第77話 実況!パワフルカズオ飯!
「うぅ…」
手足を縛って、その縄を馬車の車輪に結んでいる状態のダークエルフが目覚め始める。その様子に近くで燻製用のウッドチップを作っていたシュリが立ち上がり、服に付いたウッドチップを払い落す。
「おぉ、目覚めたようだな」
「そうでやすね…」
その様子を伺う為に俺とカズオが近づく。そして、ダークエルフは目を覚まし、その目に俺とカズオの姿が映る。
「きゃぁぁぁぁ!!! 人間とオークよぉ!!!」
顔つきからして女騎士みたいにくっころ!みたいな事を言い出すかと思えば、意外に女の子らしい悲鳴を上げる。そして、手足を縛られた身体でビタンビタンと暴れ出し、シュリの作っていたウッドチップを撒き散らす。
「あぁ、わらわが作ったウッドチップが…」
せっかく作っていたウッドチップを撒き散らかされてシュリが落胆の声を漏らす。
「手足を縛られた身体でビタンビタンと動いて、ウッドチップを身体に着けているところを見るとなんだが、おが屑で梱包された車エビみたいだな…」
「えぇ? エビでやすか? あぁ、言われれば確かにエビみたいでやすね…」
きゅぅるるる~
そんな事を言ってると腹の虫がなり始める。
「とりあえず、ちゃんと縛り上げているから逃げ出しはせんだろう。カズオは飯の準備、シュリはすまんがウッドチップを作ってくれ。俺は解体の続きの血抜きをするから」
「め、飯の準備!? 解体! 血抜き!!!」
ダークエルフはそう叫ぶと目を白くして再び失神する。
「なんか、自分が飯の為に解体されると思ったようじゃな… カズオよ、起きて、また暴れんように、しっかりと固定していってはもらえんか?」
ウッドチップを撒き散らかされたシュリがムスッとしながらカズオに頼む。
「へ、へい…分かりやした… 流石に失神していたら噛みついたりしやせんよね?」
「なんだよ、カズオ、お前、ダークエルフも怖いのか?」
恐る恐るダークエルフを車輪に固定するカズオに問いかける。
「へい、まぁ、あっしらオークは人型の女性に嫌われる事が多いからですからね… あっしも昔、エルフにケツを矢で射られた事がありやす。傷跡をみやすか?」
「いらんわ、お前のケツなんか」
俺はそう言って、鹿の解体へと戻る。
「シュリの姉さん、これで大丈夫でやす。身体も頭もがっちり車輪に結びつけて置きやしたので」
「すまんのう、カズオよ。ちょっとわらわは撒き散らかされたウッドチップを集めるぞい」
俺はその会話を背中で聞きながら、血抜きをする為、鹿の首にナイフを当てる。
ピギャァァァ!!
「おっと、まだ、息があったのかよ! ちょっと、動くな!」
俺は暴れ始めた鹿を押さえるが、その時に血しぶきが飛んで、ダークエルフに掛かり、再び目を覚ます。
「むぅ! むぅ~! むぅ~!」
今度は口に猿轡もされているし、身体も車輪にガッチリ固定されているので、先程のエビの様に暴れる事はない。
「おい! シュリ! 俺が押さえているから、お前が血を受け止めてくれ!」
「相分かった!」
その言葉を聞いて、再びダークエルフは失神する。
「しかし、なんでまた血のプディングなんて作るんだろうな?」
「なんでも、骨メイドが言うには最近、カローラが鉄分をとってないからじゃそうな」
そこまで行くと、カローラ専用の管理栄養士だな… しかも、あいつ、結構偏食だから苦労しているだろう…
その後もダークエルフは目覚めては失神するを繰り返す。
「ポチの分の足を切り分けるぞ!」
「むぅ~! むぅ~! むぅ~!(ガク)」
「ソーセージ作るから、腸を引きずり出すぞ!」
「むぅ~! むぅ~! むぅ~!(ガク)」
ウッドチップを作っていたシュリが、見るに見かねてナイフを持ったままダークエルフの所に行く。
「別にそなたまで取って食おうというつもりはない、大人しくしているのじゃ」
「(ガク)」
「あれ? なんでまた気絶したのじゃ?」
「そりゃ、ナイフ持ったままじゃ、勘違いするだろ…」
俺に言われてシュリは自分の手を見る。
「あぁ、力を入れてやっておったので、手放すのを忘れておったわ」
そう言ってシュリはウッドチップ作りに戻り、馬車の中からカズオが鉄板を持って現れる。
「どうした? カズオ」
「へい、今日は鹿を切り分けながら、外で夕食をしようかと思いやして」
「あぁ、いいなそれ、なんかバーベキューみたいだ」
カズオは竈を作ってその上に鉄板を置き、火をおこして準備を始める。
「旦那、ロースを切り取ってもらえやすか?」
「おぉ、ちょっと待ってくれ… ほい、これだ」
俺は切り取ったロースをカズオに手渡す。
「ありがとうごぜいやす。〆たばかりでやすので、今日は味を濃いめにしやしょうかね」
カズオはそう言うと、鉄板の上に油をしき、その上に刻んだニンニクを入れる。油とニンニクがなじむ間に、肉を切り分け、軽く塩とコショウをまぶす。そちらも暫くなじませるようで、鉄板の別の場所にバターを落とし、バターが程よく溶けた所で、コンコンと卵を割って落とし、ぐるぐるとかき混ぜスクランブルエッグを作る。そのスクランブルエッグを鉄板の温度の低い所に移動させて、今度は先程の刻んだニンニクの所に肉を並べて焼いていき、肉の焼けるジャーっと言う音が鳴り響く。
「いつもの事じゃが、カズオの料理は音と匂いで胃袋を掴んでくるのう~」
漂う匂いと音に、シュリは手を止めてカズオの料理を眺める。
「マジで美味そうな音と匂いをさせてるな…」
俺もゴクリと唾を飲む。
続けてカズオは軽快に玉ねぎとトマトをスライスしていき、馬車の中から持ってきたパンを二つに切る。そして、再び鉄板にバターを落とし、それにパンの切った面を乗せて少し焼き目をつける。頃合いを見て、パンを取り、しゃきしゃきのレタス、スライスしたトマトと玉ねぎ、その上にマヨネーズをかけ、スクランブルエッグを載せる。もうこの時点でかなり美味そうだ。
しかし、カズオの進撃はまだ止まらない。その上にニンニクで風味をつけて焼いたロースを載せ、その上からチーズを削ってまぶす。するとチーズは肉の熱でゆっくりと溶けていき、肉の表面全体に広がっていく。そして最後にパンで蓋をして…
「へい、出来やしたぜ。冷めないうちにどうぞ」
「おう、じゃあ冷めないうちに食うか」
「わらわももう我慢できん…」
俺とシュリは作業の手を留めて、手ぬぐいで手を拭いながらカズオの元へ行き、腰をおろす。そして差し出されたホットサンドを手に取る。
「では、頂きます」
「頂くのじゃ」
二人してホットサンドに齧り付く。パリッとしたパンの食感にコショウとニンニクで香りをつけた肉汁、スクランブルエッグとチーズとマヨネーズの濃厚な味わいに、トマトの酸味、スライスされた玉ねぎとレタスのシャキシャキ感、それらが混然一体となって口の中に広がる。
俺がいい年したおっさんなら、目と口からビームを出して、厨房まで走って、これを作ったのは誰だ!と叫んでいた事であろう。それぐらい美味かった。
「あっ みんな先に食べてる…」
馬車の入口からカローラが姿を表す。恐らく匂いにつられてやって来たのであろう。
「カローラもすぐ来るのじゃ! カズオのホットサンドは美味いぞ!」
シュリは口の周りを少しマヨネーズで汚しながら、カローラを手招きする。
「カローラ嬢の分も今用意しやすので、カローラ嬢はニンニク抜きでよろしかったでやすね?」
カズオは手早くカローラの分のニンニク抜きロースを焼き始め、カローラもシュリの横に腰をおろす。
「材料も沢山ありやすので、お代わりが必要なら、どんどん言って下せい」
俺たちは思う存分、カズオ飯を味わった。
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