第121話 わからせるって難しいな

「イチロー殿! これは一体どういうことだ! 説明してくれ!」


 俺はサイリスの大声で、女性の膝枕という至福の夢のような時間から、現実へと引き戻される。俺はこのまま夢のような時間に浸りたいので、仰向けから俯せになって膝枕を味わう。


「あっ… キング・イチロー様… その、息が…その…当たるので…」


「パンツがあるから大丈夫だろ?」


俺は俯せになって膝の間に顔を埋めながら答える。


「いえ、キング・イチロー様のご命令で下着はつけておりませんので…んっ」


「あぁ、そうだったそうだった、俺が履くなと言ってたんだな」


俺はそう言いながら、太ももに頬ずりするように顔を動かす。


「イチロー殿! どういう事か答えてくれと言っているのだ!!」


返事を返さない俺にしびれを切らせたサイリスが再び大声をあげる。


「あぁ、イチロー様は、今はちょっと賢者時間に入ってますね…」


サイリスの声にカローラが答える。


「け、賢者時間!? 賢者時間とは一体なんだ!!」


「えっ!? その説明を幼女の私に求めるんですか?」


カローラは自分で言っておいて、サイリスへの返答を拒絶する。


「くっ! では誰か賢者時間について知っている者はいるか! そして賢者時間はいつおわるのだ!」


「いや…その… 俺たちに聞かれても困ります…」


サイリスの連れて来た衛兵と思わる者たちが、困りながら答えている様だ。


「まぁ、長い時で一日、早ければ半日も掛からずに元の戻ると思いますが… で、イチロー様、ハルヒは私もファンですから許しましたけど、私のメイドの服を勝手に着せるのは止めてもらえませんか…」


 カローラがサイリスへの説明のついでに、俺がこいつにメイド服を着せた事について抗議してくる。


「…いいだろう…ちょっとぐらい…」


「まぁ裸のままでいさせる訳にはいかないので、ちょっとだけならいいですが、絶対に変な事に使わないで下さいねっ!」


「…………」


「ちょっと! なんで無言なんですか!! もしかして、使うつもりだったんですか! 本当に止めてください! ホノカの愚痴を聞かされるのは私なんですよ!!」


 無言の俺にカローラが声を荒げる。メイド服を着せてそのまま何もしないのはありえないだろう… 一回…いや、二、三回…十回ぐらいいいじゃないか…


「もし、買い替える事になったら、そのメイド服がいくらかかると思っているんですか!? 金貨10枚ですよ!10枚! 今、城は赤字なんですよっ!」


「…へぇ~ そんなにするのか… じゃあ、元を取るぐらいしないとな…」


「だから、止めて下さいっていってるでしょっ!!」


カローラは俯せの俺にしがみついて揺すってくる。


「それより、イチロー殿! 事情を説明してくれ! 事情を!!」


サイリスも俺の近くまできて大声で叫ぶ。


 こうも周りで騒がれていたら、至福の時に浸ることは出来ない。仕方ない… 相手をするか…


 俺はもぞもぞと動いて、俯せ状態から仰向け状態へと身体を捻る。もちろん、膝枕の体勢はそのままだ。そして、その体勢で目だけをサイリスに向ける。


「おはよう、サイリス君。どうしたんだね? 騒々しいぞ」


「どうしたんだねって、イチロー殿こそ、どうしたんですか! こやつを地下牢から出すなんて!!」


サイリスが息がかかりそうな距離まで顔を近づけて怒鳴ってくる。


「あぁ… 屈服させて、仲間に引き込んだのだよ、サイリス君」


「屈服させた!? あの強情だったこやつをどうやって屈服させたんですか!!」


おいおい、サイリス、そう顔を近づけて怒鳴るなよ… 唾と息が掛かりそうだ…


「そ、その… わ、分からせたんだよ…」


「わからせる? 何をどう、分からせたんですか!!」


 えぇ~ 俺に致したプレイ内容を喋れと言うのか… こんな人がいるところで、いくら俺でもそんな羞恥プレイというか、公開処刑というか、そんな朗読会みたいな事はしたくねぇ…


「わ、わからせ棒を使って、わからせたんだよ…」


「わからせ棒!? 棒という事は物理的に分からせたのか… で、わからせ棒とは一体なんなのだ! イチロー殿!」


 サイリス…いい加減、察しろよ… 後ろに控えている衛兵達は薄々分かっている様だが、分かっていないのはお前だけだぞ…


「き、禁則事項だ…」


俺はちょっとだけ、どこかの話ででてきた未来人のように答える。


「き、禁則事項… なるほど、わからせ棒とはおそらく認定勇者だけに支給される魔法道具なのだろう… しかし、あの強情な敵将をこうもあっさりと分からせるとは… もし、私にもイチロー殿と同じわからせ棒があれば、あの強情なハニバル殿も、そして、父上もわからせられたのにな…」


 サイリスは俺の言葉を変に理解して、もしも自分にもあった時のことを空想し始める。って、ハニバルと父上って… 止めとけ…サイリス… それはあかん奴や…


 というか、わからせ棒がなんであるのかをいい加減分かれよ。分かっていないのはお前だけだぞ。その証拠に後ろの衛兵たちがお前の言葉に、必死に笑いを堪えて肩を震わせてんぞ… 別の意味で、サイリスが想像するわからせ棒を俺が欲しくなってきたわ…


「とりあえず、この事態は我々にとって僥倖だ! 防戦一方から攻勢に転じる事が出来るかもしれない!!」


サイリスは憂色の顔色から一転し、喜色満面で拳を握りしめている。


「イチロー殿! これから攻勢に転じる作戦会議を行いたい! よろしいですか!!」


サイリスがまた息のかかりそうな距離まで顔を近づけて聞いてくる。


「あぁ…いいぞ」


「では、私も資料を纏めますので、準備が出来たらお呼びします!!」


 サイリスはそう言うと、授業が終わって教室から走り出す子供の様に、部屋の外へと駆け出して行き、サイリスに付き添っていた衛兵たちもその後に続いた。


 サイリスが出て行った事で、平穏を取り戻した俺は、再び呼び出しがかかるまで、俯せの膝枕を満喫しようと身体を捻って寝返ろうとした時に、ふくれっ面をしたカローラと目があった。


「なんだよ、カローラ、まだメイド服の事を怒ってんのかよ…」


「いや、私が魔眼でどれだけ頑張っても支配できなかったのに、イチロー様がこうもあっさりと支配するのが、ちょっと腹立しくて…」


「っていってもなぁ~ 俺はちょっと…いやかなり致しただけだが…」


「キング・イチロー様、私は人間式同化行為だけで、イチロー様をキングと認めているのではありません」


俺のカローラの会話に、敵将が補足を入れてくる。


「えっ、そうなのか? ってことはただ単にアヘアへのトロトロにされた訳じゃないという事か?」


「その、アヘアへやトロトロの意味は分かりませんが、私がイチロー様をキングと認めたのは、新たな生態認証が注ぎ込まれたからです」


 下腹のあたりを擦りながら答える。って、生態認証って… あれか…俺が何度も何度もこやつに注ぎ込んだ奴か…


 こいつの言葉で、カローラもフィッツも顔を赤くする。特にフィッツは耳まで赤くなって手で顔を覆っている。なんか初々しいなぁ~


「じゃあ、誰でもいいからお前の中に注ぎ込めば、王と認めるのか?」


「いいえ、イチロー様の場合は、女王の支配力を上回る力があったからです。なので、他の者では無理だと思います」


 まぁ… こやつを組み伏せて致すなんてことは一般人では無理だろうから、ある程度強い、こいつを組み伏せるぐらいは出来る力が必要と言う訳か…


「って、いつまでも名前が無いのは不便だな… そもそもお前に名前はないのか?」


「いえ、私は種族全体の一部であるので、個体ごとに名前はありませんね」


「ん~ じゃあ、俺が名前をつけてやろう、お前は今日からアルファーだ! いいな?」


俺はアルファーの膝枕の上で、アルファーの顔を見ながら告げる。


「ありがとうございます。キング・イチロー様。私は今日からあなたのアルファーです」


そう言って、アルファーは少し微笑んで答えた。


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