第12話 札束(魔力)で殴るクエスト攻略
そうだ、クエストに行こう。
そんな京都に行くみたいなノリで始まってしまった初クエスト。
そんなわけで俺たちはギルドの掲示板を眺めるふりして、ギルドに佇む美少女を探しに勤しんでいた。
ちなみに、俺の冒険者のやる気もとい、チーレムの望みは、俺のステータスが案外弱いことをエイルに告げられ、絶賛萎えている途中である。
能力値の高いSが2つもあったのに、なにゆえ弱いのかという理由は置いておいて…
『お前、またナンパ仕掛けてんのか?』
「ナンパじゃない。ただ眺めているだけだ」
『死ね』
俺が死んだら多分お前も死ぬと思うんだが…
さて、そんなことも置いておいて…
「エイル。お前の《図鑑》ってモンスターの情報も入手することはできるのか?」
モンスターの知識が全くと言っていいほどない、俺にとっては、エイルの《図鑑》の能力が重要になってくる。
…雪なら…なんか、適当に殴っても勝てそうだ。雪の攻撃力は俺だけでなく、スキルにも、神様にも、総勢3人のお墨付きだからなぁ…
「はい!私のスキルは、モンスターに対しては、見せるだけでその能力・ステータスを覗き見ることができます」
さすが、有能な冒険者である。
「んじゃあ、こいつ…とかどうだ?」
俺は、クエストボードを後ろ指で指し示す。
エイルは、何故か怪訝な表情を示した。
「…そいつ、ですか…そいつは、防御力が異常に、高くですね…動きは緩慢ですが、攻撃力も高い、非常に厄介なモンスターですよ?結構貧弱なイアさんのステータスでは厳しいのでは…」
エイルのその言葉に、俺は悩むでもなく、笑った。
正直、報酬が高そうだったから選んだクエストだったが、エイルの説明で、このクエストボスと、俺の取ったスキルの相性が良いことが判明した。
「ふっ…俺は、別に防御力も、攻撃力も関係ない戦いだ。任せろ。俺に考えがある」
『「ふ、不安しかねぇ…」』
♣︎
『「不安だと思っていたら、やっぱりかよ!」』
とあるクエストで対象に出会うなり、雪とエイルは大声を上げた。
雪からは、散々主導権を奪われそうになり、エイルからは「私は何度も言いましたからね。あなたが死んでも、私は逃げます!」と、散々保険をかけられて、四苦八苦して、訪れたとある森。
そう、俺たちが街に行く過程で迷い込んだ、森である。
ある程度整備された木漏れ日の差し込む森の中。
俺たちは1匹のクマと睨みを効かせていた。
お互い間合いを取り合い、ジリジリ…
目の前のクマは、ツキノワグマの色を反転させたような、白い毛に、首元に黒い月の形をした刺青を入れている。
目が赤く、その目は俺を仕留めることだけを考えているのか、俺を凝視して動くことはない。
そんな奴の情熱的な双眸に、恋の予感を覚えながらも俺は異世界初となる魔法を唱えた。
「《
恋の予感を覚えた相手に挨拶代わりの即死魔法。
ちなみに、転売ヤーから手に入れた、唯一…いや2つ目のスキルである。
俺の突き出した手から、小型の魔法陣が現れ、そこから、紫色の炎が出現し、クマに向かっていく。
森のクマさんは大袈裟に飛び退くことで歓待してくれた。
何故にこんな行動を取っているのかというと…
普通、人間のステータスは、強みがあり、その反面、多大な弱点があるらしい。
そんな中、俺の強みは『魔力量』『スピード』である。
だが、魔力量、それは、本来なら『魔法才能』と両方あって御の字という項目なのだ。
単純に言えば、俺の魔力が多かったとしてもそれを活かせる魔法の才能がないため、強みである魔力量は完全に、『無・駄!』ステータスということらしい。
スピードも同じくして、俺は攻撃力も、魔法もあんまりだから敵に出会って、逃げるしか使い道がない!
そんな俺が編み出した『ヒット・アンド・アウェイ』戦法。
即死魔法を相手がくだばるまで打ち続け、攻撃しに来たら即撤退。
ちなみにこの世界での即死魔法は、魔法の対象範囲クソ雑魚。即死が発動する確率もクソ雑魚。名実ともにロマン技。しかし必要魔力がとんでもなく、低い。
俺の魔力に、エイルのバフによりほとんど無限大。
ニートからパチプロにランクアップした俺の初陣、とくとご覧あれ…
「行くぞ、クマ公、賭け事に逃げはねぇ。俺は、ドル箱を前に逃げるわけがねぇ」
『決め台詞みたいに言っていることが最低すぎる…』
クマのターン、拳を振りかぶるが、雪の拳を数千と交わして来た俺には、その動きがスローに見える。
俺は、こいつの攻撃は当たらない!
つまりこの勝負、俺の
『一応兄貴がこれ以上パチンカスになる前にさっさと変われ!』
「悪いな…アレは俺とあいつの、男同士の勝負だ…邪魔することは出来ねぇ」
「独り言のようですが…あのクマは性別メスです」
『ついでに言えば、お前も女だ。ということで、変われ』
断る。
クマのターン。殴る。俺は森の樹木を盾にして軽々と回避した。
「《
狂ったかのように、即死魔法を撃ち続ける俺は、まさに狂気といったところか…
見れば、パーティメンバーだけでなく、クマすらも若干引いているように見える。
若干可哀想に見える絵面だが、…だが、やめない!
「俺はお前がくたばるまで、即死魔法を、やめない!」
『お前がくたばれ』
さて、妹の辛辣なコメントをもらいながらも、クマの緩慢な動きを見極め、ピンポイントで魔法を打ち込む。
さすがは元SPSの民、大体が百発百中で魔法弾がヒットしてくれる。
問題はそれを全く意に解してくれないクマさんなのだが…寂しすぎて死にそう…
最初の方は逃げてくれたのに、段々と自分から突っ込んでくるようになった。情熱的なアプローチ申し訳ないが、俺はもう妹という心に決めた人がいるので、丁重にかわさせていただく。
「ガァァァァァァァァッッ!!」
クマが痺れを切らして襲いかかるが、軽快なステップで回避。
スカートのせいで動きづらすぎてラッキーパンチラが発動しているのはご愛嬌ということで____
♣︎
「《
俺はクマさんの四つん這いの体にライドオンし、鞭打ちの代わりに即死魔法連打。
そんな俺の愛の鞭に、クマは答えず、ただひたすらに突進する。
どうやら俺の愛が足りなかったらしい。全く、扱いに困る淑女である。
ちなみに、エイルは俺にありったけのバフ魔法をかけて、安全圏まで逃げ込んだ。
彼女曰く、バフをかけた拳で殴っても、そんなにダメージは通らないそう。ならば、私は逃げると言って去っていた。
「ガァァァァァァァァッッ!」
俺を振り落とし、転がった隙に拳を振り上げるが、隙だらけの体に右ストレート。
あまり効いてはいないが、ついでにクマさんの毛の感触を確かめ、俺の「ビミョー」という感想にブチギレた。
『いい加減可哀想になってくる…』
クマが怒り散らかし、そこらの樹木をガンガン殴り始める。
「鬼さん、こちらー!手の鳴る方へー」
俺はとある木に目星をつけて、その木を薙ぎ倒させて、クマさんを下敷きにさせた。
「ァァァァァァッッッッ!!」
悲鳴をあげるクマさんの前に、邪悪な笑みを浮かべた俺は立ち塞がり…
「《
「ァァァァァァッッ____………ガァァァァァァァァ…」
木の下敷きになったクマに、何度も即死魔法を投げかけ、何百回目…
ついに、クマさん《この台》は、
「俺の、
『可哀想』
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