第41話 テキトーな上司を持つと苦労する

「痛っ」

「大丈夫か?」

 静雫が声を掛けるとユニオットは大丈夫、と返答した。「夏目の云う通りなら、もうすぐ着くはずなんだけど」


 二人は月明かりの光を頼りに、ただ直線上に林の中を進んでいた。

 生い茂る木々が邪魔で下手すると衝突しそうになる。実際、すでにユニオットは四、五回ほど肩や手先を痛みつけていた。

「こんな暗い中で本当に見つかるのかよ……」と静雫は勘の良さを幸いにして無傷のまま進む。

 しかし束の間に、辺り一面がぱっと明るくなった。まるで寝坊した太陽が急いで姿を現したかのように。

「なっ……」ユニオットは静雫とともにその急激な刺激に耐えられず目を細める。視界が白く染まり何も視えない。しかし耳元に流れた声は、聞き覚えのあるものだった。

「やっと見つけました」

「小さいから見つけにくかったぞ」

「お前らは……」


 ようやく開けた視界で捉えたのは、深紅の洋服をまとった双子の少年だった。瓜二つの兄弟、RとL。

 足場もない、重力を無視した空中に平然と立っていた。

 身に着けたあか色の首輪は警告を促すように闇の中でも眩しく光る。そして一層眩しい光を放っていたのは、Rが手にしていた大型の懐中電灯……ではなく、星を凝縮したような、光の塊―――それを立ちすくむ静雫とユニオットにまっすぐ向けていた。


「あれ、隣にいるの喫茶の子じゃん」Lは静雫に目を向けると、不思議そうな顔をする。「ねぇR。これどーゆーこと?」

「……分からない」Rは静かに応える。

 静雫は微笑を浮かべ、好戦的な目で双子を見上げた。

「やるのか?いいぜ、僕の実力を見せつけ、」

「君たち、二人だけ?」Lが地面に降り立ち、静雫の渾身の決め台詞を遮って問う。

「……うん、そうだけど」呆然と立つ静雫に代わりユニオットは応える。

「これは、困ったな」Rも地面に降り立つと、深刻そうに眉をひそめた。「また緘人さんにやられたようだ」

「うげっ、またぁ?」Lは心底いやそうに嘆く。「緘人の奴、情報を共有しなさすぎ。『ビターには手出しちゃいけない』って云っておきながら、脱走した二人を取り返せって……どうすんだよ、この状況」

「さて、どうしたものか」

 双子は同じ顔を傾けた。


「二人だって……?」ユニオットは混乱したような表情を浮かべる。

「なんなんだよお前ら!突然現れて……闘う気なのかそうじゃないのかハッキリしろ!」静雫は声を張るが、双子は話し込んでいて聴いていない。

「あの人の情報伝達不足はいつものことだ」

「ったく仕方ないなぁ……テキトーな上司を持った僕たちの運の悪さだね」

「そうだ、緘人さんは悪くない」

「いや、兄さんそれはさすがに贔屓ひいきすぎない」

「おい!無視すんな‼」

「あーもう、煩いなぁ」Lがわめく静雫をみて舌打ちした。「とりあえず、おく?」

「そうだな」Rが頷く。


 すると次の瞬間。

 Rが手に持つ光の塊が一層強く、静雫とユニオットを包み込んだ。

 急激に増す眩しさに静雫とユニオットが目をギュッとつむる。そしてようやく目を開くと―――そこは見たことのない場所だった。

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