スペースメスガキ(♂)

しげ・フォン・ニーダーサイタマ

「あたし初陣なの♡」

「落ち着いて聞いて頂きたいのですがね、貴方は確かに望み通り右腕に軍仕様のサイバネティクスを移植し、事故で損傷した脳細胞も神経シートで補完出来ました。ですが……」

「が?」

「神経シートと貴方の細胞の相性が悪かった――――いやある意味良かったのでしょうね、神経シートが運動野と異常に深く結合し、各感覚・運動能力は殆ど人類の限界まで能力を発揮出来るようになっています」

「良い事じゃないか」

「ここまでは、です。……神経シートは脳の奥深くまで侵食してしまい、その身体能力を発揮するにはある条件が必要な構造になってしまっています」


医師はホロディスプレイに脳の映像を表示した。砲弾の破片で損傷した俺の脳。そこに神経シートが貼り付き、幾つもの根を伸ばしている。「ここですここ」と医師が脳の1部分を指差すが医学知識の無い俺にはさっぱりだ。


「その条件とは?」

「脳マッピングから想定したものなので確信には至ってないのですがね?そのう……小生意気な女児の真似をする事、です」

「ちょっと何言ってるかわからない」

「ですから、メスガキの真似をする事です」

「そこではない!」



――――それが事の経緯だった。


ちょっと、いや全くよくわからない。しかしそういう事になってしまった。おまけに神経シートの侵食が激しすぎて治療も不可能と言われた。敵軍の無差別攻撃で右腕と脳の一部を失い、復讐のためにサイバネティクス手術を希望したというのにこのザマだ。流石に泣けてくる。


しかし泣いている場合ではなかった。軍のパイロットとなり人型戦闘機械「ウォリアー」を駆って初陣を飾ったは良いが、部隊が敵エース部隊に襲撃されピンチに陥っていた。既に隊長機は落とされ、組織的な戦闘は行えず僚機が各個撃破されている最中だ。そして俺も2機の敵ウォリアーに追われていた。


「クソッ!クソッ!クソッ!」


完全に尻に張り付かれ、浴びせられるマシンガンを乱数回避で何とか避けている。


「こんな所で死んでたまるかよ!」

「ヒャハハ、ニュービーか?ほれほれ、戦い方を教えてやるよォ!」

「ヒヒヒ、お前は教え方が悪いから生徒が死んじまうよォ!」


敵兵は余程余裕があるのかオープン回線でこちらを煽ってくる。反撃したい所だがそんな余裕は全くない。このままなぶり殺されるのか。せっかく全財産をはたいて手術を受け、敵兵を惨たらしく殺すために軍に入ったというのに、これでは真逆だ。こんな結末は嫌だ。


『ですから、メスガキの真似をする事です』


医師の言葉がフラッシュバックする。あまりの馬鹿馬鹿しさから、また気恥ずかしさからそれを試した事は無かった。


「うわーッ!?」


銃弾が自機の装甲板を叩き、機体が大きく揺れる。大きな損傷は無かったが動揺から機体のコントロールを失ってしまう。ウォリアーは脳の神経活動を読み取り、機体の操作は殆ど念じるだけで可能となっている。そのためウォリアー操作の上手さはパイロットの身体能力に大きく依存していた。しかしその代償として、頭が混乱するとコントロールを失ってしまうという欠点を抱えていた。


『ですから、メスガキの真似をする事です』


医師の言葉がしつこくフラッシュバックする。やるしか、無いのか……?俺は意を決して口を開いた。


「お、おじさん達ひっどーい……」


裏声でそう発声してみる……何も起こらなかった。落ち着いた事で機体のコントロールは取り戻したが、身体能力が向上した感覚は無い。だが、頭の奥深くで何かがチリチリと火花を散らすような感覚を感じた。もう少しでな感覚。何だ、何が足りない?もっと真面目に真似をすれば良いのか?


「おじさん達ひっどーい♡」


ジリ、と火花が強くなったように感じる。あと少し、あと少しだ。敵機がとうとう自機を前後から挟もうとする中、何が足りないのか必至に頭を巡らせる。


メスガキとは何だ。年上の男性をナメ腐り誑かし、煽る存在。それが俺のメスガキ観だった。それは今出しきったように思える。……本当にそうか?そう疑問が浮かんだ瞬間閃いた。


「これだーッ!」


コンソールの「オープン回線」ボタンを電撃的に叩く!そうだ、俺がさっきやっていたのは狭いコクピットの中でおじさんを煽るという内向きの行動に過ぎなかった。必要なのはコミュニケーションだ。ナメ腐り誑かし煽るべき相手に言葉や行動が伝わらなければ、メスガキはメスガキたり得ない。メスガキは1人では成り立たないのだ!俺は閃きの高揚も手伝って先程よりもずっと情感たっぷりに言葉を発する。


「おじさん達ひっど~~~~い♡♡」


頭の中で何かがスパークし、繋がった感覚を得た。五感が研ぎ澄まされ、全身に力が満ちた。これがメスガキ。


「な、なんだァ?パイロットはメスガキ?」

「いや何か裏声っぽいぞ。気持ちわりィ、恐怖で頭でもイカれたか?」


敵兵は困惑しているようだ、俺だって逆の立場なら困惑する。だが今はその隙を突かせて貰う。俺は幾本もあるフットペダルを一流のピアニストが複雑なメロディーを爪弾くかの如く操作する。ウォリアーは人間に備わっていない器官――――スラスター等――――は思考ではなく自らの身体で操作する。そのため身体能力の向上は機動力の向上に直結する。


「何だコイツ!?急に動きが!」


複雑な機動で包囲を脱し、逆に1機の背後を一瞬で取る。そしてトリガーを引くように念じれば、ウォリアーが右手に構えたマシンガンから重金属弾の嵐が吐き出される。


「ぐわああああああああああッ!?」


装甲の薄い背面を撃ち抜かれた敵機が無重力の宇宙で踊り、爆発した。……それと同時、俺は力が失せていくのを感じる。メスガキ力が下がってきている。


「うわぁ~、きったない花火ぃ~~♡」


そう煽れば、力が戻ってきた。継続的にメスガキロールプレイをする必要がある。


「て、てめェ!よくもジーニーを!」


僚機を落とされたもう1機がマシンガンを乱射しながら向かってくる。先程戦い方を教えてやるとか言っていたヤツだ。


「おじさん、戦い方を教えてくれるんでしょ?はやく教わりたいなー♡ 弾の避け方はこれで良いんですかぁ~?」


乱数回避ではなく、的確なスラスター操作を行い最小限の動きで弾を避ける。視覚と処理能力が上がった事で、マシンガンの銃口を見て射線を読めるようになったからこそ出来る芸当だ。


「こいつ!」

「あー、ヴィブロブレードだぁ♡」


敵機はマシンガンを撃ち尽くすと、背中にマウントしていた長剣を抜いて突進して来た。ヴィブロブレード、高速振動によって掘削能力を上げたウォリアー用の近接武器だ。マシンガンの射撃で接近を阻止しようとするが、敵の実力は本物なのか軽々と避けてヴィブロブレードの間合いに踏み込んで来た。


「喰らえーッ!」

「こっわぁ~い♡ そのブルブル震えるのぉ、あたしのココに当てられたらどうなっちゃうんだろ~♡」


斬撃をひらりと躱しながらウォリアーの左手を股間に当て、内股にする。そして空いている右手でこちらもヴィブロブレードを抜いた。


「いきなりあたしで試すのは怖いからぁ、おじさんで試してみるね♡」

「やってみろ!」


一合二合と斬り結ぶが、こちらの斬撃の方が圧倒的に早い。ウォリアーは脳波で操作している限り自分が知覚出来る以上には速く動かせない。身体能力が限界まで引き上げられた俺が圧倒的に有利だ。


三合目で敵の切っ先を外に逸し、そのまま刃を滑らせて敵機の手を切断する。


「なっ」


敵機は即座に飛び退ろうとするが、手を失った事で脳波制御に一瞬齟齬が生じ、機動が遅れる。逃さない。


「えい♡」

「あああああああああああ!?」


俺はくるりと回したヴィブロブレードを敵機の股間に当て、真一文字に上に切り上げた。敵の絶叫がオープン回線に響き渡り、コクピットを両断するとそれが途絶えた。オーバーロードしたエンジンが爆発する前に敵機の右半身を蹴って飛び離れる。数秒後、両断された敵機の右半身と左半身がそれぞれ爆発した。


「え~、ヴィブロブレードって股間に当てると爆発しちゃうんだぁ~、こわ~い♡」

「なんだコイツ、ジーニーとマイクを殺りやがった!B小隊とD小隊こっちに来い、囲んで倒すぞ!エースだ!」


俺の戦闘に気づいた敵機達がわらわらと集まってきた。その数8機。それだけの数を割けるという事は味方はほぼ全滅か。だが俺はメスガキがそうする様にニヤリと笑い、震えるような仕草をウォリアーにさせる。


「きゃー、寄ってたかってあたしを囲んでどうするの、おじさん達?あたしどうなっちゃうんだろ~♡」

「煽ってやがるのかコイツ!?その余裕を引き裂いてズタズタにしてやるぜーッ!」


かくして8対1の戦闘らんこうが始まった。


……3分後、俺のウォリアーは絞り尽くされた竿役の如く漂う敵機の残骸の中にただ1機だけ、五体満足で浮かんでいた。


「ヒィィ、化け物だ!一時撤退!」

「メスガキだ、メスガキにやられた……!」


敵機は俺に恐れをなしたのか退いていった。俺のウォリアーはマシンガンの残弾ゼロ、ヴィブロブレードの刀身も半壊していた。ギリギリの戦いだった。生き残った味方が近くによって来て声をかけてきた。


「おいクバーラ、お前こんなに強かったのかよ!助かったぜ!」

「ええ~、そんな事無いよぉ♡」

「は?」

「すまん何でも無い」


急いで地声で弁明する。オープン回線が届く範囲は狭く、味方には俺のメスガキロールプレイは届いていなかったようだ。知られるのはあまりに恥ずかしいので必死に取り繕い、何とか流す事に成功した。


「……とりあえず帰投しようぜ、増援が来たらコトだ」

「そうだな、もうタマタマもねぇ」

「は?」

「いや何でもない」


飛び出そうとする内なるメスガキを必死に抑えながら、俺たちは帰投した。こうして俺の初陣は華々メスガキしく終わった。

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