第104話 数の暴力というもの

「さて、どうするか… 最初に一発デカいの食らわすか」


俺は向こうの丘に屯する虫たちを眺めて、そう口にする。


「主様よ、一発で全部狙えそうか?」


シュリが俺を見上げて聞いてくる。


「いや、所々に散らばっているから難しいな、でも、流石にアレを全部一度に相手にするのは難しいだろ」


「まぁ、いざとなったら、わらわが火を吐いてなんとかするとしよう」


シュリがドヤ顔でふふんと鼻を鳴らす。


「さて、なんの魔法を使おうか… 広範囲に散らばっているから、爆裂の魔法でも撃ち込んでみるか」


 俺はそう言うと、どこかの竜の球を集める漫画に出てくるポーズをとり、両手の掌の中に魔力を集中させていく。別にこんなポーズをとらなくても撃ち出せるが、気分でやっている。


 普段、敵の前でこんなに時間をかけて魔力を貯める事は出来ないが、敵がこちらに気が付いていない状態なら好きなだけ魔力を貯めれらる。なので、俺は制御できる限界まで魔力を貯めていく。といっても、火力をあげてオーバーキルをしても仕方ないので、威力は程々に、攻撃範囲を増大させる為に魔力を込めた。


「よし… そろそろいいな… くらえ! グレネードボム!!」


 俺はそう叫ぶと、掌に貯めていた魔力を勢いよく撃ち出す。魔力は放物線を描きながら、向こうの丘に屯う虫たちの大群の中へ落ちていく。そして、地面に落ちた瞬間、猛烈な閃光とともに巨大な爆発が生じる。


「うし! たまや~!」


「なんじゃ? それは?」


俺の掛け声にシュリが見上げて聞いてくる。


「おう、俺の世界の爆発時にかける掛け声だ。これで、敵の大半を駆除できただろう」


「しかし、凄い爆発じゃのう~ 爆発の周りにいっぱいの火花が飛び散っておるのう」


 シュリが、魔法の爆発を見上げてそう漏らす。シュリの言う通り、爆発の火球の周りに花火のように火花が散らばっており、チリチリと燃えたまま辺りに落下していく。これでかなりの数を殲滅する事が出来たであろう。


「あとは、爆発の範囲外の散らばった敵を駆除していくだけだな」


「火花が落ちてきよるので、それに注意しておけばよいの」


シュリが落下してくる火花を見ながらそう口にする。すると、丁度近くに火花が落下する。


「キィィィィ!!」


「はっ?」


落ちてきた火花はモゾモゾと動いて声をあげる。


「な、なんじゃ!? こやつ、生きておるぞ!」


「もしかして、あの火花って、爆心地から離れていた奴が翅を焼かれて吹き飛ばされただけで、全部いきてやがるのか!?」


 落下した虫は、人の頭ぐらいの大きさのある、ハネアリというか蜂の様な昆虫で、翅と触覚や足の末端が焼かれただけで、俺たちを見つけて鳴き声をあげて動き出す。


 俺は、とっさに腰の剣を抜き、虫に突き刺しとどめを刺す。しかし、火花の形になった虫たちは俺たちの周りに無数にボトボトと落ちてくる。


「ヤベェ! どんどん落ちてくるぞ!!」


 俺は落ちてくる虫たちを見回し、確認する。単なる破片や、死骸などもあるが、生きている奴も結構いる。


「ど、どうするのじゃ! 主様!」


「しくじった!! 虫が軽すぎて爆風で吹き飛ばされて散らばっただけだな… とりあえず、落ちてきた奴にとどめを刺していくしかないだろう!」


 俺は落ちてきた虫を次々と突き刺し、とどめを刺していくが、あまりにも数が多すぎる。シュリも口からブレスを吐いて更に焼殺していく。


「キィィィィ!!」


「キィィィィ!!」


 俺は急いでとどめを刺して回っているが、それ以上に落ちてくる虫の数が多すぎて手が回りきれず、虫が鳴き声をあげていく。


「あ、主様! ま、マズいぞ!」


「なんだ! シュリ! 喋る前に、手を… いや、口を動かしてブレスを吐け!!」


「いや、向こうを見てくれ! 主様! 向こうの残った虫たちもこちらに向かってきておるぞ!!」


 シュリはそう言って、向こうの丘を指さす。俺もその指先の方を見てみると、数えるのがバカバカしくなるほどの多量の虫がこちらに向かって来るのが見える。


「くっそ! 虫の鳴き声につられて、こちらに気が付いたのか!」


俺は虫にとどめを刺しながら叫ぶ。


「主様! このままの姿では火力が足りぬ! わらわがドラゴンの姿になってやきはらってくるのじゃ!」


 シュリはそう叫ぶと、眩しく輝いてドラゴンの姿になっていく。なんか、シュリのドラゴンの姿を見るのは久しぶりだが、ドラゴン状態のブレスなら大群に対しては有効的であろう。


「分かった! シュリ! お前は大群に向かってブレスを吐き続けろ! 俺は周りから群がる虫を殺していく!」


 俺はそう答えて、群がってくる虫を近くのものは剣で、遠くのものは魔法で攻撃しながら、シュリの後に続く。


「破壊の女神と言われたわらわのブレスを食らうがいい!! この虫っころが!!!」


 シュリはそう叫ぶと、虫の大群にブレスを吐き、左右に首を振りながら、その炎で薙いでいく。


「よし! いい感じだ! シュリ!」


 俺はそのシュリの勇ましい様子を確認すると、シュリが前方に集中出来る様に、先ほどの爆風で飛ばされて散らばった後ろから来る虫を倒すことに集中する。


「しかし、俺の魔力量が多いとは言え、さっき大技を使ったばかりだし、敵の量が多すぎる! これは敵を倒せる最低限度に、威力を絞って使わないとキツイな!」


 俺は腰の小道具入れからパチンコ玉の様な鉄球を鷲掴みにして取り出し、それを敵に向かって撃ち込んでいく。これは、普通の魔法では目立つので、暗殺に使う為の魔法で打ち出す様に使う鉄球だ。


 魔法で鉄球を撃ち出すだけなので、目立たないし魔力の省エネだ。しかし、そんなに数がない、100発ぐらいしかないだろう。


 俺は弾の残量を計算しながら、剣と弾で効率よく敵を倒していく。弾がなくなったら、魔弾の魔法を使うしかないが、魔法効率が段違いに悪い。地面に小石でも落ちていたら弾代わりに使う事が出来るのだが、拾っている暇が無いし、元々、低層の草が生い茂っているので、拾う事もできない。


「こりゃジリ貧だぞ! ノブツナ爺さんが手を焼いた訳だ!」


 俺は次々と虫を屠っていくが、虫はゲームの様に次々と沸いてくる様だ。これではキリがない、がしかし、俺がここで踏ん張らないと、俺に背中を預けているシュリに虫が回ってしまう。


「くっそ! 弾が尽きた!」


 腰の小道具入れに手を突っ込んだが、もう弾が無いのに気が付く。仕方がないので、魔法で弾を生成するが、その分余計に魔力を使う。


「主様!」


 後ろのシュリから短い叫びが聞こえる。俺はその声に振り返って見てみると、シュリに何匹かの虫が纏わりついているのが見える。


「くっそ! なんでだ!」


 俺はシュリの後ろ側の虫は全て駆除していたはずだ。俺はシュリに纏わりつく虫を何匹か魔弾で撃ち落としていく。しかし、様子を見てみると、シュリのブレスで燃え残った虫の数匹が生き残っているようで、それが地上に落ちてからジワリジワリとシュリに這い上がっているようであった。


 シュリは最初はその数匹を無視して大群の方にブレスを吐いていたようだが、その少数が積もり積もって結構な数になってきて集中力が尽きているようである。


「だめじゃ! もう限界じゃ!」


 シュリはそう声をあげると、ブレスを吐くのを止めて、のたうち回ってその巨体で身体に張り付いた虫を圧殺しようとする。


「おい! 馬鹿! やめろ!!」


 俺はそう叫ぶが、のたうち回るシュリに周りに虫がわらわらと集まり始める。その様子は、なんだか蟻たちに取り囲まれ噛みつかれたミミズの様である。まぁ、のたうち回るのをやめろと言われても、俺も元の世界で自分の身体にゴキブリが飛び掛かって来た時は同じ行動をとったので、同情はできる。


「くっそ! シュリ! 人間の姿に戻れ!!」


 俺はそう叫びながら、のたうち回るシュリに駆け寄って行く。シュリは俺の声が届いたのか、眩しく輝き縮んで行く。


 俺はそのシュリの姿を見定めると、身体強化魔法と飛行魔法を使い、シュリをキャッチして虫の群れから離れる。


「主様ぁ~ かゆい! 痛いぃ!!」


 人間状態になったシュリの身体には、身体のあちこちに虫さされの様な赤い腫れがいくつもある。おそらく鱗の隙間から針を撃ち込まれたり噛まれたりしたのであろう。


「シュリ! あとでなんとかしてやるから! 今は俺の背中に掴まってろ!」


 そう言って腕の中から俺の背中にしがみ付くように命令する。そして、シュリは涙目になりながら俺の背中にしがみ付く。


 俺は魔弾と剣で虫たちを牽制しながら、タイミングを計る。そして、虫たちが俺たちを取り囲んだところで、俺は勢いよくジャンプして真上に猛烈な勢いで飛び上がる。


 俺の体は身体強化魔法と飛行魔法で一気に100m程上空に跳ね上がり、地上の虫たちを見下ろす。いくつかの翅の残った虫が俺たち目掛けて舞い上がってくるのが見える。


「ウォータースプラッシュ!!」


 俺は水の生成魔法を舞い上がってくる虫や、地上の虫たち目掛けて浴びせかける。水の生成魔法といっても、濁流ほどの水は生成できないが、土砂降りや豪雨よりかは勢いがあので、舞い上がってくる虫を落としたり、俺たちに近づけなくすることぐらいは出来る。


「よし! 次にいくぞ!! サンダーストーム!!!」


 俺は水に濡れた虫たち目掛けて、雷の魔法を浴びせてやる。雷魔法は水に濡れた虫たちを次々と感電させていき、虫たちは小さな湯気を立てながらバタバタと倒れていく。


「どうやら、これである程度は一掃出来たようだな…」


俺たちの足元には足の踏み場の無いほどの虫の死骸が散らばっていた。








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