第18話 護送と守備隊長

「やはり、旅は外を眺めながらがいいな…」


俺は馬車の御者台のカズオの隣に座りながら、外の景色を眺める。


「はぁ… そんなもんでやすかね… 一時間程見てたら、飽きてきますよ、旦那」


となりのカズオがそう返す。


「では、なおさら、話し相手が必要だな。お前に任せてばかりだし」


「えっ? 旦那! あっしを気遣っての事ですか? ありがてぇ」


 まぁ、カズオに対してカッコつけた事を言っているが、実際はゲームでカローラを泣かして、骨メイドの無言の視線が痛いから、外へ逃げて来た訳である。まぁ、結局、食事の時や、就寝時に顔を合わせないといけないが、カローラの機嫌が治るまでは外にいた方が良いだろう。


「それにカズオ、お前だけだと、また魔族側の進行だと間違われて、騎士団に襲い掛かられるからな。人間の俺がいないと…」


 この前からの停車は、盗賊の襲撃ではなく、全て魔族を警戒していた騎士団によるものであった。その都度、俺がポチに対応させて、追い返して来た訳だが、最後の騎士団のリーダーは女騎士だったな… ポチも武器ではなく、折角なら女騎士を捕まえて来いよ…


「なあカズオ、この前から襲ってきた騎士団は本当に全て同じ奴だったのか?」


「へい、そうでやす。毎回、あの女騎士がやってきては、ポチに遊ばれてましたね。あっしは女騎士に捕まって乱暴されるんじゃないかと怯えていましたが、ポチには助かりました」


 なるほど、何度も来てるなら、また来るかもしれんな… しかし、来るたびにポチに奪われて、武器のグレードが、家宝の剣、普通の剣、なまくらな剣、最後にこん棒と落ちていったが、次に来るときは何を武器にしているのだろう…素手か?


「それより、なんでお前が女騎士にビビってんだよ。普通逆だろ?」


「いや、その噂が女騎士にも伝わっているそうで、あっしらオークを目の敵にするんでやす… で、捕まったら最後、女の敵と言う事でひでぇ拷問を掛ける事で、あっしらに有名なんですよ」


話しながらカズオの顔は少し青くなっている。


「なるほど…筋は通っているが… お前ら魔族側なのに、ビビり過ぎだろ」


「そうですかねぇ~」


 しかし、これから首都に向かうと言うのに、何度も騎士団を取り逃がしていては、手配書が回っているんじゃないかと心配になってくる。まぁ、俺は元勇者ロアンのパーティーメンバーだから、手柄を連れて行く途中で手違いがあったと言えばいいし、実際、ポチに人は食うなと伝えておいたので、武器を奪われ続けたあの女騎士は被害者ではあるが、死者も出ていない。


そうこうしていると、首都に近づいているためか、人里がちらほら見え始める。


「ん~ カズオ。お前、念のために馬車の中に入ってろ。後は俺がやるから」


「旦那、いいんですかい?」


「あぁ、揉め事を起こさない為だ。首都が近いから、ここで揉め事を起こしたら大事になる」


「分かりやした。後は頼みやす」


カズオはそう言って、連絡扉から馬車の中へ入る。


まぁ、カズオの姿が無いと言っても、馬が骨なんだけどね。


 実際、道を進んでいると街道の人々やすれ違う者たちが、俺達の奇妙は骨馬と馬車を見て、顔を引きつらせる。俺はその都度、魔族側から奪った物だと説明するが、どれほど、信用されているか…


 暫くすると、街の方角から、守備隊と思われる一団が馬に乗って現れる。


「停車せよ! そこの馬車! 停車せよ!」


俺はその声に従い、馬車を停車させる。


「先日より、奇妙なスケルトンホースで引いた馬車の目撃談を何度も受けているが、貴方の事か!?」


守備隊の隊長らしき人物が、強張った顔で俺の前に進み出る。


「そうだ。魔族から奪った品や、捕虜をつれて王都に向かい、その手柄を認めてもらう為だ」


俺は包み隠さず、率直に目的を告げる。


「ほ、捕虜だと! では、その馬車の中に魔族がいるのか!?」


守備隊長は驚きの声をあげ、強張った顔を青くさせる。


 あれ? なんで捕虜がいる事にビビってんの? ハイオークのカズオの事やフェンリルのポチの事が伝わっていないのか? いや、おかしいだろ。あの騎士団は何度もカズオを目撃し、ポチに撃退されているから、その存在は知っているはずだ…


「あっ」


俺は謎がなんとなく分かったので、声をあげた。


「あっとは何だ! あっとは!」


俺の言葉に守備隊長が攻め立てる。


「い、いや、俺も捕虜が暴れたり脱走したりしないか心配なので、このまま、そちらの守備隊についてもらえれば良いかと思いついたので…」


 俺は口から出まかせをついた。実際はあの女騎士がポチに武器を奪われたのが恥ずかしくて、俺達の事を守備隊に報告していないと気付いたからである。そりゃ家宝の剣とか奪われたら、恥ずかしいわな…


「な、なるほど。そなたも手柄を運ぶのは大事だが、我らも魔族から民を守るのが勤め… 警護の為、同行しよう」


 守備隊長はやりたくないが、立場上、引き受けなくてはならず、いやいや承諾した。俺自身も守備隊が周りにいるなら面倒事には巻き込まれないので、願ったりかなったりだ。


 こうして、俺が操る馬車の周りには、守備隊が付く事になったのであるが、これは実に気分がいい。一台で進んでいる時は、皆が俺を避けていく様子が、なんだかえんがちょされている様に思えた。しかし、警護が付くだけで、なんだか偉くなったように思える。こう、モーゼの海渡みたいに、人が引いていくので気持ちいい。


 そんな事を思っていると、先程の守備隊長が部下と共に馬を寄せてくる。


「先程は混乱していたので申し遅れたが、私はイアピース王国、王都イアピース北方守備隊のアラン・モースだ。其方の所属と名は?」


「俺は勇者ロアン・クラースのパーティーの一員でイチロー・アシヤだ。今は故あって、別行動をしている。この馬車や中の捕虜は、別れた後、捕まえたものだ」


「して、中の捕虜とは?」


守備隊長のアランは俺を見定める様に窺う。


「そうだな、ハイオークが一匹、ドラゴンが一匹、ヴァンパイアが一匹、フェンリル一匹だな」


「ド、ドラゴンだと?」


俺の言葉に守備隊長アランは目を丸くする。


「あぁ、今は人化させて放り込んでいる」


 俺がそう伝えると、守備隊長アランは信じられないような顔をするが、部下に目配せし、その部下がコクリと頷き、街道の先へと、馬を走らせていく。


 あぁ~ これは、身元照会に部下を走らせたな。まぁ、事実しか言ってないし、問題ないとは思うが… ロアンの奴、俺の追放をどの様に報告しているのだろう… ちょっとそれが心配だ。


 まぁ、勇者パーティーの名を笠に着て、略奪や殺人などしていないから大丈夫だと思うが… どうだろう…ロアンの奴、決戦前に戦力である女性メンバーを孕ませたから追放したと報告してんのか? いや、それだとあいつ自身の管理能力とか嫉妬と思われて人格疑われるだろ… ホント、どんな報告してんだろ?


 そう言えば、じじばばばかりの村で、ばばあを裸に剥いた事もあったな… あの時は、全員、袋を被って顔が分からない様にしていたはず…バレてない…バレてない…よな?


 そう考える俺に、アランは先程とは異なり、冷静な顔をして、『では失礼』と言って、俺から離れて、元の隊列に戻る。


 これは、『焦って損した、こいつほら吹きだ』って感じに思っているんじゃなかろうか?先程に比べ、かなり余裕な表情をしてやがる。まぁ、実際、ハイオークのカズオは置いといて、シュリは幼少女の姿だし、カローラはまんま幼女だからなぁ~


 まぁ、検分する時に実際の力を見せれば良いだけだが、それまでにカローラの機嫌が良くなっていると事を祈ろう…


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