第79話 そんな癖ないよな?

  俺は寝台の上で目を覚まし、むくりと起き上がる。そして、身体に残った疲労感を吹き飛ばす様に伸びをする。その後、ふぁ~と欠伸をして目をこする。


 ふと、気が付くと、俺が寝る時にはいなかったカローラが横で寝息を立てている。もちろん骨メイド付きだ。しかし、今日の骨メイドはいつものぽんぽんをしておらず、じっと固まって動かない。


もしかして、この骨メイドも寝ているかのか?と思い、そぉ~っと指を伸ばしてくる。


バシン!


すると、眠っていると思っていた骨メイドから指をはたかれる。


「なんだよ… ちょっと、起きてるかどうか試しただけじゃないか…」


 俺はそう言い訳をするが、骨メイドは黙ったまま、じっと俺を見てくるのでなんだか怖い。俺はそんな訳で、仕方なく寝台を降りていく。


「ふぁ~ 昨日はめっちゃ疲れたわ~ 寝ても疲れが残ってるわ~」


 俺がそう言いながら降りると、ソファーの所にシュリがムスッとして座っている。俺が降りて来たのは分かっているはずだか、挨拶がない。


「おはよう、シュリ」


俺からシュリに挨拶をしてみる。するとシュリは俺をジト目でチラリと見る。


「疲れたと言っても労わってやらんぞ」


シュリは挨拶ではなく、そんな事を言ってくる。


「何、怒ってんだよ…」


俺はそんなシュリに言葉をかける。


「主様よ… ちょっと話がある。そこに座るのじゃ」


 そう言ってシュリは自分の前のソファーを指さす。なんかシュリがプリプリに怒っているので、俺は仕方なくシュリが指定する場所へ腰をおろす。


「普通に座るのではない! 正座じゃ! 正座!」


「えぇぇ~」


 なんで、俺がシュリに正座をさせられないとあかんのだ… しかし、シュリがプリプリに怒っているし… 大人しく従うか… 俺はそう思い、仕方なくソファーの上に正座する。


「主様がおなごに現を抜かすのはもう諦めておるが、もうちょっと周りの配慮ができんのか!」


シュリはそう言ってテーブルをバンバンと叩く。


「周りへの配慮ってなんだよ…」


俺は少し口を尖らせて聞く。


「一晩中、あんあん、あんあんと盛りのついた猫の様にうるさくて…」


「シュリさーん、猫はそんな声は出しませーん」


ポチの上のミケが突っ込みを入れてくる。


「も、ものの例えじゃ! 兎に角、一晩中、おなごの嬌声は聞こえてくるわ、それをカローラに聞かせない為に、骨メイドは一晩中歌うわで… わらわはうるさくてなかなか眠れんかったのじゃ!!」


「えぇ~ それ、俺だけのせいじゃないじゃん… 骨メイドも歌ってたんだろ?」


バン!とシュリがテーブルを叩く。


「口答えするでない! 主様!」


口答えするなって… どっちが主か分からないじゃないか…


 しかし、ミケが猫はあんあん言わないって言ってたけど、どんな嬌声を出すんだろ…ちょっと…いや、かなり気になるな… くっそ! 貞操帯が無ければミケで確かめるのに… それと骨メイドが歌ってたって、俺、そんなの聞いてないぞ? 骨メイド達は俺と口を聞かないという事らしいけど、どういう事なんだ? テレパシーみたいに脳内に直接響くのか? しかし、さっき手を叩かれたのはそれが原因だったのか…


「ちゃんと聞いておるのか! 主様!」


シュリが俺の目の前まで顔を近づけて叫ぶ。


「おぉ… ちゃんと聞いてる… ちゃんと聞いてるよ…」


「ほんとなのか? また、変な事を考えていたのではないのか?」


くっそ! シュリの奴、俺の事を見透かしてやがる!! いや、昨日みたいに知らない間に口に出してないよな…


「そ、それより… もう許しては貰えんか? これ以上続けられたら、小さい女の子に怒られて興奮する癖がついてしまうかもしれん…」


「何を言っておるのじゃ! 主様! 小さい女の子に怒られて興奮する癖など… あるのか? 人間には?」


シュリは怒っている途中で、疑問に思い聞いてくる。


「あるぞ」


知らんけど…


「ふむ… では、これ以上怒ると、主様の教育上よくないのぅ… 今日はここまでにしてやるか」


俺の教育上って、お前は俺のオカンか? でもまぁ~ これで許してもらえるようだな。


「では、今後はもうするでないぞ… それより、主様よ、腹が減っているのではないか?」


シュリはソファーからぴょんと降りると炊事場へと向かう。


「そう言えば、かなり腹が減っているな… 今、何時だ?」


「もう昼の三時じゃ」


そう言って、シュリはオーブンの中に向かって火を吐く。便利だな~


「今、食事を温めるから待っておるのじゃ、主様よ」


「おぉ、ありがとう…」


いや、マジでオカン状態だな…


「それで、飯を食ったらカズオと変わってやるのじゃ、主様」


「あぁ、そうかカズオに御者任せっぱなしだからな…」


「それもあるが、カズオもあまり眠れていない様なのじゃ…」


 シュリはそう言いながら、カップに暖かい飲み物を入れる。もしかして、カズオが眠れていないのもの俺のせいか?


「しかし、そろそろミケの故郷であるフェインが見えてくるそうじゃが、どうするのじゃ? 主様よ」


シュリはそう言って暖かい飲み物を俺に差し出す。


「どうするってなに? それより、もうフェインにつくのか? いつの間に国境をこえたんだ?」


「国家といってもフェインは都市国家のようなものらしいからのう… すでに国境は超えておるわ。 それより、どうやってフェインという国を守るのかって事じゃ…」


シュリも飲み物を持って俺の前に座る。


「そりゃ、行ってみないと分からんなぁ~」


「なんじゃ、行き当たりばったりか…」


ぐうの音も出ないほど、その通りだ… まぁ、若さ故の過ちという奴だ…


そんな事を考えていると馬車が停車する。


「あれ? 馬車が止まったぞ? もうフェインに着いたのか?」


すると、御者台の方からカズオの声がする。


「旦那ぁ~ それとミケもちょっと来てもらえやすかね?」


「主様、カズオが呼んでおるぞ」


「ちょっと、行ってくる」


俺は飲み物を残して、御者台に続く連絡口へ向かう。


「あっ 旦那」


「おう、カズオ、すまねぇな、お前ばかりに御者させちまって」


連絡口から顔を出した状態から、御者台の上に上がっていく。


「いえいえ、それよりちょっと、見てもらいてぇものがございやして」


「なんだ?」


「あれでやす」


そう言ってカズオは遠くを指さす。それと同時にミケも連絡口から出てくる。


「あそこに見えるのはフェインの町で、フェインの城か?」


「へい、そうなんでやすが… なんだか様子がおかしいもんで…」


「あ~ なんか落城しているぅ~」


ミケがぽつりと呟いた。ミケの言う通り、フェインの城にはマセレタの旗がなびいていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei

ブックマーク・評価・感想を頂けると作品作成のモチベーションにつながりますので

作品に興味を引かれた方はぜひともお願いします。

同一世界観の『世界転生100~私の領地は100人来ても大丈夫?~』も公開中です。

よろしければ、そちらもご愛読願います。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054935913558


 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る