第17話 叶わない約束
「答えてください」
京也は床に座り込んだアルフレッドの目線に合わせるようにしゃがんだ。
「貴方が日本へ逃亡したのは、ちょうど十年前……これは偶然ですか」
「なんのことだ……?」
「十年前、母さんを殺したのはあんたか」
「……違う」
京也は無言でアルフレッドをみつめる。そしてその額に銃を据えた。
生気を失ったアルフレッドの表情に、恐怖という色が浮かぶ。
京也は銃を持たない片方の手を伸ばすと、アルフレッドの頬に手を沿わせた。
「……」
その藤色の瞳に、落胆と失望が色濃く浮かぶ。
「……僕の早とちりか」
目を伏せたまま、その手をアルフレッドから離して立ち上がった。
光警が魂のない抜け殻のようなアルフレッドを引き連れていったあと、そこには三人の人影と行き場を失った無数のぬいぐるみが残された。
静まり返った会場で、ボスは過去の情景を呼び起こす。
「一緒にこの世界を創りなおそう」
ああ。君は確かにそう云って、私と約束した。
だがニードルのやり方ではそれは叶わないと、知ってしまった。
背後からボス、と立ったまま動かない上司を気にかける緘人が声を発すると、ボスは振り返らずにアルフレッドの居た場所を眺めた。
「彼は私ではなく、私の能力を惜しみ、取り返そうとした」
ボスははっきりとした口調で云う。「彼のいう友情なんてものは、他人を利用するための都合のいい名称に過ぎないのだよ」
ボスは背を向けたまま、君も覚えておくといいと呟いた。
その言葉に緘人は何も云わず、ただ俯いた。
「京也くん。今回は君たちに貸しができたね」
ボスらしい落ち着いた口調に、出口に向かって歩き出した京也が一瞬立ち止まる。
「……自分のために動いただけです。貴方のためではありません」
その返答に、ボスは満足そうに微笑んだ。
「それでいい」
✧ ✧ ✧ ✧ ✧
アンティーク調の上品な置物がゆったりと並ぶ部屋に、片目を布で覆った一人の青年が足を踏み入れた。物音ひとつ立てず、気配を消していた。
その青年は「無音」の異能を使い、静かに眠る老紳士の前まで近づいた。
老紳士は涙を流していた。
「……」
青年は声をかけるべきか迷う。しかしその影が自分を覆った途端、老紳士は目を覚ました。
「イチか……」
「サムナー様。ニードルの残党を取り
青年はひざまずいた姿勢で、
「ご苦労であった。君には今回辛い役割をさせてしまったな」
老紳士は、申し訳なさそうに
「いえ。自分がやる分には構いません」
その拍子に覆われていない左目にかかっていた赤色の前髪が横に流れ、琥珀色の瞳が存在感を放つ。「ただ二人には……」
「ああ、分かっている。ヨーコとハチの手は汚さないという約束じゃ」
青年はこくりと頷いた。
「しかし依然として加賀谷と奴の関わりは、まだ確認できておりません。直接ビターに伺いにいきますか―――それとも」
「いや、彼等と関わるのは、まだ控えた方が良いかもしれんな。引き続き監視を頼むよ」
深みのある穏やかな声でそう云うと、青年は頷いた。
「かしこまりました」
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