一葉視点 私とマネージャー1

 私の名前は長谷川一葉。

 色々なことがあって、そこそこ名の知れた女優をやってます。

 ドラマや映画、舞台等幅広く活躍はしているものの代表作って言うものはなくて、常に脇役ばかり。

 楽しいけどやっぱり物足りなさがあって、私も主役やってみたいなと思ってます。


「長谷川さんお疲れ様です。もう収録終わりですか?」


「あ、マネージャーさん。お疲れ様です」


 声を掛けて下さったこの方は、私が所属する大手企業の敏腕マネージャーこと野沢さん。

 この方のお陰で今の自分があると思うと、言葉に出来ないぐらい感謝しています。


「――の予定ですが……って聞いてました?」


「……え?あっ!ご、ごめんなさい……少し考え事をしてて……あはは」


 考え事と言っても、好きだった人と友達の間に子供が出来たと言う報告を聞かされたことだ。

 私の周りの人は恋人が出来ていく中、私は未だにその影すら見えない。


「……私ってそんなに魅力ないのかな」


 気付いたら愚痴を言うような素振りで呟いていて、深く溜め息を吐いた。

 でもマネージャーさんは否定してくれた。


「そんなことないですよ?長谷川さんはとても素敵で十分素質のある人です。僕が保証します」


 この時に、何処か懐かしい胸の痛みを憶えた。

 高校時代に良く似たあの感覚。次第に顔に熱が帯びて思わず俯いてしまった。


「……長谷川さん?大丈夫ですか?」


「ふぇ?!ひ、ひゃい……!だ、大丈夫……れす……」


 声を聴けば聴く程、鼓動が早まる。あぁ、なんて単純な女なんだろう私は。

 優しくされただけで惚れちゃうだなんて……と一緒じゃない。


「あ、あの……!こ、この後って……空いてたりしてませんか……?」


「この後ですか?今日はこの撮影が終わったら何もないですけど……」


 マネージャーさんは予定表を見ながら応えてくれた。だけど私が聞きたいのはそうじゃなくて、野沢さん個人として。


「そ、そうじゃなくて……!野沢さんのこと、です……」


「僕、ですか?……特にはないですけど、それが何か?」


「……この後、何処か行きませんか?


 野沢さんは滅多にお食事等に行かないと他のマネージャーさんから聞いていて、駄目元で聞いてみた。

 駄目なら駄目で、また次の手を打つだけ。


「勿論お金は此方が出します!色々とお世話になってますので……」


 ちらりと彼の顔を見ると、凄く驚いた表情を浮かべていてよく見ると頬に熱を帯びていた。

 え?これってもしかして……もしかすると?


「僕なんかで良いんでしょうか……?その、もっと他の女優さんの方々と……それに記者なんかにバレたら……」


「野沢さんが良いんです……。駄目、でしょうか?」


 ここで磨き続けてきた演技力を最大限に発揮して、彼を落とそうと魅了する。

 今この部屋に居るのは、彼と私だけ。


「……分かりました。ちなみにどちらへ?」


「私の部屋、って……流石に駄目ですよね。ごめんなさい、あまりお店に詳しくなくて……」


「良いですよ。行きましょうか」


 彼はまるでのように私に優しく微笑んでくれた。

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