思考は魔法による消滅を選択する。
この世界においての魔法はイメージ力が重要であり、逆に言えばそれができていれば、魔力を消費して頭に思い描いた魔法を具現化することが可能だ。
そして、並列思考はこの世界の魔法の理の中で可能な限り強力な魔法を構築し、それを俺に実行させた。
俺が魔法を使う時は、基本的に魔法を使う時に唱える呪文詠唱を必要とせず、頭に思い描いたイメージと魔法名で大抵の事象を実現させてしまう。
だが、それでは目の前の人物を倒すことはできないと並列思考は理解する。そして、魔法に一つのプロセスを追加することで、その威力を飛躍的に上昇させることに成功する。
そのプロセスとは、何か? それは普段は必要としない呪文詠唱であり、その呪文の内容によって威力や効果を高める【詠唱強化】という新たなスキルを生み出してしまう。
その結果、詠唱によって強化された魔法に俺が作った魔法名が加わり、その威力は国一つであれば訳なくすべてを焦土に変えるほどの威力を持った超極大広範囲殲滅魔法【アルテマーノデストロイッシュメント】がこの世界に爆誕した。
その構えは、まるで七つの球を集めると願いが叶う漫画の主人公が使う必殺技のような態勢で、おそらくはその魔法を放つ際に最も効率的な構えだと並列思考が判断したのだろう。
放たれた極悪なまでに強力な魔法は、バスケットボール大の球となってナガルティーニャに向かって行く。その凝縮された魔力は生半可なものではなく、暴発すれば魔界すべてが何もない更地となってしまうほどだ。
「な、なんという高威力の魔法だ。とても防ぎきれん」
そのあまりの威力の凄まじさに、先ほどまで対峙していたヴェルフェゴールですら、感嘆の声を上げてしまうほどだった。
そんな高威力の魔法が自分に放たれているにも関わらず、当の本人であるナガルティーニャは薄い微笑みを顔に張り付けながら右手を前に突き出す。
すると、薄い膜状のシャボン玉のような球が空中に出現し、俺の放った【アルテマーノデストロイッシュメント】を包み込む。彼女が出した球もまたかなりの魔力を含んでいることが窺えるものの、その実は静かなる水の如くといった様相だ。
無慈悲に向かってくる破滅の球が、今にも割れそうなほど儚いシャボン玉が包み込むと同時に、シャボン玉の中でその高威力の球が暴発し大規模な魔力爆発が発生する。
しかし、その爆風や爆発といった類は外に漏れることなくシャボン玉が包み込んており、徐々にその威力が弱まっていく。
いくら高威力の魔法でもそれが半永久的に継続することはなく、とうとうシャボン玉中で消失して何事もなかったかのように静けさを取り戻した。
「ち、やはりこれも通用しないか。俺の全力の魔法だったんだがな」
「もう、ダメじゃないかローランドきゅん。こんな魔法を人に向けて撃つもんじゃないぞ」
「俺の中でお前は人じゃない。人の形を取った化け物だ。俺も大概だが、お前はそれに輪を掛けて化け物染みている」
「乙女に向かって化け物呼ばわりは酷いのう。あたし悲しくて泣いちゃうぞい。よよよよよー」
わざとらしく泣いた演技をするナガルティーニャにさらに殺意が湧いたが、今の俺に彼女をどうこうする術は持っていない。それほどまでに俺が放った【アルテマーノデストロイッシュメント】は高い威力を誇っており、まさに全力投球の魔法だった。
あれで傷一つ付けられないとなると、自分の命を犠牲にした自爆くらいしかないが、それでも彼女を倒せるかどうかは微妙である。
そんなやり取りを行っていると、今まで様子を見ていたヴェルフェゴールが殺気を迸らせながら、ナガルティーニャに食って掛かってきた。
「貴様は厄災の魔女! 忌々しい奴め!!」
「……その魔力は覚えがあるね。ああ、思い出した。先代魔王のヴェルフェゴールだったか?」
【超魔人化】によって、ガーゴイルのような姿になっているヴェルフェゴールを、ナガルティーニャは魔力だけで特定する。一方のヴェルフェゴールはかつて倒された敵に向かって、殺意を露わにする。
「ここで会ったが貴様の運の尽きだ。死ぬがいい!! 【カオスティックカタストロフィ】!!」
「ふん」
ヴェルフェゴールが全力で放った魔法を、まるでハエを潰すかのように両手でぱちんとナガルティーニャは消滅させる。
俺の【アルテマーノデストロイッシュメント】よりも劣るとはいえ、ここら一帯を破壊するほどの威力を持った魔法を軽くいなしてしまったことに俺もヴェルフェゴールも驚愕を禁じ得ない。
「その様子じゃ、反省はしてないようだね。せっかく見逃してやったっていうのに」
「き、気付いていたのか」
「あんた程度の小細工に気付かない訳ないだろう。ともかく、今度ばかりは容赦しないよ。……ポン」
そう言いながら、ナガルティーニャが指をパチンと弾くと、サニヤに憑依していたヴェルフェゴールが彼女から引き剥がされる。元に戻ったサニヤと憑依する前の状態のヴェルフェゴールに分離されたタイミングで、ナガルティーニャがヴェルフェゴールを拘束する。
「ば、馬鹿な! こんな馬鹿なぁー!!」
「あんたは殺しても生き返りそうだし、このまま永遠に牢獄に閉じ込めておくとしよう。【ディメンジョンプリズン】」
ナガルティーニャが一つの魔法を行使する。すぐにその魔法がどういったものなのか俺は理解し、その内容に戦慄する。
それは単純に何もない亜空間を作り、そこに何かを閉じ込めておくという時空属性の魔法なのだが、恐ろしいのは例え魔法を使った人間が死んでもこの空間からは出られないというところにある。
つまり、ナガルティーニャ自身が【ディメンジョンプリズン】を解除しない限りは、ヴェルフェゴールは永遠に亜空間に捕らえられたままとなるということだ。
「ぐ、こ、こんな! こんなことがあっていいわけがない!! 魔王である我が、こんな簡単に――」
「もういいから、さっさとここに入りなさいな。いい加減うるさいから」
まるでブラックホールのような真っ黒な渦に吸い込まれていったヴェルフェゴールは、仇敵であるナガルティーニャとまともに戦うことなく、その姿を消失させた。
久しぶりの勝敗の見えない戦いができると思ったが、その願いは叶うことはなかったのだった。
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