第73話 赤ちゃんクリスと敵の情報

「えっ? カローラが情報仕入れて来たのか?」


カローラはフードの様な被り物を骨メイドの預けると、トコトコと俺の所にかけてくる。


「買い物してたら色々教えてくれたんだけど… なにこれ?」


 座ろうとしていたソファーの所に赤ちゃんの恰好をしたクリスが横たわるの見て怪訝な目をする。


「あぁ、口臭対策のミルクを飲ませるためにこうなった。気にするな。シュリ、詰めてカローラの座るところを開けてやれ」


二人で座っていたソファーを三人で座れるように詰めていく。


「で、どんな情報を手に入れたんだ?」


俺は改めてカローラに尋ねる。


「カードを買いに雑貨屋にいったんだけど、今、物流が止まっているんだって」


「物流が止まってる? またどうして?」


他文化圏との接触地だ、物流が止まるなんて普通ではありえない。


「なんでも、フェインの方に魔族側が圧力をかけるために侵攻を始めている見たい。それで魔族側の集団が出没するようになったから、物流が止まったんだって」


「あぁ…なるほど… 盗賊や山賊程度なら、冒険者の一団でもなんとかなるが、軍勢とかになると難しいな…」


 ロアンのパーティーにいた時でも軍勢を相手にしろと言う依頼は来なかった。まぁ普通に考えたら出来る訳はない。ただ、指揮官の暗殺などはたまにあった。


「しかも、近くに駐屯地まで作っているから、町の活動もかなり制限されているんだって、それで職にあぶれた人が酒場で管巻いているらしいよ」


「あぁ、あの酒場の連中、商隊の護衛専門の輩だったのか…それで仕事がなくなって酒場で飲んだくれていたと…」


あの事件が無ければ気の毒だと思うのだが…


「話が長くなりそうなら、何か飲み物でも入れやしょうか?」


カズオが気を利かせて聞いてくる。


「いや、俺はいい…」


「わらわも腹がたっぷんたっぷんじゃ」


「私もいらな~い」


「うぅぅぅ… うぅぅぅ…」


 俺とシュリとカローラが断ると、なぜがクリスが唸りだす。なんだと思って、身を乗り出して見てみると、空になった哺乳瓶を咥えて眉を顰めて唸っている。


「…カズオ、クリスの哺乳瓶にミルクを継ぎ足してくれ…」


「へ、へい、分かりやした…」


 カズオはクリスの口から哺乳瓶を取ると、蓋を開け、新しいミルクを足していく。そして再びクリスの口に咥えさせると、ちゅーちゅーと吸い始め、顰めていた眉が開き、穏やかな顔になっていく。


「こいつ、前に辛い時は寝るのが一番と言っていたが、本当にそうだな… 寝ている時が一番幸せそうだ…」


「そうじゃのう… しばらく、そっと寝かせてやるか…」


俺はもうクリスは一生寝たままの方が幸せじゃないかと思い始めた。


「で、どこまで話していたっけ? そうだ、近くに駐屯地があって物流が止まっているって話だったな… カズオ、食料品の買出しにはもう行ったのか?」


「いや、酒場でミルク飲んで、急ぎみたいだったんで、そのままクリスさんの分を買って来ただけでやす」


残ったミルクを片づけていたカズオが答える。


「じゃあ、まだ行ってないんだな、では、金はいつもの倍持っていけ、多分、それぐらいにはなっていると思う。足りなかったらまた言えよ」


「へい、分かりやした。しかし、その話だと品数もなさそうでやすね…」


 カズオは何かと新しい食材を買ってきて、新しい料理に挑戦しているからな… 物流が止まっていたら碌なもんはないだろ… しかし、穀物ぐらいはちゃんと買えると思うが…


「しかし、駐屯地にいる敵の情報も欲しいな… カローラそっちの話は聞けなかったのか?」


「そっちはダメだった。敵がいるのを直接見たのは、商隊の護衛で逃げ帰ってきた人たちだけって言ってたよ」


 カローラはテーブルの上に広げられたシュリが貰って来たベビー用品をいじりながら答える。


「商隊の護衛って…酒場にいたあいつらか…」


「では、捕まえにいくか?主様」


「いや、蜘蛛の子散らすように逃げたからな…ポチも側にいないから臭いで追えないし…」


「でも、小さな町だから、酒場以外に他に行く場所もないじゃろ?」


まぁ、確かにシュリの言う事も一理あるな…


「うぅぅぅ… うぅぅぅ…」


また、クリスが呻き始める。もうミルクを飲み干したのか。


「おい、カズオ、また、ミルク…」


 俺がそう言いかけたところで、クリスがむくりと起き始め、口から外れた哺乳瓶がころころと床に転がる。


「どうして私は…ここで寝ているのだ? 確か…戸棚の中で寝ていたはず…」


「お前は臭いものを食ったのに狭い所にいたせいで、臭さに気を失っていたんだよ」


「私が臭さで気を失っていただと?」


クリスは俺の説明を聞いて、口元に手を当ててはぁ~と息を吐き、眉を顰める。


「まだ、臭いが残っているな… イチロー殿たちは大丈夫なのか?」


クリスが俺たちに向き直って聞いてくる。


「あぁ、俺たちは町の酒場でたらふくミルクを飲んできたからな、もう大丈夫だ」


「では、私も町の酒場とやらに行ってくるとするか」


そう言ってクリスはすぅっと立ち上がる。


「じゃあ、すぐに飲んでくるので待っててくれ」


そう言い残すとクリスが足早に馬車の外へ出て行った。


「なぁ、主様よ」


シュリが俺の袖を引っ張る。


「なんだよ…」


「止めんでも良かったのか? クリスはあの恰好のまま、外に出て行ったぞ」


確かにクリスは赤ちゃん頭巾に涎掛けの姿のまま外に出て行った。


「いや、あまりにも堂々と出て行ったので止めるの忘れてたわ」


「あとで騒いでもわらわは知らんぞ」


「まぁ、自分の姿の事だから、普通気が付くだろ、急いでいたからそのまま行っただけだ」


と、俺は信じたかった。


「それより、俺たちはあの荒くれども探し出して、情報を聞かないとな」


「なら、急がねばならんではないか? 酒場におるのなら、今度はクリスが絡まれるぞ」


あっ、それはあり得る。クリスの不幸体質なら絶対に絡まれるな。


「じゃあ、クリスを追いかけるぞ」


俺は立ち上がり、馬車の出入口へ向かう。


「おい! 早くしろよ!」


「分かってるよ! この金具、結構高そうだぜ… 金じゃねえのか?」


 馬車の外に出ると、俺たちが探していた荒くれどもの二人が、馬車の装飾の金具を必死に剥がそうとしていた。おそらく売り飛ばして酒代にでもするつもりだったのであろう。金だと思っているが、たぶんそれ、真鍮だぞ…


そんな事を考えていたら、荒くれどもと目が合う。


「あっ」


「いたぞぉ!!いたぞおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」


俺は面白半分で大声をあげる。


「ひぃぃ!! さっきの悪臭の連中じゃねえか!!!」


 荒くれの一人は逃げようとするが、足がもつれてすぐにすっころぶ。そこへ俺の声に気が付いて馬車から飛び出してきたシュリがあっという間に抑え込みに入る。


俺は逃げたもう一人を追いかけ、後ろから羽交い締めにする。


「ひぃぃぃ!! ゆ、許して下さぃぃぃ!!!」


荒くれ男が情けない悲鳴をあげる。





「で、なんだ、お前たちが護衛をしていたら、弓で狙撃されたと言う訳だな?」


俺は正座させた荒くれどもの前に威圧的に立って見下ろす。


「はははい! そうです! 俺たちは弓で狙撃されたんです!!」


 男の一人が必死に声をあげる。ちなみに正座させた膝の上に穀物の袋を二つ乗せている。ちゃんと質問に答えたので、カズオに指示をして袋を一つとってやる。


「で、狙撃した奴の姿は見たのか? どんな奴だったか分かるか?」


「黒い姿の奴でした!!!」


「ダークエルフでした!!! 耳が長かったですぅ!!」


 一人の男が先に答えたが、もう一人の男が必死に詳細を答える。俺はカズオに目配せして、詳細に答えた男の方の袋を下ろさせる。これで二人ともあと一つだ。


「で、何人いたんだ?」


「じ、十人です!!」


「矢が10本刺さってたんで十人です!!!」


 二人とも十人と答える。どっちかだけにしても良かったが、欲しい情報は大体手に入ったのでこれでいいだろう。


「よし、カズオ、二人とも解放してやれ。それとお前ら、もうやるんじゃないぞ、次やったら、このオークが直接口移しで口臭をお前らに流し込むからな」


俺の脅しが効いたのか、荒くれ二人は悲鳴を上げながら逃げて行った。


「さてと、情報も入ったし、出発の準備をするかぁ!」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



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