第122話 集中できない作戦会議

 俺は今、会議室の上座で、下座に向けて座らされており、各城壁の担当者や、各部署の担当者が一堂に集まり、皆の視線が俺に集中している状況である。


「ほ、本当にその者は安全なんですか!? 勇者殿!」


 同じく上座側に座っていた、ハニバルが青い顔をして狼狽しながら、俺に対して声を荒げる。


「アルファー、お前が安全かどうか聞かれているぞ?」


 俺は頭を上に傾け、頭置き場の代わりに、俺の後ろで俺の頭を胸で支えているアルファーの顔を見上げて尋ねる。


「はい、キング・イチロー様に敵対しなければ、私は攻撃を致しません」


「だそうだ、ご理解頂きましたか?」


俺は、おっぱいに挟まれながら、ハニバルに向き直り、そう告げる。


「ひぃ! わ、私は勇者であるイチロー殿に敵対はしておりませんぞ… ただ、その者の安全性を尋ねただけです…」


ハニバルは青い顔を強張らせて答える。


「所でイチロー殿…」


今度はサイリスが俺に声をかけてくる。


「なんだ?」


「その… その娘に煽情的な姿をさせて… 胸に挟まれるのは止めて頂けないか…?」


サイリスが苦々しい顔をして俺を睨んでくる。


「いや、頭の置き場所にたまたま、おっぱいがあるだけだし、それに、タダのメイド服を煽情的と言う方が、エロいだけだろ」


「その服装をただのメイド服と言うのか… そのような胸元が開いたメイド服など見たことないぞ… そもそも、ここの本部は余計ないざこざや、士気の低下を防ぐ為、女人禁制にしていたのだ… まぁ、イチロー殿が最初に連れて来た二人は幼かったので見逃していたが…見てみろ! この者たちを…」


 そう言ってサイリスは会場にあつまる担当者たちを指し示す。確かに俺というか、俺の後ろのアルファーに注目していた男たちは、前屈みの姿勢になって、高揚した顔でアルファーを見ている。


 しかし、なるほど、確かにここの本部内で女性の姿を見なかったな… それに男所帯だったから、どこもかしも掃除しておらず、汚かったのか。


「まぁ、離れてもいいけど、こいつ俺のコントロール下から離れて、暴れ出してもしらんぞ?」


「サイリス! 勇者イチロー殿がああ仰っておる! そのままにするのがよかろう!!」


アルファーに対して恐怖心を持っているハニバルが慌てて大声を出す。


「くっ! 仕方がない… このまま会議を始めよう… 皆の者も現を抜かしておらずにちゃんと会議に参加するように!」


サイリスは忌々しい顔をしながら、この状況を承諾し会議を始める。


「まず、その娘に問いたいのは、あの虫の大群をコントロール出来るのか、また、我々人類側の虫の大群を作り出すことが出来るのかを聞きたい」


まずはじめに、サイリスが虫の大群について聞いてくる。


「どうだ、アルファー、話せるか?」


「はい、キング・イチロー様」


俺の言葉にアルファーはこくりと頷き、質問者であるサイリスに向き直る。


「結果を簡潔に言うと無理です」


「簡潔すぎる、もっと詳細に述べよ」


サイリスが声をあげる。


「分かりました。そもそも、あなた方が大群の虫と言っているもは、我々が言う所のドローンと言う存在です。これは私の様なジェネラル級個体が、臀部の所につけている、第二腹部から、動物の死体に卵を産みつけて増やしていくものです。しかし、私の第二腹部は捕らえられる際に切り落とされてしまいました」


 お尻に第二腹部があったのか? ってことは、アルファーはもともと、お尻に蟻や蜂の様な腹部をお尻に付けていたのか。それはそれでコスプレみたいな感じで見てみたかったな…

ん? ちょっとまてよ?


「アルファー、第二腹部が切り飛ばされたって、曲がりなりにも腹が無くなって大丈夫だったのか?」


俺は頭をあげて、頭上のアルファーに尋ねる。


「はい、大丈夫です。キング・イチロー様。元々、第二腹部はドローンを生み出すだけの器官でありますし、時間をかければ再生することも可能です」


「なるほど、第二腹部はあくまで部下になるドローンの卵を生み出すだけの器官なのか… では、身体の方に元々ついている女性の器官は何を生み出すんだ?」


「第二腹部は私単一でのドローンの産卵可能な部位ですが、本体側のこちらの器官は、キング・イチロー様がなさってくれたように、雄個体との交尾によって、次世代の女王や、雄個体を生み出すものです」


「こ、交尾…だと…ゴクリ」

「い、致しのか…あんな可愛い娘と…」

「う、羨ましぃ…」


 アルファーの言葉に会議室にいた男たちは声を上げ、色めき立ち始める。まぁ、アルファーの見た目は、顔立ちもいいし、スタイルも良い、おっぱいもプルンプルンだ。黒目だけの瞳も見慣れれば、小動物系のクリクリとした瞳に見えて可愛く思えてくる。所謂、上玉って奴だ。女日照りのこいつらからすれば、姿を見ただけで、ごはん何杯でもいける存在であろう。


「お前ら! 静まれ! 静まれ!」


サイリスが椅子から立ち上がり、ざわめく男たちに声を飛ばす。そして、再び俺とアルファーに向き直る。


「先ほどの話が本当であれば、お前は女王個体を生み出したり、その第二腹部を再生させてドローンを作り出す事も可能ではないか!」


「私が女王個体を生み出すことが出来るのは、現在の女王個体が消滅した時だけです。それまでの間は、新しい女王個体を受精させず、精子を体内の精背嚢で貯えておくだけです」


「今…体内に貯めこんでいるだと? …めっちゃエロいな…」


ケロリと言うアルファーの言葉に会議室の男たちは鼻息を荒くする。


「では、第二腹部を再生したり、別のドローンのコントロールを奪う事は!?」


「別のドローンのコントロールを奪う事は、近距離にいるドローンや主を失ったドローンなら可能ですが、大群全てのコントロールを奪ったり組織的な行動をさせるのは難しいです。また、私の第二腹部を再生させる方法ですが、時間が足りません」


アルファーの言葉にサイリスはさっと顔色を変える。


「じ、時間が足りないとは… どういう事だ?」


「貴方はもう状況を察しているとは思いますが、私と言う威力偵察の存在が壊滅した段階で、女王は、ここの拠点を脅威と判断して、軍勢を整えてから侵攻するはずです。なので、その時間が差し迫っていて、第二腹部を再生させる時間もありませんし、例え第二腹部があったとしても、女王が用意する軍勢に太刀打ちできる数を用意することが出来ません」


アルファーの言葉に、サイリスは驚愕した顔をして、ガタリとテーブルの上に崩れ落ちる。


「なるほど… そういう事であったのか… お前を捕らえたというのに、救援も後詰も来ないと思っていたら、全軍を持ってここを攻めるつもりであったのか…」


「はい、戦力の小出しは悪手です。強い敵軍には全軍を持って圧倒するのが定石でしょう」


「お前が地下牢で言っていた、『抵抗は無意味だ』と言う、言葉の意味がようやく分かった…」


サイリスは、肘を立てて身体を持ち上げながら、ギロリとアルファーを睨む。


これは結構やばい状態だな。俺は再び顔をあげアルファーを見上げる。


「俺やお前が戦ってなんとかなりそうか?」


「私やキング・イチロー様が戦っても女王の軍勢には太刀打ちできないでしょう。あまりにも数が多すぎます。四方八方から敵が来て対応できません」


「そうか… じゃあ、逃げ出すしかないな」


俺はサイリスに向き直る。


「サイリス、これはここで耐えるのはもう無理だ。逃げ出して、人類側が軍を結集しないとどうにもならん」


 俺はここを放棄して逃げ出すことを提案する。ここの防衛に固執していたハニバルも流石にこの話を聞いた後では、押し黙っていた。


「ここを逃げ出すことも難しいでしょう…」


サイリスは悔しそうに歯ぎしりしながら答える。


「どうしてだ?」


「食料が絶望的に足りません… 実のところ、ウリクリの補給が来た時には兵糧はほとんど尽きていたのです… そして、ここの食糧事情は、海で取れる海産物にかなり頼っていました。その海という食料が無限に取れる場所を放棄して、残りの兵糧だけで、ここにいる全ての人員で逃避することは不可能です…」


「海路の方はどうなんだ? 船なら魚釣りながら移動できるだろ?」


「大量の人員を運べる大型船はとうの昔に、商人たちが使って逃げ出しました、今、港に残っているのは、漁師が漁に使う小舟だけですよ…」


ちょっとまて、これ、めっちゃ手詰まりじゃん…


「ただ…」


サイリスがポツリと呟く。


「ここから北に半日ほど行った敵の勢力下に、大規模農場と食料備蓄庫があります… そこの食料が手に入れば、逃走するだけの食料は確保出来るかも知れません…」


「じゃあ、無理を押してでも行くしかねえな… アルファー、そこを攻めるぐらいなら俺とお前で何とかなりそうか?」


俺はアルファーに向き直って尋ねる。


「はい、敵を殲滅するのではなく足止め程度なら」


「じゃあ、サイリス! すぐに行くぞ! 時間がねぇ!」


俺の言葉にサイリスは瞳に光を戻して立ち上がっていく。


「分かりました。 皆! 聞いていたか! これから北の食糧庫に向かい、食料回収の作戦を行う! すぐに準備に取り掛かれ!!」


サイリスは会議室の男たちに命令を飛ばす。しかし、男たちの一人が手をあげて発言する。


「あの~、心の準備が必要なので、30分…いや、15分でいいので、自室で心を落ち着ける時間を頂いてもいいでしょうか?」


「お前は何を言っているのだ! 今、時間がどれだけ重要なのか知っているのか!?」


サイリスは男に向かって怒鳴り散らす。


「サイリス… 許してやれ… でも、お前ら、10分だけだぞ… 急いで行ってこい」


「はは! ありがとうございます!!」


兵たちは俺に頭を下げると、前傾姿勢で走りながら会議室を後にする。


「イ、イチロー殿!? どうして! 時間が貴重なのはイチロー殿もご存じでしょうが!?」


 あぁ… サイリス、こいつ分かってねぇな~ あぁ、サイリス用のわからせ棒が欲しくなってきた… 前屈みのあいつらを見て分かんねぇのかよ…


「作戦の士気を高めるために必要な事だ…」


俺がそう言うと、サイリスは納得も理解も出来ない顔をして押し黙った。


その後、10分間、ここの本部が小さく揺れた。



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